オーディオ機器の調整のこと(その4)
マランツの管球式パワーアンプで出力管(EL34)を交換したら、
ACバランス、DCバランスとともに出力管それぞれのバイアスの調整が必要となる。
マッキントッシュの管球式パワーアンプで出力管(MC275ならばKT88)を交換しても、
ACバランス、DCバランス、出力管のバイアスの調整は不必要である。
なのだが、私は五味先生の、この文章をおもいだす。
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もちろん、真空管にも泣き所はある。寿命の短いことなどその筆頭だろうと思う。さらに悪いことに、一度、真空管を挿し替えればかならず音は変わるものだ。出力管の場合、とくにこの憾みは深い。どんなに、真空管を替えることで私は泣いてきたか。いま聴いているMC二七五にしても、茄子と私たちが呼んでいるあの真空管——KT88を新品と挿し替えるたびに音は変わっている。したがって、より満足な音を取戻すため——あるいは新しい魅力を引出すために——スペアの茄子を十六本、つぎつぎ挿し替えたことがあった。ヒアリング・テストの場合と同じで、ペアで挿し替えては数枚のレコードをかけなおし、試聴するわけになる。大変な手間である。愚妻など、しまいには呆れ果てて笑っているが、音の美はこういう手間と夥しい時間を私たちから奪うのだ。ついでに無駄も要求する。
挿し替えてようやく気に入った四本を決定したとき、残る十二本の茄子は新品とはいえ、スペアとは名のみのもので二度と使う気にはならない。したがって納屋にほうり込んだままとなる。KT88、今一本、いくらするだろう。
思えば、馬鹿にならない無駄遣いで、恐らくトランジスターならこういうことはない。挿し替えても別に音は変わらないじゃありませんか、などと愚妻はホザいていたが、変わらないのを誰よりも願っているのは当の私だ。
だが違う。
倍音のふくらみが違う。どうかすれば低音がまるで違う。少々神経過敏とは自分でも思いながら、そういう茄子をつぎつぎ挿し替えて耳を澄まし、オーディオの醍醐味とは、ついにこうした倍音の微妙な差異を聴き分ける瞬間にあるのではなかろうかと想い到った。数年前のことである。
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KT88を買ってきて差し替えれば、MC275は何の問題もなく動作する。
けれど音が、それまでとまったく同じかというと、そんなことはありえない。
音が変らなければ、五味先生だってKT88を必要な本数(四本)だけ購入すればすむ。
なのにその四倍の本数を買ってきて、差し替えては音を聴かれていたわけだ。
十六本のKT88の中から四本を選び音を聴くわけだが、
同じ四本でも、どのKT88をLチャンネルの上側にもってきて、どれをペアにするのか。
Rチャンネルの上側にはどれを選ぶのか。そしてペアにするのはどのKT88なのか。
十六本のKT88の組合せの数を計算してみたらいい。
その音を聴いて判断していく作業──、これも「調整」である。