広告の変遷(ソニーのこと・その2)
そのSS-G7の広告に載っていた文章である。
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わが家の応接間にG7を持ち込んだ。聴取条件の定石は少しく無視したが、調度品との関連や低音のでかたを考え、一間はばのサイドボードの両側に設置することとした。このサイドボードは、机や小物箱とともに三越製作所で多少奮発して購い求めたもので、気が向けばぬか袋で拭いて大切にしている。同じ丁寧さで、新たに横に並べたG7の天板や側版も拭いている。しかし拭くたびに思うことは、しっとりした色合いとつやのでかたはサイドボードの方が上であり、見比べると、G7は仕上げが少しお粗末な感じがする。
スピーカーはよい音がだすのが身上であるから、外観、それも側版のつやまで考える必要はなかいと言えばそれまでだが、一台十万円以上のスピーカーであってみれば、時には丁寧に拭いてみたい気を起こすようなものであってもいいのではないか、と自問自答してみた。そして木材の質や仕上げを変えたら、値段も多少よいが、音もさらによいG7デラックス版ができ上るのではないかと考えた。
それで、上家具に用いられる、キャビネット材としても好適なサクラやナラを素材として、同じ寸法でシステムを組んでみたが、G7にみるバランスのよい音はえられなかった。また板の厚みや補強の方法を変えてみたが、やはり大同小異であった。いろいろの試みから分かったことは、納得できる音質をうるには、キャビネットをいじるだけではだめで、それとスピーカーユニットのうまいとり合わせが必要のようである。そういう目でG7を改めて眺め直してみると、それらのマッチングが実にうまくとれていることが分かった。あるときうちの技術者に「限られた時日に数階の試作でここまでまとめ上げた努力は多とするが、それは多分に僥倖であったと思う。」といったら、そんなことはないと目をむいておこられた。
いうまでもなく、いかに堅い材料を用い、うまく補強を施しても、キャビネット自体は振動板の振動に応じて振動する。それからでる音の大きさは、振動板からの音の十分の一にもみたないが、音の残り方、音のひびき方はその十倍にも達する。このひびきがスピーカーの音質形成に大きな役割をもっており、このひびきをユニットの音にいかにうまく整合し、添加するかが、音作りの要諦である。音づくりに技術や経験をベースにするのは勿論であるが、ときとしてその上に勘や飛躍が必要なのも、うなずけることである。
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中島平太郎氏が書かれている。
このSS-G7の広告をみて、ソニーとはこういう会社なのだ、とおもっていた。
ここでの、こういう会社、というのは、いい意味での「こういう会社」である。
この広告から30年以上が経った。
さまざまなことがらが変っていき、ソニーもずいぶん変ったようにみえる。
もうSS-G7を見かけることもなくなった。
最後にSS-G7を見たのはいつの日だったのか、それさえも思い出せないほどずっとみていない。
でも、この広告とともにSS-G7を、私は忘れることはないであろう。