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Mark Levinsonというブランドの特異性(その36・補足)

夕方に、Kさんから電話があり、
瀬川先生もトーンアームの高さ調整には、ずいぶん神経を使われていたことを聞いた。

やはり瀬川先生も、レコードの厚みがかわることで、
カートリッジのヴァーティカルトラッキングアングルが変ってしまうことを指摘されており、
その都度調整されていたとのこと。

さらにレコードには、実効垂直録音角がある。
意外に思われるかもしれないが、1960年代まで、レコード会社によって、
実効垂直録音角はまちまちだった、ときいている

実効垂直録音角とは、ラッカー盤にカッティングする際、
カッター針の動きそのままの溝が、最終的に刻まれるわけではない。
もちろんカッター針で刻んだ直後は、針の動きそのままだが、
ラッカー盤の弾性によって、すこし元に戻ってしまう。いわば溝が変形してしまうわけだ。

この現象は、CBSが発見している。
これにより、垂直録音角がずれてしまう。
どの程度のズレが生じるかというと、ウェストレックスのカッターヘッド3Dだと、垂直録音角は約23度。
それが0度から1度程度になってしまう。この値が実効垂直録音角となる。
つまり22度ほど戻ることになる。

ヨーロッパのレコード会社で使われていたノイマンのカッターヘッドの垂直録音角は0度で、
実効垂直録音角は約−10度だと言われていた。

これだけまちまちだと、カッターヘッドの実効垂直録音角と
カートリッジのヴァーティカルトラッキングアングルが一致せず、
垂直信号に第2次高調波歪、混変調歪が発生、
左右チャンネル間での周波数変調歪、クロストークが発生するといわれ、
正確なピックアップは望みようもないため、
RIAAとIECによって、実効垂直録音角を15度に統一するように勧告が出された。

シュアーのV15の型番は、このヴァーティカルトラッキングアングルが15度であることを謳っているわけだ。

このようにレコードの実効垂直録音角は、ほぼ15度に統一されたわけだが、
レコード会社によって、じつはわずかに異る。
といっても以前のようにバラバラではなく、15度から大きくても20度までにおさまっていると聞いている。

だから厳密には、レコードのレーベルが違えば、厚みは同じでもトーンアームの高さ調整、
つまりカートリッジのヴァーティカルトラッキングアングルを調整すべきである。

Kさんの話では、瀬川先生は、お気に入りのレコードでは、最適と思われる角度(高さ)を見つけ出されて、
1枚1枚ごとにメモされていた、とのことだった。

最良のヴァーティカルトラッキングアングルを見つけるにはどうしたらいいかというと、
レコードの最内周での音で決める。

レコード内周ではトラッキングが外周よりも不安定になり、音像定位も不確かになってくる。
だから最外周と同じような音像定位の明確さと、フォルティシモでのトレースの安定度、
ビリツキのなさ、混濁感の少なさに耳の焦点を合わせれば、
馴れもあるけれど、最良の高さにするのは、それほど難しいことでもない。

そういえば、瀬川先生がデザインに関われていたというオーディオクラフトのAC3000 (4000) シリーズは、
高さ調整を容易にするために、目盛りがふってあったはずだ。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×七 825Ω)

オルトフォンのSPUシリーズ用として、STA6600という昇圧トランスがあった。
同じデンマークのトランス・メーカー、Jörgen Schou(JS)社のトランスを、ケースに収めたもので、
どちらかといえば安価な製品だったが、いま中古市場では、ときにかなり高価な値付けがされているらしい。

STA6600の、当時の評価は、それほど高いものではなかったし、
その後のMC型カートリッジブーム時に登場してきたトランスに比べると、
あきらかにナローレンジで、トランスらしい、というよりも、トランス臭さといった、
ネガティヴな印象のほうを強く感じさせてしまう。

実は、STA6600を持っていた。使っていたというよりも、格安で売られていたのを見つけたので、
とりあえず買っておいていた、という感じだった。

STA6600のつくり、内部配線を見ると、これでは、トランスがもったいない、と思う。
それで、たまたま引抜き材の、手頃な大きさのアルミのシャーシーが入手できたのをきっかけに、
STA6600のトランスを取り出し、こうすればいいのに、と思っていたことを実行してみたことがある。

このトランスの製作にかかった費用は、STA6600を別にすると、1万円もかかっていない。
加工や配線も、ほぼ1日で仕上げられた。

たやすく作ったように思われるだろうが、トランスの取りつけ方、アースの配線、配線の引き回し、
インピーダンス整合など、市販の製品がこうやっているから、という常識にとらわれることなく、
自分で納得のいくやり方を通した。

そして、このトランスを、早瀬さんのところに持ち込んでた。1989年だった。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その34・補足)

この項の(その34)で、すこし触れているマーク・レヴィンソンが録音・制作し、
MLAシリーズとして発売されていたアナログディスク。

レヴィンソン自身が言う、「音楽のイベントを正確に捉える」こととは、いったいどうものなのかを知る上で、
これらが録音されて30年以上経っているが、それでも、いま一度聴いておきたい。
そう思っていても、1枚7000円していたMLAのレコードを、いったいどれだけの方が購入されただろうか。
ごくごくわずかだろう。
それらが中古レコードとして出回ることは少ないだろうし、ばったり出会すことも稀なのはわかっているが、
そう思うと、よけいに聴きたくなるものである。

ふと、もしかして、と思い立って、Red Rose Musicのサイトを見たところ、
MLAシリーズのレコードすべてではないが、いくつかは、SACDで、いまでも入手できる。

当時、45回転LPで4枚組、つまり7000円×4で、28000円した、
チャールズ・クリグハウムのオルガンによるバッハのフーガの技法が、いまでは10ドルで購入できる。

レヴィンソンは、ステレオサウンド 45号のインタビューで、ソース・マテリアルという言葉を使っている。
日本では、プログラムソースという表現は使われるが、
原料・材料、資料・データの意味の material を使うことは、まずない。

この言葉に、レヴィンソンの考えがはっきりとあらわれている、と言えるだろう。
それとも、アメリカでは、ソース・マテリアルは一般的なのだろうか。

スチューダーのA80をベースにしたマスターレコーダーを20台用意して、
マスターテープを20本、同時に製作し販売することを考えていたレヴィンソンだから、
アナログディスクへの思い入れよりも、よりよい状態での提供を第一としていたのだろうから、
聴き手であるわれわれも、ソース・マテリアルとして、MLAのSACDを捉えたほうがいいのかもしれない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×六 825Ω)

伊藤喜多男先生は「トランスは生き物だ」と言われていた。

同じトランスが、ケーシングの違い、アースの取り方をふくめた配線の仕方、
インピーダンス整合をどうとるか、取りつけ方などによって、驚くほど音は変化していく。

電源を必要とせず、インピーダンス変換を行なったり、アンバランス/バランスの変換、
昇圧などをこなしてくれる。

MC型カートリッジの昇圧手段として、ヘッドアンプか昇圧トランスか、は度々語られてきた。
どちらを採るかは、人それぞれだろうし、同じ人でも、使うカートリッジや、
聴きたいレコードによって、使いわけもされていることだろう。
どちらが優れているかは、実際に市販されている製品を比較するわけだから、
方式の優劣よりも、製品の完成度を比較しているにすぎない。

だから断言こそできないが、それでもオルトフォンのようなローインピーダンスのモノには、
トランスに分があるように感じている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続×五 825Ω)

MC型カートリッジをヘッドアンプで使うとき、必ずしも、
カートリッジのインピーダンスとヘッドアンプの入力インピーダンスを一致させる必要はどこにもないし、
すこし極端なことを言えば、ハイインピーダンスのMC型カートリッジをローインピーダンスで受けても、
カートリッジ本来の特性は活かしきれないものの、ヘッドアンプやカートリッジがこわれたりはしない。

ヘッドアンプの入力インピーダンスを切り替えてみると、わりとハイインピーダンスで受けたほうが、
伸びやかさが増す傾向にある、と言えるだろう。
特にローインピーダンスのカートリッジを、そのままローインピーダンスで受けると、
ヘッドアンプの場合、どこか頭を押さえつけられているかのような印象がつきまといがちだ。

良質のトランスと組み合わせた時の、フォルティシモでの音の伸びの気持ちよさが、
すっと伸び切らずに、スタティックな表情にやや傾く。
そういうところを、レヴィンソンは嫌ったのだろうか。

最初は3Ωあたりから聴きはじめ、10Ω、20Ω、100Ω……と聴き続けていき、825Ωという値にたどりついたのか。

1kΩでも良さそうなものなのに、とも思う。
けれど825Ωに、レヴィンソンがこだわるのは、ある特定のカートリッジで、
音を追い込んでいき、決めた値なのだろうか……。

しかし、この825Ωという値は、マーク・レヴィンソンがいなくなった後のアンプ、
No.26L、No.28Lにも受け継がれている。
そしてスレッショルドのXP15も採用しているということは、
意外にも汎用性、普遍性のある値なのかもしれない、とも思ってしまう。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続々続々825Ω)

マークレビンソン・ブランドのカートリッジ MLC1以前に、
マーク・レヴィンソンが使っていたカートリッジが何だったのかというと、
いくつかのブランドのMC型カートリッジを使っていたなかで、
スペックスのカートリッジを常用している、ということを聞いたことがある。

当時スペックスといえば、「日産21個」という広告が印象に残っているが、
ステレオサウンドで取りあげられる機会もそれほど多くはなく、
地味なブランドのように受けとめている人も少ないだろうが、
アメリカでの人気は非常に高かったときいている。

1970年代後半から、アメリカでMC型カートリッジがもてはやされるようになったのは、
スペックスのSD909が、先鞭をつけたからである、とも言われている。
レヴィンソンが使っていたとしても、不思議ではないし、MLC1もスペックスのOEMだという話も聞いている。

スペックスは、一貫してオルトフォン・タイプのMC型カートリッジをつくってきていて、
SD909のコイルの巻枠にはパーマロイ系の材質を使用し、形状は四角形で、
井桁状に左右チャンネルのコイルが巻かれている。
コイルの巻数はオルトフォンのSPUよりも多いようで、SPUが負荷インピーダンス2Ωに対し3.5Ω、
出力電圧もSPUの0.2mV (5cm/sec)よりもすこし増え、0.28mVとなっている。

MLC1は写真でしか見たことがなく、スペックも知らない。
出力電圧、インピーダンス、針圧などがどれだけなのかはわからないが、
もしスペックスのOEMが本当の話だとしたら、SD909をベースにしたものであるだろうし、
基本特性はほぼ同じであろう。

つまりSPUタイプのローインピーダンスのMC型カートリッジの負荷インピーダンスとして、
レヴィンソンは825Ωを選択した、と考えても、そう間違ってはいないと思う。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続続々825Ω)

1980年に登場したML7Lは、パネルフェイスはML1L、JC2と同じでも、
内部はまるっきり一新されていた。

JC2やLNP2で採用された、マッチ箱大のモジュールユニットは、メイン基板の上に、
それぞれのアンプ部が構成された、いわゆるドーターカード式に変更されるとともに、
回路を構成する部品点数も大幅に増え、カードの大きさも、かなり大きくなっている。

フォノカードがL3、ラインアンプのカードがL2で、さらにフォノカードは、
MC型カートリッジが直接接続できるL3Aカードも用意されていた。
このL3Aカードの入力インピーダンスが、825Ωだったのだ。

それまでMC型カートリッジ用ヘッドアンプの入力インピーダンスといえば、
低いもので10Ω、高いもので100Ω程度で、カートリッジのインピーダンスによって切り替えるようになっていた。
そういう時代に、825Ωという値を採用したマークレビンソンのML7L。
その利用は、聴感を重視した結果ということを、ステレオサウンドのインタビューで、
マーク・レヴィンソンが答えていたはずだ。
技術的な理由は、一切語っていなかった、と記憶している。

当時、マークレビンソンからは、MC型カートリッジ、MLC1も登場していた。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続々825Ω)

プレーヤーのキャビネットの上に、指で弾くと、ガチャガチャと安っぽい雑共振の音がするもの、
たとえばカセットテープのケースやCDのプラスチックケースなどを置いてみる。
きちんと調整がなされているアナログプレーヤーであれば、
置いた途端に、音の品位が損なわれるのが、はっきりとわかる。

プレーヤーのキャビネット、ベース上に、便利だからといって、針先のクリーナーや針圧計、
その他、アクセサリー類を置きっぱなしにしているのであれば、まずそれを片付けてみる。
つまり別のところに移動する。
これだけで、すっきりと、細部まで、ローレベルまで、見通しのいい音になる。

トーンアームは共振物である。

すこし以前のものだが、ラックスのPD444、トーレスンのTD226やリファレンスなどは、
トーンアームを複数取りつけが可能だ。
これらのプレーヤーで試してみると、トーンアームが1本余分についていることが、
どれだけ音を濁しているのか、はっきりとわかる。

気にいっているカートリッジを、すこしでもよい状態で鳴らすために、
専用のトーンアームを、それぞれに用意したことが、結果として影響を与えてしまう。

それでもトーンアームを2本使いたいとき、つまりカートリッジを交換しながらも、
できるかぎり調整して追い込んだ音で聴きたいときには、どうすればいいのか。

プレーヤーを2台用意できれば、それに越したことはないが、
そう簡単にできることでもない。

あとはオーディオクラフトのAC3000 (4000) MCのように、アームパイプが複数用意され、
カートリッジのコンプライアンスによって交換できるモノを使う手もある。
これでも交換のたびに調整の手間は必要となる。
もうひとつ、トーンアーム1本の時の音を聴かないことだ。

一度でも聴いてしまうと、耳が憶えてしまい、求めてしまう。
だから、あえて聴かない。
聴かないことも、時には、重要となることがある。

Date: 4月 6th, 2009
Cate: JBL, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その45)

4350は「この下手をすると手ひどい音を出すジャジャ馬」であり、
「いいかげんなアンプで鳴らしたのでは、とうていその真価を発揮しない。
250Hzを境にして、それ以下の低音は、ともすれば量感ばかりオーバーで、ダブダブの締りのない音になりがちだ。
また中〜高音域は、えてしてキンキンと不自然に金属的なやかましい音がする」スピーカーであると、
瀬川先生は書かれている。

けれどマークレビンソンのML2Lのブリッジ接続で鳴らす4350の低音は、一変する。

「低域の締りの良いことはちょっと例えようのない素晴らしさだ。
ブリッジ接続による十分に余裕ある大出力と、
4350をふつうに鳴らした低音を聴き馴れた人にはウソのように思えるおそろしく引き締った、
しかし実体感の豊かなというより、もはやナマの楽器の実体感を越えさえする、
緻密で質の高い低音は、これ以外のアンプではちょっと考えられない。」

このころ、ステレオサウンドの記事でも、4343を、ほぼ同じ構成で鳴らされている。
場所は、瀬川先生の、新居のリスニングルーム。

スピーカーが4350から、瀬川先生が愛用されていた4343に変わった以外は、
チャンネルデバイダーのLNC2Lが、JC1ACと同じく、2台用意して、
片チャンネルを遊ばせてのモノーラルでの使用である。

プレーヤーもマイクロの糸ドライブと同じだが、記憶では、ステレオサウンドの記事では、
トリオから発売されていた、セラミック製のターンテーブルシートを併用されていたはずだ。

4350、4343をML2L、6台で鳴らされた経験のあとに、ベストバイ特集のステレオサウンド 55号が出ている。
瀬川先生は、パワーアンプのマイベスト3に、ML2Lを選ばれていない。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・続825Ω)

当時、オーディオクラフト、サエクからは、
MM型カートリッジ用は低容量のシールド線、MC型カートリッジ用は低抵抗のシールド線という具合に、
トーンアームの出力ケーブルがそれぞれ用意されていた。

シールド線の構造上、低抵抗を実現するために芯線を太くすると、シールド線との間隔が狭まり、
結果として線間容量は増す。
線間容量を減らすには、芯線とシールド線との間隔を広げることで、こんどは芯線が細くなり、抵抗値が増す。

もちろん芯線を太くして低抵抗を実現しながら、シールド線との間隔を広げれば、低容量も両立できる。
ただし線径はかなり太くなってしまい、ケーブルの取り回しが面倒になる。
それにコネクター部の処理もたいへんなことになる。
それからフローティングプレーヤーを使用していると、フローティング機能そのものの妨げにもなる。

ケーブルの太さにも限度がある以上、低抵抗と低容量を実現するのは、なかなか難しい。
このことは、つまり一本のトーンアームで、
カートリッジをMC型、MM型と頻繁に交換するうえでの問題点とも言える。

どんなに針圧、トーンアームの高さやその他の調整を、カートリッジ交換のたびにまめに調整したとしても、
トーンアームの出力ケーブルが、どちらかのタイプがついたままならば、
すべての苦労が無駄になる、とは言わないまでも、詰めの甘さが残ることとなる。

もっともカートリッジのコンプライアンスを考慮すると、
トーンアームの実効質量とのマッチングも必要となるため、
事実上は、一本のトーンアームでMC型、MM型のカートリッジを混用するのは避けるべきだ。

となると1台のプレーヤーに2本以上のトーンアームを取りつけて、
それぞれMC型、MM型用にするという手も、もちろんあるけれど、これはこれで別の問題が生じてくる。

Mark Levinsonというブランドの特異性(余談・825Ω)

「825Ωの復活か」──
エレクトリのサイトで公開されている
パス・ラボラトリーのフォノ・イコライザーアンプXP15の入力端子の拡大写真を見ていて、そんなことを思った。

1970年代、プログラムソースといえばアナログディスク(LP)だった時代、
コントロールアンプだけでなくプリメインアンプにも、フォノ入力の負荷抵抗を切替え機能が装備されていた。
MM型カートリッジの、メーカー推奨負荷抵抗値は、47kか50kΩ。
アンプ側も、標準の入力抵抗は47kか50kΩだが、この他に68k、75k、100kΩのポジションも用意されていた。
たいていは値が大きくなるだけだが、一部、25k、10kΩのポジションを持つアンプもあった。

標準の50k(47k)Ωよりも負荷抵抗値を上げていくと、カートリッジの高域特性のピークがより持ち上がる。
負荷抵抗を下げていくと、なだらかに高域が減衰していく。

また負荷容量を変えていくと、やはり高域特性に変化が見られる。
負荷抵抗を50kΩに固定して、負荷容量を増やしていくと、やはり高域のピークが大きくなるとともに、
ピークの中心周波数がわずかに低くなる。

トーンコントロール的な変化に近いが、たとえ同じような周波数特性になったとしても、
トーンコントロールで高域を上昇させた音と、
負荷抵抗を標準値よりも高くした音は、表面的な効果は似ていても、
カートリッジのピークは振動系のものだけに、音楽の細かな表情は,ずいぶんと違いが生じる。

だから負荷抵抗をあげて負荷容量も増すという使い方もあれば、
負荷抵抗だけを下げて、ということも試しながら、トーンコントロールとも併用してみる。
70年代のアンプでは、そういう使い方ができた。

さらに負荷容量に関しては、トーンアームの出力ケーブルがもつ線間容量も、負荷容量にプラスされる。
この部分のケーブルが長くなると、それだけ負荷容量は増していく。
1mのケーブルと2mのケーブルでは、同じ品種ならば、後者の線間容量は2倍の値になる。

Date: 4月 3rd, 2009
Cate: JBL, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その44)

まっさらの新品の4350から、いきなり、まともなチェンバロの再生ができるわけがない、
そう思われる方もおられるだろう。
     ※
JBL#4350は、発表当初からみると、ずいぶん音の傾向が、以前よりよく揃っているし、バランスも向上している。
初期の製品は、中高域を受け持つホーンのエイジングが進むまでは、ホーンの中に多少の吸音材をつめ込んだりして、この帯域を抑えなくては少々やかましい感じがあったのだが、最近のWXAでは、そのままでほとんどバランスが整っていると思う。
     ※
スイングジャーナルの記事には、こう書かれている。
最新の4350AWXだからと、いうこともあろう。

けれど、これほどうまく鳴ったのは、まっさらの新品だから、であろう。

レコード芸術の連載「My Angle いい音とは何か?」(残念ながら一回だけで終ってしまった)の結びは,次のとおりだ。
     ※
あきれた話をしよう。ある販売店の特別室に、JBLのパラゴンがあった。大きなメモが乗っていて、これは当店のお客様がすでに購入された品ですが、ご依頼によってただいま鳴らし込み中、と書いてある。
スピーカーの「鳴らしこみ」というのが強調されている。このことについても、改めてくわしく書かなくては意が尽くせないが、簡単にいえば、前述のように毎日ふつうに自分の好きなレコードをふつうに鳴らして、二年も経てば、結果として「鳴らし込まれて」いるものなので、わざわざ「鳴らし込み」しようというのは、スピーカーをダメにするようなものだ。
下世話な例え話のほうが理解しやすいかもしれない。
ある男、今どき珍しい正真正銘の処女(おぼこ)をめとった。さる人ねたんでいわく、
「おぼこもよいが、ほんとうの女の味が出るまでには、ずいぶんと男に馴染まさねば」
男、これを聞き早速、わが妻を吉原(ソープランド)に住み込ませ、女の味とやらの出るのをひとりじっと待っていた……とサ。
教訓、封を切ったスピーカーは、最初から自分の流儀で無理なく自然に鳴らすべし。同様の理由から、スピーカーばかりは中古品(セコハン)買うべからず。
     ※
おそらくサンスイのショールームで鳴らされた4350は、いろんな人が鳴らされたのであろう。

愛情を込めて鳴らされた人もいれば、即物的に鳴らされたこともあるはず。
特定の人が、無理なく自然に鳴らしてきた4350ではない。

幾人もの手垢のついた4350が、スレてきていたとしても不思議ではない。
そういう4350だったら、瀬川先生も、ずいぶんと苦労されたであろう。

封を切ったばかりの4350だったからこそ、誰の手垢もついてないからこそ、
瀬川先生の鳴らしかたに、素直に反応してくれたのだろう、といったら、すこし擬人化しすぎだろうか。

Date: 4月 3rd, 2009
Cate: JBL, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その43)

瀬川先生が取材で使われた4350は、まっさらの新品だった。

スピーカーの設置、ML2L、6台を、熱のこと、電源容量のことなどを考慮しながらの設置、
マイクロの糸ドライブ・プレーヤーの設置と調整、
トーンアームのAC-4000MCの基本的な調整、各アンプ間の結線と引き回しなど、
セッティングに30分ほど時間がかかり、瀬川先生は、いきなりチェンバロのレコードをかけられている。

サンスイのショールームで4350を鳴らされたときとは異り、
最初から驚くほどの音が出たと、Kさんから聞いている。

山ほどレコードを持参されており、ほとんどすべてのレコードをかけられたらしい。
ただ残念なことに、30年も前のことだから、Kさんも、記憶が曖昧とのこと。
なにかのきっかけがあれば、ふっと思い出すかもしれない、と言っていた。

聴きながら、さらに細かい調整(チューニング)で、4350の音を追い込まれていった。
スラントプレート(音響レンズ)を、上向きにしたり、標準の下向きに何度も変えてみたり。

食事に出かける時間がもったいなくて、それほどいい音が鳴り響いてきて、弁当で済ませたらしい。

試聴に立ち会う人によって、音が変わる、と瀬川先生は、はっきりと言われていたと聞いている。
だから、これだけ大掛かりにも関わらず、瀬川先生を含め、3人だけの試聴なのだ。

Date: 3月 31st, 2009
Cate: KEF, 現代スピーカー
2 msgs

現代スピーカー考(余談・その3)

節倹の精神に富んでいるといわれるイギリス人。
いまもそうなのか、それとも薄れつつあるのかはわからないが、
過去のイギリスのオーディオ機器を眺めてみると、確かに、と納得できる例がいくつもある。

節倹とは、悪く言えばケチ、しみったれと言えなくもない。
長く使えるものを買い手は選び、つくり手は、意を尽くし必要最小限のことしかせず、
そのことが長持ちすることへつながっているようにも感じられる。

KEFの303はプラスチック樹脂製のエンクロージュアに、素っ気無い仕上げを隠すように、
グリルで、ほぼ全面を覆っている。
合理的なローコスト化であり、バラツキの少ない材質選び、製品づくりでもあろう。

303は木や紙といった天然素材を、ほぼ全面的に排除している。
バラツキの少なさはローコスト化につながるだけでなく、
そのための工夫は、結果として長持ちすることになっているように、
昨日、ひさしぶりに、303を見て、聴いて、そう思った。

KEFの303は、124000円(ペア、1980年当時)と同社の製品、輸入品としては低価格のスピーカーなのだが、
オーディオに関心のない人からすると、スピーカーだけに10万以上というのは、高価なものだろうし、
日本の大メーカーが、徹底すれば、同じつくりならば、もっと安く作れるはず。

けれど、同じ音がしても、ただ安くつくるだけでは、節倹の精神が息づいていなければ、
新品のころはまだしも、果たして30年──ここまで持たなくてもいいけれど、
10年、20年、古びてボロボロになることなく、303のように、きちんと音を鳴らしてくれるだろうか。

安くても、数年しか持たないスピーカーと、多少高くても長く使えるスピーカー、
どちらが真のローコスト・スピーカーなのかは、はっきりしている。

Date: 3月 30th, 2009
Cate: KEF, 現代スピーカー

現代スピーカー考(余談・その2)

自宅から徒歩圏内にある(といってもけっこう歩くけど)、昔からある個人経営のレコード店は、
タワーレコードやHMVといった、よく利用する大型店には置かれなくなったCDが、意外に置いてある。
4年前に、菅野先生から頼まれたCDのうちの1枚は、このレコード店で見つけたし、
そのすこし後に友人から、さがしてほしいと依頼のあったCDも、実はここで購入している。

クラシック専門店ではないけれど、大半はクラシックのCDとDVDという品揃えで、
廃盤になって入手困難になっている国内盤に関しては、かなり高い確率で揃っている。

今日も、数年前に限定盤で出ていたCDを、ここで購入した。
やはり置いてあったか! という感じで、そこにあった。
アマゾンでは中古盤が定価の4倍ほどの値段で売られているのが、新品で、もちろん定価で購入できた。

店に入ったとき、マーラーの交響曲が鳴っていた。
けっして小さな音量ではないが、といって大音量でもないけれど、耳障りにならず、
それでいて音楽に注意が向いてしまう。

目的のCDを見つけるのに気をとられていて、最初はスピーカーに関心がいかなかった。
レジでお金を払い、出口のほうを向いたときに目にはいったのは、なつかしい、KEFの303だった。

何度か利用しているにも関わらず、なぜ今日まで気がつかなかったのか、それも我ながら不思議な気もする。
303は、専用スタンドとともに、出入り口の両側に設置されていた。

1980年ごろのスピーカーだから、30年近く、レコード店の営業時間中は音楽を鳴らしてきたのだろう。
それにしても、草臥れている感じはなかった。
エンクロージュアの4面を囲んでいるグリルも、オリジナルのままのようで、
経年変化でボロボロになってたり、破れがあったり……、なんてことはなかった。

ほーっ、と感心していた。なんと長持ちしているスピーカーだろう、と。