拡張と集中(その5)
現代のスピーカーシステムと古き良き時代のスピーカーシステムと比較して、
古き良き時代のスピーカーシステムがはっきりと優っていることがある。
能率である。変換効率という能率である。
古き良き時代のスピーカーシステムを鳴らす当時のアンプは、今の基準からすればすべて小出力アンプとなる。
マッキントッシュのMC275の75W+75Wが大出力と呼ばれていたし、
MC275ですら1962年に発売されているのだから、
それ以前、モノーラル時代まで遡れば、MC275の半分以下の出力でも大出力であった。
だから古き良き時代のスピーカーシステムの能率は高く、出力音圧レベルは100dB/W/mが珍しくなかった。
とにかく高能率であることが、まずスピーカーには求められていたからだ。
そのこともあってか、いまでは高能率のスピーカーは古いスピーカーであり、
性能的に劣っているスピーカーということになっている。
けれどスピーカーは電気信号を音に変換する変換器であり、
変換器である以上、変換効率もまた重要な性能のひとつである。
ならば、高能率のスピーカーは、この点において高性能のスピーカーということになる。
にも関わらず、いまではアンプの出力がほぼ無制限に得られる感覚があるため、
高能率であることは、どうでもいいことのように扱われつつある。
特に現代のスピーカーシステムを使っている人の多くは、
出力音圧レベルという項目はさほど気にしていないようだ。
この項の(その4)で、
技術の進歩は拡張といいかえたほうがしっくりくる、と書いた。
ならばとにかく高能率であることを目指したスピーカーを古いといって切って捨てることもできるけれど、
古き良き時代のスピーカーは、集中というアプローチがとられたモノとして認識すべきではないのか。
新しい/古い、ではなく、拡張/集中なのではないか。