598というスピーカーの存在(その28)
ステレオサウンドの試聴室にはいくつかのスピーカースタンドがあったが、
598のスピーカーシステムのウーファーとスコーカーの中間が、
椅子に坐っている聴き手の耳の高さにくるような、そんな高さのあるスタンドはなかった。
そういうスタンドを使って鳴らすことになる。
その状態でも、井上先生の使いこなしによって、
これが598のスピーカーか、というくらいの音では鳴ってくれる。
でも、その状態であっても、耳の高さをウーファーとスコーカーの中間位置にくるようにすれば、
もっとバランスのいい音で聴ける。
ならば特註でもっと高さのあるスタンドを用意したらいいのか。
よくなるかもしれないし、そうでもないかもしれない。
いうまでもなくスピーカーは置き方によって音は変る。
同じ位置、同じ振りであっても、床からの距離が変れば音は変る。
スタンドが高くなれば、床からとの距離が離れるわけだから当然変る。
それにあの頃の598のスピーカーシステムは、前にも書いたように重量バランスがよくない。
スタンドの幅と奥行きが同じで、高さのみ高くなったとしたら、物の道理として不安定になる。
そこに重量バランスの悪い、しかも重量物がのる。
ただでさえスタンド上のスピーカーの前後位置の変化によるスタンドへの荷重の掛かり方の変化で、
音はかなりシビアに変化するのが、スタンドをそのまま高くすればよりシビアになるであろう。
ならばもっと幅と奥行きを十分にとり安定度の高いスタンドを用意すればいいわけだが、
そういうスタンドは当時はなかったし、もしつくればけっこうな金額となる。
598のスピーカーは大量生産されてこその値段であったが、
そんな頑丈なスタンドをどこかに頼んでつくってもらったとしたら、
スピーカー本体と同じか高く付くことにもなる。