瀬川冬樹氏の「本」(つくりながら思っていたこと)
瀬川先生の「本」づくりは、部屋にこもりっきりでやっていた。
部屋にはテレビもラジオもない。
特に用事もなければ出かけることもない。
つまり、しゃべる、ということが極端になくなった生活を送っていた。
心地よい季節のときだと窓を開けているから、外から人の声がしてくる。
でも、もうこんな寒い季節になると窓も開けない。人の声もほとんどはいってこない。
しゃべらない、人の声もほとんどきかない生活は、
無人島でひとりで生きているのに通じるところがあるような気がしてきた。
いまは見かけなくなったが、一時期、音楽雑誌では「無人島にもっていく一枚のレコード」とタイトルの記事を、
わりと定期的に、どこの雑誌もやっていた。
人によって、一枚のレコードはさまざま。
当時は、その記事を読みながら、私なら、何をもっていくだろうと考えても、
思い浮ぶものはなかった。無人島へ、という質問が、あまりにも漠然と感じられたためもあった。
いまこんな生活をしていると、無人島にひとりぽつんととり残されたら、
やっぱり無性に聴きたくなるのは、人の声だと思うようになってきた。
歌のレコードをもっていきたい。
まだ誰のレコードにするかは決めかねているけど、歌のレコードしかないと思っている。