トーキー用スピーカーとは(その15)
ステレオサウンド 1977年の別冊「世界のオーディオ」のALTEC号に、
アルテック昔話という、池田圭、伊藤喜多男、住吉舛一の三氏による座談会が載っている。
その中に、当時のウェスターン・エレクトリックがどういうレンタルをやっていたのかが話題になっている。
昭和四年頃の話のようだ。
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池田 その頃のウェスタンとの契約が15万円ですよ。貸してやるから15万円出せというわけで、いまのお金にしたら幾らになるんただろう。
伊藤 しかも映画館のサービスが毎月4千円から1万円ですよ。
住吉 だから、ちょっとした所では使えなかった……。
池田 その頃、「フロリダ」というダンスホールがあって、そこでは15Aホーンと555のユニット、それにアーム、プレーヤー、アンプ一式をウェスタンから借りて、毎月3千円はらっていた。あの「フロリダ」はわれわれの情熱をかきたてたね、3千円の電気蓄音機代というものをはらってね。
住吉 3千円あると、ちゃんとした家が建ちましたからね。最初にうんと取られて、その上3千円でしょう。それを15銭で躍らせて経営が成り立ったんだから……。
伊藤 とにかく、555をはじめとするウェスタンのシステムに、みんなおどろき、ほしがった時代ですよ。
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現代とは貨幣価値が大きく違った時代のことだからすぐにはピンとこないが、
毎月のサービスにかかる金額でちゃんとした家が建つということは、そうとうな金額である。
いまダンスホールの入場料がいくらなのか知らないが、15銭の時代の毎月三千円のサービスにかかる金額、
レンタル時に必要な十五万円は、とほうもない金額ということになる。
それでも、それだけの金額を払っても経営が成り立つということは、
音の価値が、いまとは違っていたということでもある。
それも貨幣価値のように物価が推移してきたから……、というようなものではなく、
なにか根本的に音の価値が、当時とそれ以降とでは違っているように感じる。