PCM-D100の登場(その4)
ソニーのPCM1を、業務用以外として、
つまりオーディオマニアが趣味として購入した例はいったいどれぐらいなのだろうか。
極端に少ないような気がする。
録音を仕事としている人ならば、PCM1の購入も検討するだろうが、
そうでなければPCM1を買っても、ソニーのビデオデッキも同時に購入しても、
自分で録音しないかぎり、ミュージックテープは出ていなかったはずだから、
音を聴くことはできない。
プログラムソースを買ってきてかける、という行為は、
PCM1の世界にはなかった。
自分でもう一歩の行動をして、はじめてその「音」が聞ける。
そういうシステム(機器)であっても、
1977年当時、デジタルの音を聴きたければ、
PCM1とソニーのビデオデッキを購入する以外に手はなかった、といえる。
つまりデジタルという、当時の最先端の音(それがいい音なのかどうかは別問題としても)を聴きたければ、
PCM1を買うしかなかった。
このことは、つまりはオーディオの世界・歴史において、
最新技術による音を聴きたければ、まずはテープを録音媒体とするものが先に登場する、ということでもある。
ステレオ録音が登場してきたときも、そうだった。
アナログディスクのステレオ化がなされる前から、
テープの世界ではすでにステレオ録音・再生が実現されていた。
もっともこれは正確にいえば、実用化こそ無理だったけれど、
イギリスのブルームラインがすでに1930年代に45/45方式のステレオ録音システムを考え出している。
ビーチャムによる録音が、実験的に行われて、
そのSP盤は1980年代後半に、イギリスのレーベル”Symposium”から復刻された。
実際に、この復刻盤を聴いているけれど、
聴けば、なぜステレオ盤の登場が20年以上後になったのかもわかる。
こういう例はたしかにあるけれど、
ステレオ録音・再生が実用化といえるレベルに達したのは、テープにおいて、である。