オリジナルとは(モディファイという行為・その2)
CDプレーヤーが登場して一年ほど経ったころだったろうか、
井上先生が試聴中にあることを指示された。
実際にやってみると、こんなことでこれだけ音が変化するのか、と驚くほどだった。
いまでは多くの人が「聴感上のS/N比」という。
けれど、この人はほんとうに聴感上のS/N比が良くなった音がわかっているのだろうか、
そう思ってしまうことがないわけではない。
聴感上のS/N比が良くなった具体的な音を知らないまま、
なんとなくの想像で「聴感上のS/N比が……」を使っているような気もする。
この時の井上先生の指示による音の変化は、
はっきりと聴感上のS/N比が良くなった例である。
何をやったかというと、CDプレーヤーの天板をとり、
フロントパネルにあるヘッドフォン端子へのケーブルを引き抜いただけである。
この頃の国産のCDプレーヤーの大半は、
ヘッドフォン端子への配線はどこも同じようなものだった。
アナログ出力回路からフロントパネルのヘッドフォン端子まで、
プリント基板の上をケーブルを這わせていた。
このケーブルの両端はコネクターになっているからハンダゴテを使わずに抜き差しできる。
このケーブルを抜いて、また天板を取り付けての試聴だった。
ヘッドフォン端子へのケーブルがあるかないか、
たったこれだけの違いなのに、出て来た音の変化は少なからぬものがあった。
プリント基板のパターンにヘッドフォン端子への配線が描かれているモデルでは、
同じことはできないけれど、当時の国産CDプレーヤーはけっこうそういうモノが多かった。