手がかり(その12)
とにかく私は最初のオーディオの手がかりとして、グラシェラ・スサーナの歌を頼りにした。
そしてグラシェラ・スサーナの歌が情感をこめて歌っている音で鳴れば、
その時はグラシェラ・スサーナの歌だけでなく、バックの楽器もそれらしく響いてくれるようになっている。
そうやって、すこしずつ手がかりを増やしていった。
このことにすこし遅れて考えたことがある。
もうひとつ、別の方向での手がかりとなるものがないのか、ということだった。
例えばスピーカーケーブル。
その理想は存在がない、ということになる。
そういう考えにたてば、スピーカーケーブルをいくつかの長さのものを用意する。
5m、3m、1.5m、1m、50cmというふうに、同じケーブルで数種類の長さによる音の違いを聴く。
このとき長いケーブルよりも短いケーブルの音が理屈としてはいい音になっているわけだ。
オーディオは理屈にあわないことが起ったとしても、
同じスピーカーケーブルで5mと50cmと、このくらい極端に長さが違っていれば、
まず50cmよりも5mのスピーカーケーブルの場合が音がいいということは、まずありえない。
そんな仮定を立ててみた。
この考えでは、例えば信号系に直列にはいるコンデンサーでは、
直結の音(コンデンサーなしの音)を基準として、
それに近い音を出してくれるコンデンサーがいい、ということになる。
オーディオをやり始めたばかりのころ、こんなことを考えていた時期がある。
そのときは間違っていない、と思っていた。
けれど少しずつ経験を積んでいくと、この考えは必ずしも正しいばかりとはいえないのではないか、
そう思いはじめてきた。