ハイ・フィデリティ再考(ふたつの絵から考える・その1)
目の前に造花がある。
その造花をふたりの絵描きが描いていく。
ふたりとも高い技術をもっている。
絵を描く技術の優劣はつけがたい。
ひとりの絵には、造花が造花として描かれていた。
もうひとりの絵には、ほんものの花を見て描かれたような花があった。
ふたりの絵描きのどちらの絵が、High Fidelityといえるだろうか。
目の前にあったのは造花である。
花弁も葉も茎も、本来の植物とはまったく異る素材を使ってつくられている。
どんなに精巧につくられていても、造花は造花であるのだから、
その造花を忠実に描くのであれば、その絵に描かれたものは見る者に造花であることを意識させなければならない。
そうもいえる。
もうひとりの絵描きによる絵のように、造花のもととなったほんものの花を見る者に意識させるのは、
その意味では忠実ではない、忠実性の低い絵ということになる。
そうもいえる。
どちらも造花を描いた絵であることに変りはない。