日本のオーディオ、これまで(その4)
アメリカで1970年代におこったMC型カートリッジの再評価は、
半導体アンプの進歩により優秀なヘッドアンプの登場と、
日本製のMC型カートリッジがあってのことだといわれている。
そうであろう。
けれど日本製のMC型カートリッジが評価されたのは、
日本製のMM型カートリッジが輸出できなかったことも遠因のように考えられる。
日本には当時多くのMM型カートリッジがあった。
優秀なモノもあった。けれどこれらはすべて海外に輸出できなかったのは、
MM型カートリッジの特許をシュアーとエラックを取得していたからである。
日本では特許が認められなかった。
これには理由があって、日本では各社MM型カートリッジを開発・製造・販売することができた。
シュアー、エラックのMM型カートリッジの構造と、
日本製MM型カートリッジの構造には、ひとつ大きな違いがある。
つい先日ステレオサウンドから出た「MCカートリッジ徹底研究」。
このムック後半の「図説・MC型カートリッジ研究」におそらく載っているはずの図を見てほしい。
見開きで、右ページにMM型カートリッジの構造図、左ページにはMC型カートリッジの構造図、
それぞれレコードの溝をトレースしている。
MM型カートリッジの構造図ではカンチレバーがありその奥にマグネットがあり、
このマグネットの周囲にダンパーがある。
そしてこれらを囲むように、コイルが巻かれたヨークが四方に配置されている。
つまりヨークが形成しているのは四角形なのに対し、
マグネットの形状は円筒形である。
誰もがなぜマグネットを四角にしなかったのかと思うだろう。
事実、シュアー、エラックのマグネットは四角になっている。
円筒形のマグネットは日本のMM型カートリッジということになる。
これは推測すぎないのだが、おそらくマグネットの形も特許に関係しているのだろう。
MM型カートリッジの発電に関する基本特許は日本では認められなかったけれど、
細部に関する特許は認められていたのかもしれない。
少なくともなんらかの都合で、日本製のMM型カートリッジは円筒形にせざるをえなかったのではないのか。