Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 8月 26th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その7)

松下電器産業の無線研究所でダイレクトドライヴの開発が行なわれていた1960年代後半当時の測定用レコードは、
当時のアナログプレーヤーのS/N比を測定するのには問題のないレベルだったが、
世界初のダイレクトドライヴが目標とした60dBのS/N比の測定には役に立たないレベルでしかなかった。

どんなにアナログプレーヤーのS/N比が向上しようとも、
測定に使うレコードのS/N比が60dB以上でなければ、
それはレコードのS/N比の限界を測定しているようなものである。

60dBのS/N比のためには、60dB以上のS/N比の測定用レコードを確保することが必要になる。
そこで市販されていた測定用レコードを使わずに、ラッカー盤をそのまま使った測定用レコードにする。
これだけで10dB向上する、とのこと。

それでもまだまだである。
次にラッカー盤の削り方の工夫。それからカッティングマシンの回転数を33 1/3回転から45回転にアップ。
これでラッカー盤測定用レコードのS/N比は50dB近くに。それでも足りない。

33 1/3回転から45回転にしたことで約10dBの向上がみられるのならば、
さらに高回転、つまりSPと同じ78回転にすることで目標の60dBのS/N比の測定用レコードを実現。

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のテクニクス号で、この記事を読んで気がついた。
SP10は、初代モデルもMK2もMK3にも78回転があった。

私がSP10MK2の存在を知った1976年、
国産のダイレクトドライヴ型のアナログプレーヤーで、78回転に対応していたのは、他になかった。
そのときは、SP10はダイレクトドライヴのオリジネーターということ、
テクニクスを代表するモデルだから、78回転もあったのだと思っていた。

もちろんそれも理由としてあっただろうが、78回転に対応していなければ、
当時の技術では60dBレベルのS/N比を測定することができなかったから、も理由のひとつのはずだ。

Date: 8月 25th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その6)

松下電器産業には当時15ヵ所の研究所をもっていた。
これらの中で、オーディオと関係していたのは、
中央研究所、材料研究所、無線研究所、音響研究所、電子工業研究所、生産技術研究所の六つである。

ダイレクトドライヴを開発した無線研究所は、テクニクス号によれば、
テレビ、音響機器とそれらを支える電子部品の研究開発、電波伝送理論から高周波・低周波の回路系、
精密機械系や電子部品にいたるまで広範にわたる、とある。

その無線研究所が目標としたS/N比60dB。
これを実現するには、S/N比60dB以上を測定できる環境がまず必要となる。

開発がはじまり1967年には試作品一号機ができる。
無線研究所は線路の近くにあったため、測定は深夜に行なわれていた。

もちろん測定には防振台の上に置かれて行なわれるのだが、
電車の通過によって地面が振動してしまっては、防振台でも完全には遮断できないため、
電車の運行が終っての深夜、S/N比の測定は始まる。

試作機は一号機、二号機……となり、S/N比は向上しているはずだし実感できているのに、
測定値は30dBあたりで足踏みしていた。
原因は測定用レコードにあった。

Date: 8月 25th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その5)

1975年にMK2となったSP10。
それ以前に、Technicsのロゴの前からナショナルのマークは消えている。
いつごろ消えたのかははっきりとしない。

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」テクニクス号でも、確認できる。
何枚かのSP10の写真が載っていて、Technicsのロゴだけになっているのがある。

SP10は1970年6月の発表だが、
ダイレクトドライヴの発表は一年前に行なわれている。

この本によると、ダイレクトドライヴの開発に松下電器産業が着手したのは昭和41年(1966年)頃となっている。
SP10登場まで四年間である。

ダイレクトドライヴの開発にあたったのは音響研究所では無線研究所である。
ダイレクトドライヴ登場以前、モーターゴロを発生するプレーヤーが当り前のようにあった。
当時のオーディオ雑誌のプレーヤーの評価記事をみても、モーターゴロという単語が登場する。
モーターゴロがあればターンテーブルのS/N比は十分な値が確保できない。

SP10の登場、つまりダイレクトドライヴの登場は、アナログプレーヤーのS/N比を確実に向上させている。
無線研究所では、それまでのアナログプレーヤーの一般的なS/N比25〜30dBに対し、
60dBを目標としていた。

Date: 8月 24th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その4)

Technicsのロゴの頭につくナショナルのマーク。
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」テクニクス号に掲載されている写真をみていく。

アメリカではテクニクス・ブランドが登場する以前からパナソニック(Panasonic)ブランドであり、
当時のアメリカでの広告には、Technics by Panasonic の文字がある。
ちなみに1973年のアメリカでの広告には、こう書いてある。

Introducing a new world in the Hi-Fi vocabulary:
Technics[tek·neeks′]n. a new concept in components.

ハイファイ用語に登場した新しい単語を紹介しましょう。
テクニクス、名詞。コンポーネントの世界に置ける新しい概念

tek·neeks′は発音記号で、カタカナ表記すれば、テク・ニークスか。
そういえば1970年代後半、テレビコマーシャルで流れていたのも、テク・ニークスだったはず。

アメリカではブランドとしてナショナルではなくパナソニックが使われていたが、
イギリス、フランス、ドイツなどヨーロッパでは、ナショナル・ブランドだった。

「世界のオーディオ」テクニクス号でも、海外でのテクニクスについての記事では、
SP10同様、Technicsのロゴの頭にナショナルのマークがついているのが確認できる。

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その3)

そのSP10だが、ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」のテクニクス号を読むと、
すこし意外なことが書かれている。
菅野先生の文章だ。
     *
 テクニクスというと、私はいまだに思い出す1つの光景がある。それは、ダイレクトドライブ・ターンテーブルSP10との最初の対面のときだ。今から8年ほど前になるこの出会いは、ターンテーブル・メカニズムの発想を根本から変えたという意味で、大変にショッキングなものだった。
 と同時に、そのSP10を松下電器の方々が、はじめて私の家に持ってこられたときの光景を思い出すわけだ。そのとき私は「松下という会社は、昔から決してオーディオに冷たいメーカーではない。大メーカーのなかでは、われわれにとって、アマチュア時代からなじみのあるメーカーだ。しかし、松下電器とか、ナショナルとかいうブランドはオーディオに対して訴える力がどうしても弱く感じられる。それはオーディオのイメージが弱いというよりも、そのほかのイメージが強すぎるからだろう。たとえば、このSP10にもNATIONALというマークがついている。するとどうしても電気がまや掃除機のイメージの方が強くなるから、このマークは取り去った方が良いのではないですか」という話をした。
 そのとき「いや、これは会社の憲法であり、これを変えたら大変なことになる」という言葉が返ってきたが、私は「オーディオというのは非常に趣味性の高いものだし、オーディオファンが親しみと信頼をもってくれるブランド名を製品に与えるのが本当だと思う。そのためにも考え直された方が良いのではないだろうか」といった覚えがある。
     *
意外だった。
テクニクスの顏といえる存在のSP10に、最初のころとはいえ、ナショナルのマークがついていたことは。

テクニクス号には、いくつかのSP10の写真が載っている。
その中にはナショナルのマークはないものが多いが、
小さな写真でぼんやりしているが、
ひとつだけ、Technicsのロゴの左側にナショナルのマークらしきものが見えるのがある。

Date: 8月 22nd, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その2)

松下電器産業からテクニクス(Technics)ブランドの最初の製品、
Technics1が登場したのは昭和40(1965)年6月である。

来年(2015年)は、テクニクス・ブランド誕生から50年にあたる。
それもあってのテクニクス・ブランドの復活なのかも、とも思っている。

1965年は松下電器産業が、音響研究室を発足させた年でもある。
この音響研究室がのちの音響研究所だ。

1963年生れの私にとって、テクニクスときいて、真っ先に浮ぶイメージは、
リニアフェイズのスピーカーシステム、それからSP10から始まったダイレクトドライヴ型ターンテーブルである。

世界初のダイレクトドライヴ型でもあるSP10は、テクニクスの顏でもあった。
私がオーディオに興味を持ち始めた1976年には、SP10は改良されSP10MK2となっていた。
たしか1975年にSP10MK2になっている。

さらに1981年に、ターンテーブルプラッターを従来のアルミダイキャスト製3kgから、
銅合金+アルミダイキャスト製で、重量は10kgのものへと変更されたSP10MK3が出た。

ダイレクトドライヴ型は性能はいいけれど、音は芳しくない、といわれた時期に、
テクニクスがオリジネーターの意地を見せつけてくれた製品でもあった。
SP10MK2は15万円だったが、MK3では25万円になっていた。

SP10は、やはりテクニクスの顏であった。

Date: 8月 18th, 2014
Cate: Technics, 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これから(テクニクス・ブランドの復活・その1)

テクニクス・ブランドが年内に復活する、というニュースが昨日あった。
詳細についてはほとんどわからない。
どういうラインナップで復活するのか、具体的な情報はない。

なので、テクニクス・ブランドの復活に対しての個人的な感情は、いまのところない。
嬉しい、とも感じていないし、いまさら、とも思っていない。
ほんとうに年内に復活するのであれば、あと四ヶ月以内の話である。

もう少しまてば、いろいろなことがはっきりしてくる。
その時点で、どう思える製品を出してくるのか。

日本のオーディオメーカーは専業メーカーももちろんあるが、
松下電器産業(パナソニック)、東芝、日立といった総合電気メーカーがオーディオも手がけていた。

当時はそれがあたりまえのことであったけれど、
オーディオ業界が衰退していくと、日本のメーカーの特色がよりはっきりしてきた。

海外の、どのオーディオメーカーでもいい、
アンプにしろスピーカーシステムにしろ、
そこに使われているすべてパーツを自製できるメーカーがいくつあるだろうか。

アンプならばトランジスター、LSIといった半導体を開発製造し、
受動部品のコンデンサー、抵抗も製造する。トランスも必要となる。
スピーカーでは、振動板の材質、マグネットなどがある。

すべてのパーツを自社で製造したから優れたオーディオ機器がつくれる──、
というものではないことはわかっているが、
そういうことができるメーカーが、以前はオーディオ機器をつくっていた。

このことは時代が経つにつれ、すごいことだった、と実感できる。

Date: 6月 18th, 2014
Cate: JBL, Studio Monitor, 型番

JBL Studio Monitor(型番について・続余談)

リニアテクノロジーは、LTspiceという回路シミュレーターを公開している。
この回路シミュレーターは無料で使える。
これまではMac用はなかったけれど、昨年秋に公開されたことを先月に知った。
さっそくダウンロードした。

このときにリニアテクノロジーのtwitterのアカウントもフォローした。
昨日のツイートに、LTC4320と書いてあった。

4320という型番の製品がリニアテクノロジーにあるのか、と思って、
他にどんな型番の製品があるのか検索してみたら、LT4320というのもあった。

こちらはMOS-FETを使って整流回路を構成するパーツで、
資料には理想ブリッジダイオードコントローラーとある。
これはそのままオーディオにも使える製品である。
それに4320という型番がついているのだ。

他愛のないことだけど、これだけのことで使ってみたい気にさせてくれる。

Date: 6月 15th, 2014
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その29)

ガリバーが小人の国のオーケストラを聴いている──、
こんなイメージに必要なのは、自分(ガリバー)が小人よりも大きいと意識できるかどうかであり、
実際に小人のオーケストラを聴いたことがあるわけではないが、
それでも想像できるのは目、耳と同じ高さに小人のオーケストラがあるよりも、
やはり下に位置した方が、より自分の大きさ(相手の小ささ)を意識できるのではないのか。

20代のある時期、私もLS3/5Aを鳴らしていたことがある。
あくまでもサブスピーカーとしてだったから、専用スタンドを用意することはなかった。
聴きたくなったら、何かの台にのせて鳴らしていた。
その台は、LS3/5A用として売られていたスピーカースタンドよりも低いもので、
LS3/5Aを斜め上から見下ろす感じで聴いていた。

そのせいか、いまでも小型スピーカーをごくひっそりとした音量で鳴らす時は、
こんなふうにして聴くことが多い。

ここでもう一度瀬川先生の「いま、いい音のアンプがほしい」の冒頭を読み返してみよう。
こうある。
     *
このゴミゴミした街が、それを全体としてみればどことなくやはりこの街自体のひとつの色に統一されて、いわば不協和音で作られた交響曲のような魅力をさえ感じる。そうした全体を感じながら、再び私の双眼鏡は、目についた何かを拡大し、ディテールを発見しにゆく。
     *
全体を感じながら、目についた何かを拡大し、ディテールを発見しにゆく、とある。
この聴き方こそ、瀬川先生の聴き方ななのかもしれない。

何かを拡大する──、そういう聴き方に向いているといえるのは、JBLだったといえないだろうか。

Date: 6月 14th, 2014
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(続2397の匂い)

おそらく20年以上前のテレビ番組だったと記憶している。
ストラディヴァリウスの音色の秘密を探る、といった番組だった。

同じテーマの番組は、これまでもいくつかつくられているようで、
ストラディヴァリウスの番組をみた、という人と話しても、必ずしも同じ番組とは限らなかったりする。

私がみたのは、ストラディヴァリウスの音色の秘密を探っている各国の人たちが登場していた。
それぞれに独自の理論(のような)があった。

その中のひとりは、ストラディヴァリウスの音の秘密はニスだといわれているけれど、
実はボディに使われている木にあって、あるものが含浸されている、ということだった。
現在、同じものを含浸するとすれば、こうするのがいい、ということで彼が実際にやってみせていたのは、
木を防虫剤で煮込む、というものだった。

そうやってつくられたヴァイオリンが、どれだけストラディヴァリウスに近いのかははっきりとしないけれど、
音は防虫剤を含浸されるのとさせないとでははっきりと違う、とのこと。

ということはJBLのエンクロージュアや木製ホーンに使用されている防虫剤は、
どの程度使われているのか、それにどういう防虫剤なのかもはっきりとはしないけれど、
音に少なからぬ影響を与えている可能性は考えられる。

ストラディヴァリウスの再現を目指している彼か使っている防虫剤と、
JBLが使っていた防虫剤、
成分はどの程度似通っていて違っているのか。

そんなことを考えていた日があったことを思い出した。

Date: 6月 13th, 2014
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その28)

音楽之友社が毎年出していた「ステレオのすべて」。
瀬川先生は、山中先生のリスニングルームに行きエレクトロボイスのパトリシアンを見るたびに、
横に倒したくなる──、そんなことを発言されている。

何もパトリシアンを横置きにしたほうが音が良くなる、という理由ではなく、
瀬川先生はとにかく背の高いスピーカーをダメだった。嫌われていた。
ただそれだけの理由でパトリシアンを横にしたくなる、ということだった。

その点、パラゴンは問題ない。

それは音に関してではなく、あくまで見たイメージの問題としてなのだが、
なぜ瀬川先生は背の高いスピーカーがダメだったのか。

いまとなっては、その理由はわからない。
ただ、瀬川先生が比較的小音量で聴かれることも、無関係ではないように思う。

ガリバーが小人の国のオーケストラを聴く。
このときオーケストラはガリバーの耳と同じ高さにあるのではなく、
下に位置するイメージを、私は描く。

瀬川先生が、小人の国のオーケストラ……、という発言をされたとき、
小人の国のオーケストラと聴き手の高さ方面の位置関係は、どう描かれていたのか。

瀬川先生が背の高いスピーカーを嫌われていることが、自然と結びついてくる。
小人の国のオーケストラを、斜め上から聴いている──、
私には、瀬川先生もそうだったのではないか、と思えてならない。

「いま、いい音のアンプがほしい」の書き出し。
目黒のマンションの十階からの眺め。
ここを読んでいるからなおさらである。

Date: 6月 13th, 2014
Cate: 4343, JBL

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・2440ではなく2420の理由)

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その3)で、
なぜ2440ではなく2420なのか、と書いた。

いくつか考えられる理由はある。
最大の理由は音のはずだが、ハークネスの上に2441+2397をのせていて気づくことがある。
見た目のおさまりに関することだ。

2440(2441)は直径17.8cmある。
これに2397を取りつける。そしてエンクロージュアの天板のうえに置いてみる。

そのままではホーン側が下を向く。
ホーンが水平になるようにホーンに下に何かをかます。

2397の外形寸法をみると高さは9.5cmとなっている。
これはスロートアダプターを取りつける部分の高さであり、
2397のホーン開口部の高さは約7cmである。

ということは2441の外径17.8cnから2397のホーン開口部の高さを引いて2分割した値が、
2397とエンクロージュア天板との間にできるスキマということになる。

これが意外に気になる。
空きすぎているからだ。

このスキマができることは最初からわかっていたけれど、実際に置いてみると、
予想以上に空いている。

これが2420ならば14.6cmだから、スキマも少し狭まる。
実際に2420にしてみたわけではないからなんともいかないけど、
ここでの数cmの違いは、大きく違ってくるはずだ。

もしかすると瀬川先生も、この点が気になっていたんではないだろうか。
そんなことを思うほど、私はこのスキマが気になっている。

Date: 6月 10th, 2014
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その27)

ビッグバンド系のレコードではそれほど大きな音量にしない、と発言されている岩崎先生も、
以前は、かなりの大音量でビッグバンドのレコードも聴いていた、とある。

油井正一氏がこんなことを発言されている。
     *
大きな音量で聴くカウント・ベイシーがまた、なんともいえずよかった。それでぼくは、実際に聴いたらどんなに大きなボリュームでやるんだろうと思って出かけたら、意外にも想像してた音量の三分の一ぐらい。そのときぼくは2階のうしろのほうの席で聴いていたんだけど、これはいけないと思って1階におりて前のほうに行ったら、だいたい自分の部屋で聴いているくらいのボリュームになったんです。これにはびっくりしましたね。
     *
1960年代はじめのころの話である。
これを受けて岩崎先生はデューク・エリントン楽団で感じた、と言われている。
     *
実際のコンサートで聴いてみると、きわめてさわやかで、スカッとしていて、音量感なんてないんですね。一生懸命にやっていても、とても静かなんですよ。それでぼくは、同じジャズといっても、バンド・サウンドというものは、全体の音としては決してそんなに大きくないんだということを知ったわけです。
だからジャズというものは、ある程度音を大きくして聴く必要があるとは思いますが、楽団や演奏スタイルの性格によって、そこに時国漢の差があるということですね。
     *
この発言の数ヵ月後にパラゴンを手に入れられているわけだから、
ピアノ・ソロ、ピアノ・トリオといった小編成はかなりの音量で聴かれていたのだろうが、
ビッグバンドとなると、意外にも大きな音量ではなかったようにも考えられる。

岩崎先生もパラゴンの反射板をスクリーンとして捉えられていたのだろうか。

Date: 6月 9th, 2014
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その26)

私の偏見かもしれないが、日本のオーディオマニアには、
パラゴンは大音量で聴いてこそ映えるスピーカーだ、と思っている人が少なくない、と思う。

それも仕方ないことかもしれない。
1970年代、無線と実験には見開き2ページで、毎号、全国のジャズ喫茶を紹介するページがあった。
私が無線と実験を読みはじめたのは、1977年ごろだから、この記事をそれほど多く見ていたわけではないが、
それでもパラゴンを使っていることは多い、という印象は持っていた。

そして日本では岩崎先生がパラゴンの使い手・鳴らし手として知られていた。
岩崎先生は大音量ということで知られていた。
パラゴンは、岩崎先生のメインスピーカーのひとつだから、
誰もがパラゴンは大音量で鳴らされていた、と思っていても不思議ではない。

私もそう思っていたひとりだった。

だが「コンポーネントステレオの世界 ’75」に掲載された、
岩崎千明、黒田恭一、油井正一の三氏による「オーディオシステムにおける音の音楽的意味あいをさぐる」で、
岩崎先生の、こんな発言がある。
     *
ジャズの場合でも、ビッグ・バンド系のものはクラシックと同じようなことがいえると思いますね。だからぼくは、おかしな話しなんだけど人数が多いときはそれほど音量を大きくしなくて、人数が少なくなければなるほど音量は大きくなるんです(笑い)。
     *
岩崎先生がパラゴンを導入されたのは1975年夏のはずだから、
この鼎談の時は、まだである。

Date: 6月 9th, 2014
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その25)

パラゴン中央のゆるやかに湾曲した反射板。
ここに両端に位置する中音域を受け持つ375ドライバー+H5038Pホーンが向けられている。
375が受け持つ帯域は、パラゴンのクロスオーバー周波数は500Hzと7kHzだから約4オクターヴ。

これらのことからいえるのは、この反射板はスクリーンに相当している、ということ。
つまり375+H5038Pはプロジェクターともいえる。

このスクリーンの横幅は湾曲した状態で約160cm、高さは約70cm。
それほど大きなスクリーンではない。
むしろ寸法だけみていると、小さなスクリーンでもある。

この木製の音響的スクリーンに、両脇の375+H5038Pから映写(放射)される音により音像が結ぶ──。
と考えていくと、パラゴンというスピーカーシステムは、
確かに大型だし、搭載されているユニットもかなりの音圧が確保できるものではあるけれど、
実のところ、それほど大きな音量で聴くスピーカーなのだろうか、と思えてくる。

パラゴンの反射板(スクリーン)はさほど大きくない。
ここにオーケストラを映し出す。
それは意外にも小さな(つまり縮小した)オーケストラである。

しかもパラゴンは前述したように、椅子に坐って聴く場合の耳の位置はどこにあるのか。
パラゴンのスクリーンの大きさ(横幅と高さ)、それが位置するところ、そして聴き手の耳の位置、
これらの関係をみていくと、ガリバーが小人のオーケストラを聴いているイメージが浮んでくる。