トーキー用スピーカーとは(その16)
(その15)で、「フロリダ」というダンスホールのことを書いた。
時代が違うとはいえ、すごいことだと思いながらも、
これはウェスターン・エレクトリックだからできたことなのか、とも考える。
トーキー用システムとしてアメリカにウェスターン・エレクトリックがあり、
ドイツにはシーメンス(クラングフィルム)があった時代だ。
「フロリダ」の経営者は、なぜウェスターン・エレクトリックの装置を選んだのだろうか。
前回引用した会話からわかるように、ウェスターン・エレクトリックのレンタル代金は高価だ。
昭和四年ごろでは、ウェスターン・エレクトリックしか選択肢がなかったのか。
シーメンスのトーキーはどうだったのだろうか。
仮にシーメンスのトーキーが日本にあったとして、
「フロリダ」の経営者はどちらを選んだのだろうか。
どちらのトーキーがいい音なのか、優れたシステムなのかではなく、
シーメンスのトーキーだったら、ダンスホールに大勢の人を呼べただろうか。
15銭の入場料で、毎月3000円のレンタル料をウェスターン・エレクトリックに払う。
それだけの人が「フロリダ」に集まって来ていたわけだ。
あくまでも想像でしかないのだが、シーメンスのトーキーだったら、
そこまでの人は集まらなかったようにも思う。
どちらも同じ目的で開発されたスピーカーであり、システムである。
スピーカーの構成も大きくは違わない。
けれど、出てくる音は、はっきりと違い、
その違いはトーキーとして映画館で鳴らされるよりも、
それ以外の場所、ダンスホールで鳴らされる時に、よりはっきりと出てくるのではないのか。