Archive for 10月, 2020

Date: 10月 18th, 2020
Cate: 五味康祐

五味康祐氏のこと(2021年・その2)

五味先生は12月生れである。
2021年12月に、ステレオサウンド 221号が出る。

221号で、生誕100年記念の記事が載るだろうか。
12月発売のステレオサウンドの特集は、ステレオサウンド・グランプリとベストバイである。

私が編集者だったら、五味先生の特集を組むけれど、
そんなページは割けないのが、いまのステレオサウンドである。

年四冊の一冊が、ステレオサウンド・グランプリとベストバイでとられてしまう。
編集者としてのジレンマを感じないのだろうか。

ステレオサウンド・グランプリとベストバイは、別冊にすれば解決することだ。
それとも五味先生の一冊を、2021年の12月に出してくるのだろうか。

Date: 10月 18th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY, バスレフ(bass reflex)

TANNOY Cornetta(バスレフ型エンクロージュア・その2)

1979年にステレオサウンドから出たHIGH-TECHNIC SERIES 4、
「魅力のフルレンジスピーカーその選び方使い方」に、
瀬川先生の「フルレンジスピーカーユニットを生かすスピーカーシステム構成法」がある。

いくつかの項があって、その一つに「位相反転型の教科書に反抗する」というのがある。
     *
 位相反転型は、いまも書いたように、古くから多くの参考書、教科書で、難しい方式といわれてきた。だがそれは、あまりにもこのタイプの古い観念にとらわれすぎた考え方だ。こんにちでは、スピーカーユニットの作り方や特性が、それらの教科書の書かれた時代からみて大きく変っている。だいいち、メーカー製でこんにち定評のある位相反転型のスピーカーシステムの中に、旧来の教科書どおりに作られているものなど、探さなくてはならないほどいまや数少ない。位相反転型の実物は、大きく転換しているのだ。
 さて、ここで位相反転型エンクロージュアの特性を、多少乱暴だが概念的に大づかみにとらえていただくために、図1から6までをご覧頂く。あくまでも概念図だから、ユニットの設計が大きく異なったりすればこのような特性にはならないこともあるが、一応の目やすにはなる。
 古くからの教科書では、エンクロージュア、ポート、ダクトにはクリティカルな寸法があり、ユニットの特性に正しく合わせなくては、特性が劣化する、とされていた。そして、右の三要素がそれぞれ小さい方にズレると低音の再生限界が高くなりピークができて、低音のボンボンといういわゆる「バスレフの音」になる。また、三要素が大きい方にズレると、f0附近で特性に凹みができて、低音館が不足する……といわれていた。
 意図的に低音の共振を強調して作られた有名な例に、JBLのL26がある。明らかに低音にピークが出ているが、この音を「バスレフ音」とけなした人はあまり知らない。むしろ、とくにポップス系における低音のよく弾む明るい音は、多くの人から支持されている。
 反対に、エンクロージュアを思い切って大きくしたという例は、商品化が難しいために製品での例は知らないが、前に述べたオンキョー・オーディオセンターでの実験で、おもしろいデータが出ているのでご紹介する。
 図7は、同社のFRX20ユニットをもとに、内容積がそれぞれ65リッター、85リッターおよび150リッターという三種類の箱を作り、それを密閉箱から次第にダクト(ポート)を長さを増していったときの特性の変化で、前出の図1や3、4に示した傾向はほぼ同様に出ている。
 これを実際に、約50名のアマチュア立会いでヒアリングテストしたところ、箱を最大にすると共にポートを最も長くして、旧来のバスレフの理論からは最適同調点を最もはずしたポイントが、聴感上では音に深味と幅が増してスケール感が豊かで、とうてい20センチのシングルコーンとは思えないという結果が得られた。
 ヒアリングテストをする以前、無響室内での測定データをみた段階では、測定をしてくださったエンジニア側からは、図7(C)の点線などは、ミスチューニングで好ましくない、という意見がついてきた。しかし、これはあくまでも無響室内での特性で、実際のリスニングルーム内に設置したときは、すべてのエンクロージュアは、壁や床の影響で、概して低音が上昇することを忘れてはいけない(例=図8)。この例にように、エンクローシュア自体では共振のできることを意図的に避けることが、聴感上の低音を自然にするひとつの手段ではないかと思う。とくに、バスレフの二つの共振の山のうち、高い方をできるだけおさえ、低い方を可聴周波限界近くまでさげるという考え方が、わたしくの実験では(この例にかぎらず)概して好ましかった。
 ともかく、バスレフは難しく考えなくてよい。それよりも、むしろ積極的にミスチューニングしよう(本当は、いったい何がミスなんだ? と聞きかえしたいのだが)。
 参考までに、G・A・ブリッグスが名著「ラウドスピーカー」の巻末に載せていたバスレフのポートと共振周波数の一覧表をご紹介しておく(図9)。この本はもともと、一般の計算などにが手の愛好家向けの本だから、なるべつ簡単に説明しようという意図があるにしても、日本の教科書のようにユニットのQだのmだのに一切ふれていないところが何ともあっけらかんとしていておもしろい。そして現実にこれで十分に役に立ち、音の良い箱ができ上るのである。
     *
図について簡単に説明しておくと、
図1は、位相反転型エンクロージュアの箱の容積の大小
図2は、位相反転型エンクロージュアの開口の大きさを変えた場合の傾向
図3は、位相反転型エンクロージュアのダクトの長さの変化と特性器傾向
図4は、位相反転型エンクロージュアのインピーダンス特性
図5は、ドロンコーンの質量の大小と特性の傾向
図6は、吸音材の量と低域特性
図7は、エンクロージュア容積と低域特性の関係
である。
図1から6までは、スピーカーの教科書にも載っていることが多い。
図7は、実測データのグラフである。

Date: 10月 17th, 2020
Cate: ベートーヴェン, 五味康祐

ベートーヴェン(「いま」聴くことについて・その2)

ベートーヴェンを聴いた、とか、ベートーヴェンを聴きたい、ベートーヴェンを聴く、
こういったことを言ったりする。

ここでの「ベートーヴェン」とは、ベートーヴェンの、どの音楽を指しているのだろうか。
交響曲なのか、ピアノ・ソナタなのか、弦楽四重奏、ヴァイオリン・ソナタ、
それともピアノ協奏曲なのか。

交響曲だとしよう。
ここでの交響曲とは、九曲のうち、どれなのか。
一番なのか、九番なのか、それとも五番なのか。

九番だとしよう。
ここでの九番とは、どの指揮者による九番なのか。
カラヤンなのか、ジュリーニなのか、ライナー、フルトヴェングラー……。

フルトヴェングラーだとしよう。
フルトヴェングラーによる九番は、どの九番を指しているのか。
よく知られているバイロイトの九番なのか、それとも第二次大戦中の九番なのか。

こういうことが書けるのは、オーディオを通してレコード(録音物)を聴くからである。
演奏会で、こんなことはいえない。

東京では、かなり頻繁にクラシックのコンサートが開催されている。
今年はコロナ禍で、来日公演のほとんどは中止になっているが、
ふところが許せば、一流のオーケストラの公演であっても、かなり頻繁に聴ける。

それらのコンサートすべてに行ける人であっても、
演奏曲目は、どうにもならない。
ベートーヴェンを聴きたい、と思っているときに、
運良くベートーヴェンが曲目になっていたとしても、
こまかなところまで、望むところで聴けるわけではない。

その不自由さが、コンサートに行って聴くことでもあるのはわかっている。
それでも録音が残っているのであれば、
オーディオで音楽を聴く、ということは、そうとうに自由でもある。

「ベートーヴェンの音楽は、ことにシンフォニーは、なまなかな状態にある人間に喜びや慰藉を与えるものではない」
と五味先生の「日本のベートーヴェン」のなかにある。
その1)の冒頭でも引用している。

コンサートでは、なまなかな状態にあるときでも、
ベートーヴェンの交響曲を聴くことだってある。

Date: 10月 16th, 2020
Cate: Autograph, TANNOY, バスレフ(bass reflex)

TANNOY Cornetta(バスレフ型エンクロージュア・その1)

コーネッタはバスレフ型エンクロージュアである。
コーネッタの記事を読めば、
コーネッタは、バスレフ型としてはミスチューニングと思われる方もいるだろう。

ティール&スモール(Thiele & Small)理論でシミュレートして設計すれば、
もっと小型のエンクロージュア・サイズになるはずだ。

コーネッタの試作のために、レクタンギュラー型のエンクロージュアがある。
W53.0×H68.0×D45.0cmのエンクロージュアである。

このエンクロージュアのポート長は165mmである。
ステレオサウンド 38号に周波数特性が載っている。
典型的なバスレフ型の特性である。
約45Hzあたりまでほぼフラットで、それ以下ではレスポンスか急激に低下する。
インピーダンスカーヴも、約45Hzにピークがあり、約40Ωとなっている。

このレクタンギュラー型エンクロージュアをへースに、
井上先生はコーナー型エンクロージュアの設計にとりかかられている。

コーナーにスピーカーを設置することで、低域のレスポンスは、
無響室の特性よりも、理論的には最大で18dB程度上昇する。

あくまでも、この数値は理論値であって、
現実の壁と床は、この理論値が要求する理想状態からは、ほど遠いため、
現実の上昇は、8〜12dB程度だといわれている。

この数値にしても、かなりしっかりした壁と床があってのものであり、
どちらかが、もしくは両方ともがそうでない造りであれば、低域上昇はもっと低くなる。
それでも無響室よりも、確実に低域のレスポンスは数dBは上昇する。

そのためコーナー型としての設計では、この上昇分を考慮して、
低域に向ってなだらかに下降するレスポンスが求められる。

たとえば1980年ごろに輸入されていたアリソンのスピーカーがある。
トールボーイのコーナー型だった。

このアリソンの広告には、
一般的なスピーカーの無響室での周波数特性とコーナーに設置したときのそれ、
さらにアリソンのスピーカーの、上記の条件で周波数特性、
計四つの周波数特性グラフが載っていた。

Date: 10月 15th, 2020
Cate: 真空管アンプ

五極管シングルアンプ製作は初心者向きなのか(その26)

私が真空管アンプを自作するのであれば、
出力管のソケットの周囲には放熱用の穴を開ける。

伊藤アンプがそうしているから、その模倣である。
この穴は、出力管の放熱のため、といわれている。
穴以外の手法として、ソケットの取り付けを一段低くする、というものもある。

これらの手法は、ほんとうに出力管の放熱に寄与しているのだろうか。
出力管のほとんどは下部にベースがある。
この部分は熱をもたない。

熱を持つのはガラスのところである。

真空管アンプのシャーシー内に空冷ファンがあって、出力管に向けて送風しているであれば、
ソケットまわりの穴は放熱の役に立つ。

けれど伊藤アンプにも、そのほかのアンプにはファンが内蔵されているモノはまずない。
おそらく穴があろうとなかろうと出力管表面の温度、周囲の温度ともに変化はないはずだ。

それがわかっていても、自作するのであれば穴をあける。
伊藤アンプのように開けていくのは手間であるし、
穴をあければそれだげシャーシーの強度は低下する。

それでもあける理由は、あいていないとたたずまいが悪いからだ。
以前、伊藤先生の300Bシングルアンプとそっくりのアンプを、
あるオーディオ雑誌で見たことがある。

けれど、なんだかしまらない印象を受けた。
穴があいていないのだ。
外観上の違いは、穴の有無だけである。

なのに印象はずいぶん違う。
だから穴をあけるわけだが、
この穴は、デザインなのだろうか、デコレーションなのだろうか。

Date: 10月 15th, 2020
Cate: よもやま

妄想フィギュア(その4)

その1)を書いたのは12年前。
今年になって、オーディオのフィギュアが登場している。

オンキョーのプリメインアンプ、スピーカー、プレーヤーなどが、まず出た。
オーディオ関係のサイトでも取り上げられていたから、ご存知の方は多いだろう。

売れているようだ。
隣駅にも、オンキョーのフィギュアが入っているガチャガチャがある。
見つけた時は、こんなところにも? と思った。
買わなかった。

プリメインアンプがA817ではなく、A722nIIだったらやってみたんだけれど。
一週間ぐらいして、その前を通ったら、カラだった。売切れて補充されていなかった。
二週間ほど後に行ったら、オンキョーではなく、他のモノに替っていた。

オンキョーは、もうオシマイなのか、と思っていたら、
しばらくしたら、またオンキョーに戻っていた。

そうしたら、今度はテクニクスのフィギュアが出る、というニュースがあった。
やっぱりオンキョーは売れているんだろう。

オンキョー、テクニクスと、どちらも元は関西のメーカーが続いた。
次はどこだろうか。
関西ということではラックスか。

ラックスで、SQ38FD/IIとか出てきたら、もっと買う人はふえるだろう。
それからヤマハのNS1000Mが登場したら、盛り上るだろう。

Date: 10月 15th, 2020
Cate: 老い

老いとオーディオ(齢を実感するとき・その21)

今年(2020年)は、五味先生の没後40年であり、
来年(2021年)は、生誕100年である。

1921年生れなのは、以前から知っていた。
それでも今年になって、来年100年なんだ、と少し驚いていた。

しかも、その100年の年に、私は五味先生の享年と同じ歳になる。
そのことに月日がずいぶん経ったことを感じてしまう。

Date: 10月 14th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(music wednesdayでの音・その6)

喫茶茶会記のアルテックならば、そんなことを心配する必要はない。
能率にしても、コーネッタよりも7dBか8dBほど高い。
音量に関しては余裕で鳴らしきってくれる。

それでもコーネッタで鳴らしてよかった、と思うのは、
聴き手としての冒険だけでなく、鳴らし手としての冒険が、
10月7日の夜にはあったからだ。

アルテックを鳴らしても、鳴らし手としての冒険はあっただろうが、
アルテックは喫茶茶会記のスピーカーであって、
コーネッタは私のスピーカーであるということも違う。

それ以上にスピーカーとしての性格が、これほど違うのだから、
鳴らし手としての冒険の意味は違ってくる。

この違いを、こまかく説明しようかなとおもったが、
言葉を尽くしても、こればかりは自分で鳴らしてみないと理解してもらえないような気がする。
それに私の独りよがりな冒険なのかもしれないから、
舌足らずなのはわかっているが、ばっさりと省く。

とにかく10月7日は、野上さんと赤塚さんの選曲で、私は私だけの冒険ができた。
二人には感謝している。

赤塚さんは、
「細胞が生れ変わるようなスゴい音体験だった!!」という感想を、facebookに寄せてくれた。

Date: 10月 14th, 2020
Cate: バッハ, マタイ受難曲

カザルスのマタイ受難曲

カザルスがマタイ受難曲を振ったことは知っていた。
ずいぶん前に知っていたし、聴けないものかと探してもいた。

もう諦めていた。
演奏したからといって、必ずしも録音が残されているとはかぎらないのだから、
録音が存在しないのだろう……、と。

昨晩遅くiPhoneでヤフオク!を眺めていた。
そこに、またしても「お探しの商品からのおすすめ」のところに、
まさかカザルスのマタイ受難曲が表示されるとは、夢にも思わなかった──、
とは、こういう時に使うのだろう。

CDではなく、CD-Rである。
今年出たようである。
商品説明を読むと、音は期待できそうにない。

それでもかまわない。
とにかく聴けるのだ。

即決価格で、落札した。
まだ届いていないけれど、わくわくしている。

「カザルス マタイ」でGoogleで検索すれば、売っているところが表示される。
私が買った値段よりも多少高いけれど、いまのところ入手できるようだ。

Date: 10月 14th, 2020
Cate: audio wednesday

第117回audio wednesdayのお知らせ(Bird 100)

11月4日のaudio wednesdayのテーマは、Bird 100。

チャーリー・パーカー生誕100年だから、このテーマである。
チャーリー・パーカーを中心にかけていくが、四時間チャーリー・パーカーだけなわけでない。
ビリー・ホリディ、チェット・ベイカー、バド・パウエルもかける。

彼らに共通するのがなんであるのかは書かなくてもいいはずだ。
ジャニス・ジョプリンの“Summertime”もかけたいと思っている。

チャーリー・パーカーが中心ではある。
でも、それだけにとどまらずにかけていきたい演奏家として、
クラシックでは、サンソン・フランソワのショパンもかけるつもりでいる。

デカダンス的なピアニストといわれるフランソワ。
フランソワのショパンは、いまどんなふうに評価されているのか。

癖の強い演奏と受け止められているのだろうか。
1980年代の、レコード芸術の名曲・名盤の企画で、
黒田先生はショパンにかんしては、フランソワの演奏をあげられている。

馬鹿のひとつおぼえみたいにフランソワばかり選んでいる──、
と黒田先生自身書かれていたけれど、
フランソワの演奏に、ますます惹かれている、とも書かれていた、と記憶している。

サンソン・フランソワが、どんな人物なのかは、知らない人は検索してみればいい。
Bird 100のテーマとサンソン・フランソワのショパン、
そこに違和感がないはずだ。

場所はいつものとおり四谷三丁目のジャズ喫茶・喫茶茶会記のスペースをお借りして行いますので、
1000円、喫茶茶会記にお支払いいただくことになります。ワンドリンク付きです。

19時開始です。

Date: 10月 14th, 2020
Cate: ヘッドフォン

AUSTRIAN AUDIO

ステレオサウンド 75号の特集「実力派コンポーネントの一対比較テスト 2×14」で、
菅野先生がAKGのヘッドフォンK240DFについて書かれている。
     *
 そしてごく最近、オーストリアのAKGから出たK240DFスタジオモニターという、ダイナミック型のヘッドフォンに出合い大いに興味をそそられている。このヘッドフォンは、まさに、私がSRΛブロを活用してきた考え方と共通するコンセプトに立って開発されたものだからである。K240DFのカタログに書かれている内容は、基本的に私のSRΛプロの記事内容に共通するものであるといってよい。ただ、ここでは、これを使って調整するのは、部屋やスピーカーではなく、録音のバランスそのものなのである。つまり、よく整った調整室といえども、現実にその音響特性はまちまちで、同じモニタースピーカーが置かれていてさえ、出る音のバランスが違うことは日常茶飯である。私なども、馴れないスタジオやコントロールルームで録音をする時には、いつもこの問題に悩まされる。便法として、自分の標準とするに足るテープをもっていき、そこのモニターで鳴らして、耳馴らしをするということをすることさえある。さもないと、往々にしてモニタ一にごまかされ、それが極端にアンバランスな場合は、その逆特性のバランスをもった録音をとってしまう危険性もある。
 K240DFは、こうした問題に対処すべく、ヘッドフォンでしかなし得ない標準化に挑戦したもので、IRT(Institute of Radio Technology)の提案によるスタジオ標準モニターヘッドフォンとして、ルームアクースティックの中でのスピーカーの音をも考慮して具体化されたものである。そして、その特性は平均的な部屋の条件までを加味した聴感のパターンに近いカーヴによっているのである。つまり、ただフラットなカーヴをもっているヘッドフォンではない。ダイヤフラムのコントロールから、イアーキヤビティを含めて、IRTの規格に厳格に収ったものだそうだ。そのカーヴは、多くの被験者の耳の中に小型マイクを挿入して測定されたデータをもとに最大公約数的なものとして決定されたものらしい。AKGによれば、このヘッドフォンは〝世界最小の録音調整室〟と呼ばれている。部屋の影響を受けないヘッドフォンだからこそ出来るという点で、私のSRΛプロの使い方と同じコンセプトである。
     *
72号でも菅野先生は、スタックスについて書かれている。
スタックスは、当時の私には、やや高価だった。
それほどヘッドフォンに対しての関心もなかったので、
スタックスのヘッドフォンのシステムに、これだけの金額を出すのであれば、
もっと優先したいモノがあった。

K240DFは安価だった。
三万円しなかったはずだ。

気に入っていた。
ヘッドフォンで聴くことはそんなにしなかったけれど、
K240DFの音を信頼していた。

そのK240DFも人に貸したっきり返ってこなかった。
しょうがないから、また買うか、と思ったときには、K240DFは製造中止になっていた。
K240シリーズは継続されていたけれど、DFの後継機はなかった。

AKGは、K1000も出していた。
ヘッドフォンメーカーとして、AKGというブランドは、私のなかでは確固たる位置にいた。

けれど2017年にハーマンインターナショナルがサムスンに買収されてしまってから、
AKGが変ってしまった、という話をきいた。

そのAKGから独立した人たちが始めたのが、AUSTRIAN AUDIO(オーストリアン・オーディオ)だ。

マイクロフォンとともにヘッドフォンもある。
日本に輸入元もある。MI7という会社だ。

けれどヘッドフォンのページは、いまだ開設されていない。
海外では、今年の春から販売されている。

そのころから、いつ日本でも発売になるんだろう、と思っているのだが、
まだのようである。

ヘッドフォン祭が開催されていたら聴けたであろうに……。

Date: 10月 13th, 2020
Cate: 世代

世代とオーディオ(カタログ)

ヤフオク!にはカタログも出品されている。
中学、高校のころはカタログを大事に持っていた。

RFエンタープライゼス時代のマークレビンソンのカタログは、ほんとうにそうだった。
LNP2のカタログを手に入れたときは嬉しかったし、
いつかはLNP2……、という憧憬をいだいて眺めていた。

その時代のカタログも、ヤフオク!にはある。
落札しようとはおもわないけれど、こういうカタログだったな、と、
そこでの写真をみると、どういう内容だったのかも、ある程度は思い出せたりする。

あの時代気カタログのすべてそうだったわけではないが、
オーディオの憧れが募ってくる出来のものは、たしかにあった。

いまもカタログはある。
インターナショナルオーディオショウに行けば、各ブースの前で配布している。
それらのカタログをもらってくることはしない。

それでもブースに入り、気になった製品があった場合には、
カタログにも手を伸ばすことはある。
それでも持って帰ることをしないのは、そう思わせてくれないからだ。

安っぽい、とはいわない。
なかには、そういいたくなるカタログもあるけれども。

なんだろう、インターネットが普及して、各社ほとんどウェブサイトで公開している。
情報を得るだけならば、ウェブサイトでことたりる。

カタログは、それ以上のなにかを感じたいのだ。
それが、いまの時代のカタログには、ほぼない。

オーディオショウでは立派なカタログがあったりする。
けれど立派なカタログが、憧れと結びついていくわけでもない。

そういうカタログをつくる余裕が、もうどの会社も失っているかもしれない。

Date: 10月 13th, 2020
Cate: ベートーヴェン

ベートーヴェンの「第九」(2020年・その後)

パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツカンマーフィルハーモニーによる、
12月のベートーヴェンの交響曲全曲演奏は中止である。

予想できていたことだから、そうか、という感想しかない。

パーヴォ・ヤルヴィとドイツカンマーフィルハーモニーによるベートーヴェンは、
十年ほど前に知って、聴いた。

黒田先生がサライに連載されていた「聴く」で、紹介されていたのがきっかけだった。
それで聴きたくなったのだから。

《細部まで精緻でいて、しかもアグレッシヴ(攻撃的とさえいえる積極性)といいたくなるほど、音楽を前進させようとする力に富んでいる》
とあったの憶えている。

そういう「第九」こそ、こういう状況下だから、鳴り響いてほしかった、とおもうだけだ。

Date: 10月 13th, 2020
Cate: Cornetta, TANNOY

TANNOY Cornetta(music wednesdayでの音・その5)

コーネッタとケイト・ブッシュの相性(その6)」で書いているように、
9月のaudio wednesdayの時に、HPD295Aのマグネットカバーを外している。

今回外していてよかった、と実感したのは、音質面のことよりも、
音量に関することだ。

10月のaudio wednesdayでは、鳴らす曲ほぼすべて、けっこうな音量だった。
鳴らしている本人が、この音量で、
これだけ危なげない音を、タンノイが鳴らすのか、と感心してしまうくらいの音量だった。

おそらくHPD295Aの前のモデル、IIILZだったら、これだけの音量で鳴らすのは無理があったろう。
HPD295Aを搭載していても、小型ブックシェルフのイートンでも、ここまでは鳴らなかったはずだ。

私のところからは、今回はマッキントッシュのパワーメーターが見えなかったが、
見えていた人によると、かなり振れていた、とのこと。

そうだろう。
HPD295Aは、能率が低い。
それでもいまどきのスピーカーとしては、高能率ということになるようだが、
私の世代の感覚では、低能率のスピーカーであり、
どれだけのパワーが必要なのかは、これまで三回鳴らしているので、おおよそはわかる。

しかも、これまでの三回よりも平均音圧は高かったのだから、
そうとうにパワーが入っていたはずだ。

だからこそ、マグネットカバーを外していてよかった。
カバーをつけた状態では、磁気回路の熱がこもるばかりである。
そうなってしまうと、ボイスコイルの温度はさらに上昇することになり、
上昇すれば、それに比例してボイスコイルの直流抵抗が増えていく。

そうなると、よけいにロスが増えてしまい、
どんなにパワーを入力しても、音圧が上昇しにくくなる、という現象がおこる。

四時間、かなりの音量で鳴らしていたのだから、
マグネットカバーがついていたら、途中で音が弛れてきたことだろう。

Date: 10月 13th, 2020
Cate: 菅野沖彦

10月13日(2020年)

二年が経った。
一年前に、一年が経った、と書き出した。

短いようで長く感じた一年だったし、
長かったようで短くも感じた一年が過ぎた──、と書いた。

この一年で、オーディオ業界、オーディオ雑誌は、
何か変ったのかといえば、何も変っていない、といえるし、
変っていないのかといえば、よい方向には変っていない、としかいえない──、とも書いた。

それからさらに一年である。
一年前にはコロナ禍はなかった。
オーディオショウが、ほぼすべて中止になった。

インターナショナルオーディオショウも、である。
インターナショナルオーディオショウの前身、輸入オーディオショウは、
菅野先生の提案から始まっている。

いまでは、そのことを知らないオーディオ関係者も多いことだろう。

来年の10月13日には、三年が経った、との書き出しで、なにかを書くだろう。
四年が経った、五年が経った……、と書いていくはずだ。