598というスピーカーの存在(その1)
私がステレオサウンド編集部で働いていたのは1982年1月から1988年12月末までのまる7年。
1980年代のほとんどをステレオサウンドという場所で過ごしてきたわけで、
この1980年代のオーディオには、1982年のCDの登場というひじょうに大きな出来事があり、
その他にも1980年代ならでは、とはいえることがいくつかある。
そのひとつとして、ここでふり返ってみておくべきことだと思うのは、
国産メーカーによる59800円(1本の価格)のスピーカーシステムの流行である。
価格が59800円だったため、598(ゴッキュパッ)のスピーカー、とか、
もっと略して598(ゴッキュッパッ)とも呼ばれていた。
この598の流行の最初は、オンキョーだといわれている。
3ウェイのブックシェルフ型。
こう書いてしまうと、これといった特徴のない製品のように思われるかもしれないが、
1980年代、598のスピーカーシステムにかける、各メーカーの力の入れ方は凄まじい、といってもいいほどだった。
オンキョーの3ウェイ・ブックシェルフ型が売れた。
かなりのヒット作になったようで、それに続けとばかりに、国産他社からもいわゆる力作が登場しはじめ、
もっとも激戦の価格帯となっていく。
598のスピーカーシステムは、そのほとんどがブックシェルフ型、
しかも3ウェイで、トゥイーターはハードドーム型、スコーカーはハードドーム型もしくはコーン型だった。
エンクロージュアの外見寸法もほぼ同じで、再度はRのちいさなラウンドバッフル、
仕上げも黒が圧倒的に多かった。
遠目でみれば、どこのスピーカーなのかわからない、という厳しいことをいわれる方もいた。
そして、重かった。
598の新製品が出る度に、重くなっていった。
試聴のためにセッティングするわけだが、
重さだけは、1本59800円のスピーカーシステムとは思えぬほどだった。