Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 12月 18th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その6)

ソニーはSS-G7を発売した1976年の、第25回オーディオフェアに、PCMオーディオユニットを展示、
翌77年に、コンシュマー機としては世界初のPCMプロセッサーPCM-F1を発表・発売している。

ビデオデッキと組み合せることで、14ビットとはいえ、デジタル録音・再生を可能にしただけでなく、
マイクロフォン入力端子も備え、電源も交流/直流でも使える、可搬型という意欲作だった。
そして、ソニーは、フィリップスとともにCDを開発している。

推測でしかないが、SS-G7の開発のころから、
デジタル録音のプログラムソースを試聴に使っていたと考えても間違いないだろう。
さらにソニーは、新しいスピーカー解析技術も開発している。

この2つの事柄がなかったら、SS-G7は、
それまでの同社のスピーカーとそれほど変わらないもので終っていたかもしれない。

AGバッフル、ウーファーを前面に突き出させたプラムライン配置は、
デジタル時代の予測から生れてきたものかもしれない。

1979年に、ソニーはエスプリ・ブランドを誕生させ、APM8を発売する。

Date: 12月 17th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その5)

3ウェイ・システムにミッドバスを加え、
4ウェイにまとめあげたシステムとして適例なのが、ソニーのSS-G9である。

4343とほぼ同じころに、ソニーから3ウェイのフロアー型のSS-G7が出ている。
38cm口径のウーファーに、
10cm口径のスコーカーと3.5cm口径のトゥイーター(ソニー独自のどちらもバランスドライブ型)の組合せ。
クロスオーバー周波数は、550Hzと4.5kHz。

型番的にもSS-G7の上級機にあたるSS-G9は、20cm口径のミッドバスを追加している。
ウーファーとミッドバスのクロスオーバー周波数は300Hzになり、1.2kHzまで受け持つ。
クロスオーバー周波数が550Hzから1.2kHzへと高くなったことから、
スコーカーの口径を、8cmと小さくしている。
トゥイーターとのクロスオーバー周波数も4.5kHzから5kHzとなり、
それぞれのユニットの帯域幅を小さくしている。

SS-G7はトゥイーターとスコーカーをサブバッフルにマウントすることで、
わずかでも、ふたつのユニットを近接させようとしていた。

SS-G9ではスコーカー(4ウェイになったのでミッドハイ)の口径が小さくなったことで、
SS-G7以上に、ふたつのユニットの中心は近接している。

SS-G9が4343を意識していることは、フロントバッフルにスリットからも明らかだろう。

SS−G7とG9は、縦横溝が刻まれたフロントバッフル
(ソニーはアコースティカル・グルーブド・ボード、略してAGボードと呼んでいる)を採用している。
ソニーの説明では、このスリットは、波長の短い中高域を拡散させるものだ。

SS-G7では、このスリットがフロントバッフル全面に均等に刻まれている。
4343の2年後に登場したSS-G9では、ウーファーとミッドバスのあいだに、
水平に、他のスリットよりも深くて広く、はっきりと目立つスリットが刻まれて、
見た目のアクセントになっている。

またバスレフポートもSS-G7ではひとつだったが、ふたつになり、
4343と同様にウーファー下部の左右に設けられている。

レベルコントロールの位置も、SS-G7ではスコーカー、トゥイーターの横に縦方向にあったのが、
SS-G9ではミッドバスとウーファーの間に、横方向へと変更されている。

4343以降登場した国産4ウェイ・スピーカーのなかでも、
SS-G9は、4343を相当意識してつくられたスピーカーといえよう。

Date: 12月 16th, 2008
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その6)

QUADのESLを、はじめて聴いた場所は、オーディオ店の試聴室でもなく、個人のリスニングルームでもなく、
20数年前まで、東京・西新宿に存在していた新宿珈琲屋という喫茶店だった。

当時のサウンドボーイ誌に紹介されていたので、上京する前、まだ高校生の時から、この店の存在は知っていた。
ESLを鳴らすアンプは、QUADの33と50Eの組合せ。記事には場所柄、電源事情がひどいため、
絶縁トランスをかませて対処している、とあった。
CDはまだ登場していない時代だから、LPのみ。
プレーヤーはトーレンスのTD125MKIIBにSMEの3009SII、
オルトフォンのカートリッジだったように記憶している。

新宿珈琲屋の入っていた建物は、木造長屋といった表現のぴったりで、2階にあるこの店に行くには、
わりと急な階段で、昇っているとぎしぎし音がする。
L字型のカウンターがあり、その奥には屋根裏に昇る、階段ではなく梯子があって、
そこにはテーブル席も用意されていた。

ESLは客席の後ろに設置されていた。
濃い色の木を使った店内にESLが馴染んでいたのと、パネルヒーター風の形状のためもあってか、
オーディオに関心のない人は、スピーカーだとわかっていた人は少なかったと、きいている。

鳴らしていた音楽は、オーナーMさんの考えで、バロックのみ。LPは、たしか20、30枚程度か。
そのなかにグールドのバッハも含まれていた。

この装置を選び、設置したのは、サウンドボーイ編集長のOさん。
Mさんとは古くからの知合いで、相談を受けたとのこと。

新宿に、もう一店舗、こちらはテーブル席も多く、ピカデリー劇場の隣にあった。
ふだんMさんはこちらのほうに顔を出されることが多かったが、
ときどき西新宿の店にも顔を出された。
運がよければ、Mさんの淹れたコーヒーを飲める。

ふだんはH(男性)さん、K(女性)さんのどちらかが淹れてくれる。
Kさんとはよく話した。

よく通った。コーヒーの美味しさを知ったのはこの店だし、
背中で感じるESLの音が心地よかった。

いまはもう存在しない。
火事ですべてなくなってしまった。

その場所の一階に、いまも店はある。名前が2回ほど変っているが、基本的には同じ店だ。
ただMさんはもう店に出ないし、HさんもKさんもいなくなった。

オーディオ機器も、鳴らす音楽も、他店とそう変わらなくなってしまった。

Date: 12月 15th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その4)

4ウェイ・スピーカーシステムといっても、開発の方向性はいくつかある。

3ウェイ・システムをベースにして、スーパートゥイーターもしくはサブウーファーを加えたもの、
同じく3ウェイ・システムのベースでも、中低域に専用ユニットを加えたもの、
2ウェイ・システムを中心にして、スーパートゥイーターとサブウーファーを加えたもの、などがある。

スペンドールのBCシリーズを参考例としてあげる。
スペンドールは、1969年に第一作のBCIを開発した。
ウーファーは、BBCがBC2/8MKIIと呼ぶ20cm口径のベクストレン振動板のコーン型。
トゥイーターはセレッション製のドーム型HF1300。
型番のBCはベクストレン(Bextrene) の頭文字Bとセレッション(Celestion) の頭文字Cを組合せを表している。

このBCIをベースに、ウーファーの耐入力を向上させ、
スーパートゥイーターとして、当時ITT参加にあったSTCの4001を追加し、3ウェイとしたのが、
1973年に発表され、日本でもロングセラーモデルとなったBCIIである。

BCIIの成功は、BCIIIの開発へとつながる。
BCIIIは、BCIIの低域のワイドレンジ化を図ったモデルで、BCIIと同じユニットに、
30cm口径のベクストレン・コーン型ウーファーを追加し、
エンクロージュアもひとまわり大きなものとなっている。

BCIIのクロスオーバー周波数は、3kHzと13kHz。BCIIIは、これに700Hzが加わる。

BCI(2ウェイ)から始まり、BCII(3ウェイ)、BCIII(4ウェイ)へと、BCシリーズは発展し完結している。

Date: 12月 15th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その3)

1978年から80年ごろにかけて4ウェイ・スピーカーを開発・発売してきたソニー、テクニクス、
ビクター、Lo-D、パイオニア、ダイヤトーンで、その後も4ウェイシステムを継続して開発したのは、
ダイヤトーン、一社だけと言ってもいいだろう。

テクニクスも4ウェイ・システムをいくつか開発しているが、そのたびに製品コンセプトは変わっていき、
ひとつの製品をじっくり発展していっているとは、私は思っていない。

その点、ダイヤトーンはDS5000(1982年)をベースに、
88年にDS-V9000、翌89年にDS-V5000と発展させ、
84年には、すこし小型化したDS3000というヴァリエーションも出すなど、
4ウェイ・システムの完成度を高めていこうという姿勢があった。

Date: 12月 15th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その2)

テクニクスは、1978年にSB-E500、1981年にSB-M1 (Monitor 1) を出している。

SB-E500は、38cmコーン型ウーファー、25cmコーン型ミッドバス、ミッドハイとトゥイーターはホーン型という、
4343と同じユニット構成となっている。
クロスオーバー周波数は、350、1500、8500Hz。
外形寸法は、W72×H103×D56cm。価格は70万円(ペア)。

SB-M1はmonitor 1の名称がつけられていること、
エンクロージュアの仕上げがグレイ塗装とウォールナットの2つが用意されているなど、
4343をかなり意識した製品づくりといっていいだろう。

ユニットはすべて丸形の平面振動板で、口径はそれぞれ38、22、8、2.8cmとなっている。
クロスオーバー周波数は、280、900、4000Hz。
外形寸法は、W63×H105×D43.9cm。価格は70万円(ペア)。

ウォールナット仕上げのSB-M1 (M)は、エンクロージュア下部に台輪がついているため、
高さが112cmとすこし大きい。価格はちょうど2倍の140万円(ペア)。

ビクターは、1981年にZero-1000を、85年にZero-L10を発表。

Zero-1000は、ブックシェルフ型の4ウェイスピーカーで、
ユニット構成は、ウーファー32cmコーン型、ミッドバス7.5cmドーム型、
ミッドハイ3.5cmドーム型、トゥイーターはリボン型。

色合いは異るが、フロントバッフルはブルー、側板、天板はウォールナット仕上げと、
言葉だけで表すと4343WXの仕上げと同じ。
とはいえ、フロントバッフルはカーブしているし、どちらかといえば水色ということもあり、
見た目の印象はずいぶん違う。
クロスオーバー周波数は、500、5000、12000Hz。
外形寸法は、W44×H79.3×D37.1cm。価格は42万円(ペア)。

Zero-L10は、1985年と、発売が遅いこともあって、専用ベースST-L10が別売りで用意されている。
フロアー型なのに? と思われる方もいるだろうが、
この考えが発展して、90年発売のSX1000 Laboratoryの専用ベースへとつながっている。
Zero-L10のユニット構成は、ウーファー39cmコーン型、ミッドバス21cmコーン型で、
振動板は紙ではなく、セラミックとカーボンの複合素材を使用している。
ミッドハイとトゥイーターは、セラミック振動板のドーム型で、口径は6.5、3cm。
クロスオーバー周波数は、230、950、6600Hz。
外形寸法は、W58×H100.5×D47cm。価格は160万円(ペア)。

ダイヤトーンもビクター同様、ブックシェルフ型の4ウェイを先に出している。
1980年発売のDS505は、ウーファー32cmコーン型、ミッドバス16cmコーン型で、
アラミドハニカム振動板を採用している。ミッドバス4cm、トゥイーター2.3cmのドーム型。
クロスオーバー周波数は、350、1500、5000Hz。
外形寸法は、W44.2×H72×D42.5cm。価格は38万円(ペア)。

フロアー型のDS5000は、1982年に登場した。
ユニット構成は、ウーファー40cmコーン型、ミッドバス25cmコーン型で、
アラミドハニカム振動板採用はDS505と同じだが、
成型の難しい、この素材で、ミッドバスはカーブドコーンとしている。
ミッドハイ、トゥイーターは6.5、2.3cmドーム型。
クロスオーバー周波数は、30、1250、4000Hz。
外形寸法は、W63.5×H105×D46cm。価格は99万円(ペア)。

ヤマハからもGF-1が登場しているが、1991年と、ずいぶん後になってのことなので除外した。

Date: 12月 14th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その1)

4343は、ペアで140万円超えるスピーカーとして驚異的な売行きと言われる。
これだけ売れたスピーカーは、いわゆる売れ筋の価格帯のスピーカーでも、そう多くはない。

そのため、といってもいいだろう、4343の成功に触発されて,
国産メーカーからも4ウェイ・スピーカーシステムが登場しはじめた。
それらのスピーカーとの対比で4343を見ていくと、
当時の国産メーカーのスピーカー技術者が4343をどう捉えていたのかが、わかってくるというものだろう。

どういう4ウェイ・スピーカーが出ていたのか、ざっと振り返ってみる。
ソニーからは、1978年にSS-G9が登場した。4343と同じ38cm口径のウーファー、20cmのミッドバス、
8cmのミッドハイ、3.5cmのトゥイーターという構成。
ミッドハイとトゥイーターは、ソニーが新たに開発した、
ドーム型とコーン型を一体化した形状の振動板のバランスドライブ型。
クロスオーバー周波数は、300、1200、5000Hz。
外形寸法はW60×H108×D45.5cm。価格は57万6千円(ペア)だ。

さらにソニーは翌年、エスプリ・ブランドで、平面振動板の4ウェイ・システム、APM8を出す。
クロスオーバー周波数は、320、1250、4500Hz。
外形寸法はW65×H110.5×D45cm。価格は200万円(ペア)だ。

パイオニアからは、平面振動板の4ウェイ同軸ユニットを搭載したS-F1が、1980年に出ている。
クロスオーバー周波数は、500、2500、8000Hz。
外形寸法はW70×H117×D47cm。価格は170万円(ペア)だ。

Lo-Dは、1978年に、
コーン型、ドーム型ユニットの凹みに発泡樹脂を充填した平面型4ウェイのHS10000を発表している。
HS10000には、スーパートゥイーターを追加した5ウェイ・モデルも用意されていた。
使用ユニットは、30、6、3.5、1.8cm口径(0.9cm:5ウェイ仕様のスーパートゥイーター)。
クロスオーバー周波数は、630、2500、4500Hz(9000Hz:5ウェイ時)。
外形寸法はW90×H180×D60cm。価格は360万円(ペア)だ。
このスピーカーは、いわゆる2π空間使用前提の設計は、4343と共通しているし、
コンセプトからして、プロトタイプ的性格が強い。

Date: 12月 13th, 2008
Cate: 927Dst, BBCモニター, EMT, TSD15

BBCモニター考(余談)

トリオ(現ケンウッド)の会長だった中野英男氏の著書「音楽、オーディオ、人びと」の中に、
「秘蔵のBBC放送局専用のTSD15」なる言葉が出てくる。

このTSD15は「英国でしか手に入らず、佳き往時の香りを今に伝える名品として
識者の間で珍重されているカートリッジ」で、
「河村電気を経て我が国にもたらされるEMTは『今様に』改良された製品で、
F特と解像力には勝れるが、気品と底力では遠くこのモデルに及ばない」と書かれている。

ステレオサウンドにはいって、このことをきいてみた。BBC専用のTSD15のことを知っているひとは、いない。
先輩のTNさん(彼は瀬川先生から譲ってもらった927Dstを使っていた)と、この話で盛り上がったこともあった。

旧型シェルのTSD15のことかと思ったが、違うようにも思える。

サウンドボーイ編集長だったOさんも、プレーヤーは927Dstだ。
彼は、ウェスターン・エレクトリック、シーメンス、EMTなどについて詳しい。
そのOさんも、はじめて聞く話とのこと。
現会長の原田氏も、このころは927Dstだった。

結局、真相はわからずじまい。

Date: 12月 10th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その4)

早瀬(文雄)さんは、2405のことを「清潔感のある音」とよく言う。
瀬川先生の言われる「切り絵的」な描写が、早瀬さんには清潔感として聴こえてくるのだろう、と私は想っている。

4343と4343Bを聴く限りで言えば、アルニコの、ソリッドで引き締った音が、
2405の特長とうまく作用し、見事な切り絵を表現してくれるのかとも思う。
フェライトのまろやかで柔らかい感じは、2405の魅力を損なう方向に働くのか。

いまもし新品同様の4343と4343Bがあったとして、どちらを選択するかとなったら、
メインスヒーカーとして4343だけ、というのなら、フェライト仕様の4343Bにする。
他のメインスピーカーを使っていて、もう一組というのであれば、アルニコの4343を、
どちらもためらうことなく選ぶだろう。

そして仕上げは、アルニコならばサテングレイ塗装にブラックのフロントバッフルのスタジオ仕様を、
フェライトならウォールナット貼りにブルーバッフルのWX仕様にする。

スピーカーを選択するということは、そういうことではないだろうか。

Date: 12月 10th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その3)

1978年79年にかけて、ステレオサウンドから別冊として「HIGH TECHNIC SERIES」が出た。
Vol.1がマルチアンプ、Vol.2が長島先生によるMCカートリッジの詳細な解説、
Vol.3がトゥイーター、Vol.4がフルレンジの特集だった。

Vol.3の巻頭記事で、4343のトゥイーターを2405を含めて、
他社製のトゥイーターに交換しての試聴が行なわれている。
試聴方法は、それぞれのトゥイーターの能率も異るし、
4343の内蔵ネットワークは2405に有利に働くこともあるということで、
トゥイーター用に専用アンプを用意して行なわれていた。

試聴者は、井上先生、黒田先生、瀬川先生の3人。
私が何度も読み返したのは、ピラミッド社のリボントゥイーターT1と2405のところだ。

井上先生と黒田先生は、T1をひじょうに高く評価されこのとき聴いた中ではもちろんベストの存在だし、
当時4343をお使いだった黒田先生はT1に心を動かされていたと記憶している。

瀬川先生は、というと、T1のポテンシャルの高さは充分認めながらも、
「2405の切り絵的な表現に騙されていたい」ということを言われていた。

このことが、いまでも強い印象として残っている。

T1に置き換えたときの音像を立体的とすれば、2405の音像は平面で切り絵的。
T1にすることで、4343がより自然な音に変化することよりも、
2405が演出する世界に騙されることで、レコード音楽にワクワクドキドキしていたい、
そう私は受けとめた。

2405のフェライト仕様は、おそらくその切り絵的世界が、ずいぶんと失われているのではなかろうか。
他のトゥイーターと比較すれば、それでも切り絵的世界の音だろうが、
切り絵ならば、その切り口がスパッと見事であってほしい。
迷いながらの未熟な、甘い切り口では、そんな切り絵には騙されたくない。

騙されていたいと思うのは、それが見事なものであるからだ。

Date: 12月 10th, 2008
Cate: 4343, JBL, 井上卓也

4343と2405(その2)

4343にはアルニコ仕様とフェライト仕様の4343Bがある。
ときどきアルニコ仕様の4343のことを4343Aと書く人がいるが、4343Aというモデルは存在しない。

4350、4331、4333には改良モデルのAが存在する。
型番末尾の「A」はアルニコの頭文字ではなく、改良モデルを表している。
ついでに書いておくと、4345BWXと書く人もいる。
4345が正しい表記で、4345にはフェライト仕様しかないので、
アルニコ仕様と区別するための「B」はつかない。
またWXも仕上げの違いを表すもので、4345以降はウォールナット仕上げのみとなったため、型番にはつかない。

4343と4343Bの違いは、ウーファーの2231Aとミッドバスの2121が、
フェライト仕様の2231H、2121Hに変更されているだけだ。
ミッドハイの2420、トゥイーターの2405はどちらもアルニコ仕様である。

4343の後継機4344となると、すこし事情が違ってくる。
最初の頃は、4343Bと同じようにウーファーとミッドバスがフェライトで、
ミッドハイとトゥイーターはアルニコだったが、
どうも途中からミッドハイの2421Bがフェライトに変わっている。

2405は最後までアルニコだったと思っていたが、
どうもこれも後期のロットにはフェライト仕様の2405Hが搭載されているものがあるときく。

世の中にはアルニコ神話に近いものがある。
自分の使っているスピーカーに、アルニコ仕様とフェライト仕様があるならば、
やはりどちらが良いのか、とうぜん気になってくる。それがマニアなのだろう。

たまたま井上先生の取材の時に、そういう話になったとき、
「JBLに関しては、アルニコとフェライトは良し悪しじゃなくて、好みで選んでいいよ」
と言われたことがあった。
どうもスタジオモニターのユニットをひとつひとつ、
アルニコとフェライトに入れ換えて試聴されたうえでの、結論のようだった。

でも、つづけて「2405だけはアルニコだね。これだけはアルニコの方が良いよ」と言われた。

Date: 12月 9th, 2008
Cate: 4343, JBL

4343と2405(その1)

4300シリーズのトゥイーターといえば、なんといっても2405である。
この2405の位置は、4341、4343、4344で異っている。
基本的にミッドハイの2420の横なのは一緒だが、
4341は2420(というよりもホーン2307の開口部)の真横ではなくやや下にズレている。
4343は反対に上にすこしシフトしている。
4344で、やっと真横に位置している。

4344は2405の位置を変えられないが、4341、4343は右でも左でもつけ換えられる。
そのための穴が開いていて、メクラ板で塞いでいる。

2307の開口部の両脇にお味大きさの穴がふたつ開いている。
そのため、視覚的バランスをとるため、上か下にシフトしているのだろうか。

このメクラ板が音質にけっこう影響を与えている。
フロントバッフルと面一(ツライチ)になっていたらそれほどでもないのに、
凹みができるように取りつけられている。
メクラ板が鳴き、その前にちょっとしたホーンのようなものがついているだけに、
このメクラ板を鳴きをどう抑えるかが、使いこなしのポイントになってくる。

メクラ板の材質を変えてみるのもいいだろうし、バッフルと面一になるように加工するのもいいだろう。

Date: 12月 9th, 2008
Cate: ALTEC, ワイドレンジ, 瀬川冬樹

ワイドレンジ考(その29)

先に書いているが、Model 19と604-8Hから、アルテックは、システムは2ウェイ構成ながら、
多素子のネットワークによって3ウェイ的レベルコントロールを実現している。

BBCモニターのようにレベルコントロールはないものもあるが、この多素子のネットワークで、
スピーカーシステムのトータルの周波数特性をコントロールする(ヴォイシング)手法は、
イギリスのスピーカーが、以前から得意としているところである。
BBCモニターもそうだし、タンノイのスピーカーもかなり以前からそうである。

Model 19の、レベルコントロールをいじったときの周波数特性が発表されている。
中域のツマミを反時計回りにいっぱいにまわし、高域のツマミを時計回りにいっぱいにまわす、
この時の周波数特性は2kHzが約10dB近く下がる。その上の帯域は徐々にレベルが上がる。

瀬川先生が、6041、620Bのレベルコントロールをどのように調整されたかはわからないが、
かなり大胆にいじっておられたことは書かれていた。
上の周波数特性からもわかるように、おそらく中域をかなり絞り、高域はある程度あげることで、
瀬川先生が苦手だった中域の張りの抑えられるとともに、
BBCモニター的なヴォイシングに、自然とそういう音にもっていかれたのだろうか。

実は、604-8KS(604-8Hのフェライトモデル)がはいった612Cを、一本だけ所有している。
モノーラル専用なわけで、同じようにレベルコントロールをいじっている。

「瀬川冬樹氏のこと(その9)」に書いたように、
瀬川先生は620Bに、アキュフェーズC240とマイケルソン&オースチンのTVA1を組み合わされている。
架空の話になってしまうが、瀬川先生がクレルのPAM2とKSA100のペアを聴かれていたら、
絶対アルテックの620Bか6041と組み合わされていたはずだ。

Date: 12月 4th, 2008
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(その4)

4343とLS5/8、同じモニタースピーカーといっても、
使われ方、求められる性能の項目が違うことがあらためてわかる。

JBLのスタジオモニターは、性能ぎりぎりのところで使いつづけても破綻をきたさないよう設計されている。
BBCモニターはモニタースピーカーといっても、大音量で使われることはまずないと聞く。
1970年代にはQUADのESLが、ヨーロッパのレーベル(たしかデッカ)のスタジオモニターとして使われていた。
旧型の ESLがスタジオモニターと通用するくらい、イギリスを含めてヨーロッパのスタジオの試聴音量は、
かなり低いということを書かれた文章を何度か目にしている。

たとえば磁気回路を見ても、BBCモニターはそれほど物量投入の設計ではない。
スピーカーユニットを開発・設計する機会のないわれわれは、
スピーカーの磁気回路の磁束密度は高いほどいいと思いがちだが、
メーカーの技術者に話をきくと、必ずしもそうではなく、
振動板の口径や重さなどとの絡みもあるが、聴いて音の良いポイントがある、といっている。
具体的な数値は教えてくれなかったが、10000ガウスよりも低いところで、ひとついいポイントがあるとのこと。

たしかにKEFのLS5/1A搭載のグッドマンのウーファーの磁束密度は、9000ガウスだ。
たまたまなのかもしれないし、他のBBCモニターの使用ユニットの磁束密度は不明だが、
ユニットそのもののつくりを見る限りそれほど高い値とは思えない。

LS5/8、PM510のウーファーの振動板ポリプロピレンも、スピーカーの振動板に求められる性能──
高剛性、適度な内部損失、内部音速の速さ、軽さの点から見ると、
お世辞にも高剛性といえないし、内部音速がそれほど速い素材でもない。
満たしているのは、適度な内部損失と軽さだけだろう。

もっもとすべての諸条件をすべて高い次元で満たしている素材はないので、
どの項目を優先するかは技術者次第なのだろう。

BBCモニターの設計、つくり方を見て思うのは、ぎりぎりの性能を実現することよりも、
バラツキのないものをつくることを優先しているように思う。
ウーファーの振動板を紙からベクストレン、そしてポリプロピレンに変更していったのも、
性能向上とともに、バラツキのないものをつくれるメリットがあることも大きい。

BBCモニターを、どれでも実際に購入したことのある人ならば、
リアバッフルにシリアルナンバーが手書きで書いてあり、
同じシリアルナンバーで末尾にAがつくものと、Bがつくものとがペアになっているか、
シリアルナンバーが連番になっていることをご存じのはずだ。

4343時代のJBLは、同じ製造ロットのものが入荷してくるのだが、
シリアルナンバーが連番ということはまずなかった。
4341、4343のユニットレイアウトもそうだが、左右対称にはなっていない。
4343はトゥイーターの2405を購入者がつけ換えれば左右対称になるけれど、出荷時点ではそうなっていない。

BBCモニターのライセンスは、要請があれば、公共機関ということもあり、原則として与えるそうだが、
その審査はひじょうに厳しいものらしい。
BBCの仕様に基づいてつくられた製品に対して、サンプルは勿論、
量産品のクォリティコントロールまでチェックした上で与えられるそうだ。

これは言い換えると、ステレオ用スピーカーとして、
左右両スピーカーの性能が揃っていることを重視している、そう言っていいだろう。

Date: 12月 4th, 2008
Cate: BBCモニター

BBCモニター考(その3)

スピーカーの面構えやユニット構成、それまでのブランドイメージからから判断すると、
ロジャースのPM510よりもJBLの4343のほうが出力音圧レベルは高いように思われるだろうが、
先に書いたようにカタログ上の値では、PM510のほうが0.5dB高い。

スペンドールのBCIIの値は発表されていないが、聴いた感じでは80数dBぐらいだろう。
KEFの105.2が、たしか85dBだった。

LS5/8、PM510以前のBBCモニターのウーファーの振動板の材質はベクストレンで、
この材質の固有の音が、1.5kHzから2kHzで発生するため、
ダンピングのためのプラスティフレックスを塗布しなければならない。
そのせいで振動板質量が重くなり、能率の低下につながっていた。

PM510のウーファー振動板の材質、ポリプロピレンは表面にダンプ材を塗布する必要がない。
このためばかりではないと思うが、能率があきらかに向上している。
ただしエッジとの接着がひじょうにむずかしく、この部分も特許になっているらしい。

LS5/8の最大出力音圧レベルは、116dBである。JBLの4345が120dBということを考えると、
イギリスのスピーカーとしては、かなり驚異的な値といえるだろう。
ちなみにLS3/5Aは95dB/1.5mである。

ただしJBLのスピーカーが、長い時間でも、最大出力音圧レベルぎりぎりの音を出せるのに対して、
LS5/8はそれほど長い時間耐えられるわけではない。

ボイスコイルの発熱をどう逃がすか、そしてコーンアッセンブリー全体が熱にどのまで耐えられるかも、
どこまで耐えられるかの重要な要素である。

スイングジャーナル編集部に在籍したことのある友人Kさんから聞いた話だが、
山中先生が取材でLS5/8を鳴らされたとき、いい感じで鳴ったので、
ついついボリュームをあげて聴いていたら、ボイスコイルの熱によってポリプロピレンが融けてしまったそうだ。
こんなことは、JBLのスピーカーでは絶対に起こり得ない。