続・再生音とは……(歴史の短さゆえか・その3)
1980年代なかごろだったか、
料理評論家の山本益博氏が「考える舌」ということばを使われた。
少し曖昧な記憶だが、
食通といわれるだけの舌を生むには、親子三代の時間が必要。
自分は、そういう環境に生れ育っていないからこそ、考える舌を身につける──、
そんな趣旨のことだった。
山本益博氏の考えに完全に同意するわけではないが、なるほど、と思った。
そういう側面はたしかにあるように感じる。
このことをオーディオにあてはめれば、親子三代オーディオマニアということになる。
1980年代では、親子三代オーディオマニアはいなかったかもしれない。
井上先生は親子二代オーディオマニアだった。
ほとんどの人が一代かぎりのようだった。
考える舌は、オーディオマニアならば考える耳なのか、と考えた。
誰もが考えつくことを考えたが、
親子二代オーディオマニアの井上先生はしきりに「頭で聴くな、耳で聴け」といわれていた。
頭で聴くな、とは、音を聴いている時に考えるな、ということだ。
考えてしまうからこそ、ちょっとしたことで判断を間違ったり,だまされたりする。