岡俊雄氏のこと(その4)
岡先生とはどういうひとだったのか。
黒田先生の文章からいくつかひろってみよう。
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あるとき、岡さんのお宅で、バーナード・ベレンソンの「ルネッサンスのイタリア画家」という本をみせていただいていた。その本のことはしってはいたが、実物をみるのははじめてであった。いい本であった。ほしいと思ったが昭和三六年にでている本であるから、手に入れるためには古本屋を丹念にみてまわる必要があった。それから数日して、岡さんから電話をもらった。高田馬場のさる古本屋に、新本同様の状態のベレンソンの本があると、ぼくに教えて下さるための電話であった。さっそく出かけて買ってきたのはいうまでもない。値段も思いのほか安かった。岡さんという人はそういう人である。ご自身も好奇心が旺盛であるから、他人の好奇心に対しても理解が深い。
しかし、そのベレンソンの本のときは、ぼくが雑事にまぎれて古本屋まわりをできないでいるうちに、岡さんに先を越されて、岡さんの親切に感謝し、岡さんの熱意に感激しながらも、恥しかった。岡さんのすごさをあらためて思わないではいられなかった。
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岡先生は1916年、黒田先生は1938年の生れであるから、
22の歳の開きがあり、親子ほどの、といってもくらいである。
しかも岡先生は神奈川・藤沢にお住まいだった。
黒田先生は東京・東中野だから、高田馬場まではわずかな距離である。
藤沢と高田馬場はけっこう離れている。
にもかかわらず、岡先生は、ご自身はすでに所有されているベレンソンの本を、
黒田先生のために古本屋まわりをされている。
それも数日しか経っていないのに。
黒田先生が「恥しかった」と書かれるのも、わかる。
「岡さんのすごさをあらためて思わないではいられなかった」と書かれたのも、よくわかる。