598というスピーカーの存在(その29)
昔から価格的にアンバランスな組合せはやられていた。
小型で安価なスピーカーシステムを、物量投入のセパレートアンプをもってきて鳴らすとか、
そういうことは試聴室という、いわば実験室の中でやってきていた。
それが最近ではアクセサリーにまで、そのことが及んでいる。
たとえば小型で安価なスピーカーシステム。
スタンドが必要になるわけだが、そのスタンドにスピーカー本体の価格の10倍、
ときにももっと高価なスタンドを用意して鳴らす。
それで音が素晴らしく良くなった、と大騒ぎする人がいる。
スタンドだけではない、スピーカーケーブルについても同じことをやる人はいる。
極端なアンバランスをことをやれば、音は大きく変る。
変って当然といえる。
でも、そのこと自体は、人にすすめるようなことだろうか、と思う。
あくまでも試聴室という空間の中でのことであったり、
個人が、その人のリスニングルームで試してみる分には、けっこうなことだ。
気心の知れた仲間たちと、そういう実験をしてみるのは、楽しい。
オーディオマニアは、どこかアンバランスなところを持っているともいえる。
でも、だからといって、このスピーカーの本領を発揮させるためには、
このスタンド、このケーブルが必要ですよ、と言ってしまうのは、もういただけない。
もちろん人それぞれだから、
スピーカー本体よりもずっと高価なスタンド、ケーブルを購入する人もいる。
いるからこそ、そういう商売が成りたっている。
1980年代後半、598のスピーカーシステムに対して、
そんな高価すぎるスタンドがあったら、もっと容易に鳴らせた可能性はあるだろう。
けれど、そんなモノは、どこも出さなかった。
598というスピーカーシステムそのものはどこかアンバランスなところを内包していたけれど、
まだ当時は常識の範囲内でオーディオという商売が行われていた、といえる。