五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その17)
上杉先生のKT88プッシュプルアンプはモノーラル仕様、
伊藤先生のEL34プッシュプルアンプはステレオ仕様。
まずこの違いがある。
この違いは、製作難度の違いに直結している。
けれど上杉先生のアンプと伊藤先生のアンプの内部をみたときに感じたことの違いは、
そういうことに関係しての違いではなかった。
伊藤先生の真空管アンプは、1977年ごろ、
無線と実験に発表されているEdプッシュプルアンプ(固定バイアスのほう)を見ている。
このアンプに、一目惚れした。
このEdのアンプはモノーラル仕様だった。
佇まいに、それまで見てきた自作の真空管アンプとは別モノなのを、中学生の私でも感じた。
その後に、さらに多くの真空管アンプを見てきたが、いまもこのおもいはかわらないどころか、
より強くなっていくばかりだ。
それでもEdのアンプは、もしかすると十年後、二十年後には、
同じモノが作れるのではないか、そうおもわせてくれるところもあった。
EL34のアンプは、まったくそういうところがなかった。
記事そのものの情報量は、圧倒的にサウンドボーイ掲載のEL34のアンプの方が多い。
無線と実験掲載のEdのアンプのほうは、モノクロの、細部のはっきりしない写真だった。
EL34のアンプは、丹念に読み、写真を見ていけば、学ぶことは実に多い。
気づくこともけっこうある。
記事では、伊藤先生は息をするようにワイアリングしてハンダ付けされているように見える。
日々の営みとして、あのアンプが完成されていく。
その境地に達することができないことを、そのときすでになんとなくわかっていたのかもしれない。