Archive for category ブランド/オーディオ機器

Date: 6月 3rd, 2015
Cate: SP10, Technics, 名器

名器、その解釈(Technics SP10の場合・その11)

テクニクスのSP10の性能の高さを誰もが認めるところだが、
SP10のデザインとなると、私は最初見たときに、相撲の土俵を思い浮べてた。

いまも土俵だな、と思ってしまう。
台形の台座に、円形のターンテーブルプラッター。
ターンテーブルプラッターは中心ではなくやや右側に寄っている。

つまり優れたデザインだと思っていない。
けれどテクニクスはMK3まで、このデザインを変更していない。
私だけが優れたデザインと思っていないのであれば、それも理解できるのだが、
SP10のデザインは、ステレオサウンドを読んでもわかるように、決して高い評価を得てはいない。

SP10MK2が新製品として登場した時にも、デザインについて、井上先生と山中先生が語られている。
     *
山中 このスタイルというのは、人によって好き嫌いがはっきり分かれそうですね。
 僕個人としては、モーターボードの高さの制限を相当受ける点に、問題点を感じてしまうのですけれども、これは、実際にアームを取りつけて使ってみると、非常に使いにくいんです。
井上 モーターボードをもっと下げて、ターンテーブルが突き出たタイプの方が使いやすいと思いますね。
山中 ターンテーブルの、ひとつのベーシックな形というのは、昔からあったわけです。プロ用の場合には、そういったものに準拠して作っているはずなんです。
 なにもここでSP10の最初のモデルを固執する必要は、まったくないと思います。性能的にも、まったくの別ものといえるわけですし、旧型に固執しないほうがこのターンテーブルの素晴らしさが、もっとも出されたのではないかと思います。
(ステレオサウンド 37号より)
     *
かなり厳しく言われている。
これは井上先生、山中先生とものSP10の性能の高さは認められていて、さらなる改良が加えられ、
それだけでなくより洗練されて名器と呼べるモノになってほしいという気持からの発言ではないのか。
それだけの期待をSP10に対して持っていた、ということでもあろう。

けれど、テクニクスは名器よりも標準原器をめざしていたのであれば、
SP10の、あのデザインも、変更を加えなかったことも、理解できるような気がしてくる。

Date: 5月 30th, 2015
Cate: BBCモニター

BBCモニター、復権か(胴間声)

BBCモニターの開発において、
指向特性、周波数特性、位相特性、リニアリティ、高調波歪率、混変調歪率、
インパルスレスポンスなどの諸特性が測定されるともに、
耳による試聴も重要となる。

BBCモニターが開発時の試聴には、
ノイズ(ランダムノイズ)、スピーチ、音楽ソースを使い、
多角的に行っている、とされている。

ノイズテストは、二種類のスピーカーをきりかえながら、ノイズのスペクトラムを判断するのが有効であり、
スピーチは男性アナウンサーが使われることは、
ショーターの論文にある、と岡先生が以前書かれていた。

男性アナウンサーのスピーチが使われていることは、
BBCモニターに関心をもつ人ならば当然知っていることであった。

男性アナウンサーのスピーチは、スピーカーに強い共振があれば胴間声になりやすい。
BBCモニターで男性アナウンサーの声を聴いてみると、
決して胴間声になることはない。とにかく明瞭にスピーチが聞き取れることに気づく。

以前ならば、BBCモニターでは胴間声にならないんだよ、といえば通じた。
けれど、いまは「胴間声?」と聞き返されることもある。

胴間声とは……、という説明をしなくてはならないこともある。
胴間声は死語とまではいかなくとも、それに近くなりつつあるのか。

BBCモニターがさっぱり話題にならなくなった時期がある。
胴間声が通じなくなったことと無関係ではないと思う。

Date: 5月 19th, 2015
Cate: 4343, JBL, 組合せ

4343の組合せ(その2)

「コンポーネントステレオの世界 ’77」の取材は1976年10月ごろ行われていることが、
岩崎先生によるエレクトロボイスSentryVの組合せの記事(222ページ)でわかる。

4343はステレオサウンド 41号の新製品紹介のページに登場しているから
黒田先生はまだ4343を購入されていない。
同じJBLの4320を鳴らされていた時期である。

架空の読者である金井さんがよく聴くレコードとして挙げられている三枚は、
ベーム指揮のコシ・ファン・トゥッテ、カラヤン指揮のオテロとボエームで、
レーベルはドイツ・グラモフォン、EMI、デッカとあえて違うようにしてある。

ベームのコシ・ファン・トゥッテは三種のレコードが出ている。
ここではドイツ・グラモフォン盤なので、ウィーンフィルハーモニーとのライヴ録音である。

カラヤンのとオテロは、再録音をよく行っていたカラヤンではあるが、
旧録音(デッカ)から10年ほどでの再録音である。
交響曲や管弦楽ならばこのくらいのスパンでの再録音はあっても、
オテロはいうまでもなくオペラである。
オペラで、このスパンの短さはほとんど例がない。

カラヤンの旧録音のオテロについて、
黒田先生は「録音のあとでカラヤンはしくじったと思ったのではないのか」と推測されている。
(ステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界 ’76」より)

これらのレコードを用意しての、組合せの取材である。
しかもスピーカーは最初から4343に固定してある。

これは井上先生とレポーターの坂清也氏、ふたりによるある種のワナのようにも思えてくる。
もちろん、いま読む、とである。
黒田先生への用意周到なワナである。

黒田先生は前年の「コンポーネントステレオの世界 ’76」巻頭の、
シンポジウム「オーディオシステムにおける音の音楽的意味あいをさぐる」で、
岡先生、瀬川先生とともに4343の前身である4341を聴かれている。

Date: 5月 8th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その8)

グラハムオーディオのLS5/8は、ほぼ間違いなくロジャースのPM510ではなく、
チャートウェルのPM450に近い音を出すであろう。

でも、そのことをあれこれ考えて、というよりも、
グラハムオーディオのLS5/8の写真を見た時からわかっていたことかもしれない。

チャートウェルのLS5/8の別の型番はPM450Eであり、
そのパッシヴ型(LSネットワーク仕様)がPM450であるわけだが、
チャートウェルの、このふたつのスピーカーは、実はフロントバッフルの仕上げが違う。

LS5/8はプロフェッショナル用ということもあって、黒の塗装仕上げ、
PM450はグラハムオーディオのLS5/8と同じようにツキ板仕上げである。
PM450は、ウーファーの水平方向の指向特性を改善するために、
ウーファーをフロントバッフルの裏側から取り付け、開口部を丸ではなく矩形にしているのに対し、
グラハムオーディオは矩形ではなく丸である。

ロジャースのモノも初期の製品では矩形だったが、すぐに丸に変更になっている。
ただしいずれもウーファーはフロントバッフルの裏から取り付けている。
つまりウーファーのフレームが露出しておらず、
この部分からの輻射の影響を抑えている。

チャートウェルのPM450の写真は、ステレオサウンド 62号掲載のオーディオクラフトの広告で見れる。
当時のオーディオクラフトの社長であった花村圭晟氏は、チャートウェルのPM450を、
「完全に私の好み」と表現されている。

花村氏のPM450は本来別の人のモノだったが、無理をいって借りて鳴らされていた。
広告にはこう書いてある。
     *
私は森田さんのお宅に伺うたびに、ほれにほれ込んで……といっても絶版ではどうにもなりませんしね。ロジャースの510が登場した時はしめたとばかりに飛びついたんですけどね。しかしオーディオは面白いもんでして、作る人間が変ると同じような技術でも音が違うんですね。確かに同じ系列のスピーカーシステムなんだけど、私はほれた女が悪かった。良すぎたんですね。結局510は現在お蔵入り……。510もいいスピーカーなんですけどね。
     *
花村氏はグラハムオーディオのLS5/8を聴かれたら、なんといわれるだろうか。

Date: 5月 8th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その7)

頼りになるのは瀬川先生の文章である。
ステレオサウンド 56号でのPM510の記事、
それからステレオサウンド 54号の特集でのLS5/8の試聴記がある。
     *
 たまたま、自宅に、LS5/8とPM510を借りることができたので、2台並べて(ただし、試聴機は常に同じ位置になるように、そのたびに置き換えて)聴きくらべた。LS5/8のほうが、PM510よりもキリッと引緊って、やや細身になり、510よりも辛口の音にきこえる。それは、バイアンプ・ドライヴでLCネットワークが挿入されないせいでもあるだろうが、しかし、ドライヴ・アンプの♯405の音の性格ともいえる。それならPM510をQUAD♯405で鳴らしてみればよいのだが、残念ながら用意できなかった。手もとにあった内外のセパレートアンプ何機種かを試みているうちに、ふと、しばらく鳴らしていなかったスチューダーA68ならどうだろうか、と気づいた。これはうまくいった。アメリカ系のアンプ、あるいは国産のアンプよりも、はるかに、PM510の世界を生かして、音が立体的になり、粒立ちがよくなっている。そうしてもなお、LS5/8のほうが音が引緊ってきこえる。ただ、オーケストラのフォルティシモのところで、PM510のほうが歪感(というより音の混濁感)が少ない。これはQUAD♯405の音の限界かもしれない。
 いずれにせよ、LS5/8もPM510も、JBL系と比較するとはるかに甘口でかつ豊満美女的だ。音像の定位も、決して、飛び抜けてシャープというわけではない。たとえばKEF105/IIのようなピンポイント的にではなく、音のまわりに光芒がにじんでいるような、茫洋とした印象を与える。またそれだから逆に、音ぜんたいがふわっと溶け合うような雰囲気が生れるのかもしれない。
(ステレオサウンド 56号)

最初のモデルにくらべると、低音域を少しゆるめて音にふくらみをもたせたように感じられ、潔癖症的な印象が、多少楽天的傾向に変ったように思われる。しかし大すじでの音色やバランスのよさ、そして響きの豊かになったことによって、いわゆるモニター的な冷たさではなく、基本的にはできるかぎり入力を正確に再生しながら、鑑賞者をくつろがせ楽しませるような音の作り方に、ロジャース系の音色が加わったことが認められる。低音がふくらんでいる部分は、鳴らし方、置き方、あるいはプログラムソースによっては、多少肥大ぎみにも思えることがあり、引締った音の好きな人には嫌われるかもしれないが、が、少なくともクラシックのソースを聴くかぎり、KEF105IIの厳格な潔癖さに対して、やや麻薬的な色あいの妖しさは、相当の魅力ともいえそうだ。
(ステレオサウンド 54号)
     *
54号の試聴記で最初のモデルと書かれているのはチャートウェルのPM450E(LS5/8)のことである。
ここでチャートウェルのLS5/8には潔癖症な印象があり、
それがロジャース版では楽天的傾向になり、
さらにPM510では享楽派となっていたことが読みとれる。

チャートウェルとロジャースでは、音が違う。
とはいえLS5/8というBBCナンバーで発売するスピーカーシステムであるのだから、
ロジャース版の開発を担当したリチャード・ロスも、そこから大きく逸脱することはしなかった──、
そう思えるし、そんな縛りのないPM510では、より積極的であったようにも読める。

つまりPM510ならではの、あの音の世界はリチャード・ロスによる独自の音の世界だとわかる。
ロジャースのLS5/8は聴く機会があった。
PM510と直接比較ではなかったけれど、たしかに瀬川先生が書かれているとおりの音の違いがあった。

そうなるとグラハムオーディオのLS5/8に、PM510の音の世界は、あまり期待しない方がいいだろう。
グラハムオーディオの開発スタッフの写真は見ていると、
そこにリチャード・ロス的雰囲気の人はいない。

Date: 5月 7th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その6)

ロジャースのPM510の記事は、ステレオサウンド 56号が最初だった。
瀬川先生が担当された新製品紹介の記事だった。
夢中になって、何度も何度も読み返した。

チャートウェルのPM450はもう聴けないとわかったので、よけいに読み返していた。
この記事の終りに、こう書かれている。
     *
 同じイギリスのモニター系スピーカーには、前述のようにこれ以前には、KEFの105/IIと、スペンドールBCIIIがあった。それらとの比較をひと言でいえば、KEFは謹厳な音の分析者。BCIIIはKEFほど謹厳ではないが枯淡の境地というか、淡々とした響き。それに対してPM510は、血の気も色気もたっぷりの、モニター系としてはやや例外的な享楽派とでもいえようか。その意味ではアメリカUREIの方向を、イギリス人的に作ったらこうなった、とでもいえそうだ。こういう音を作る人間は、相当に色気のある享楽的な男に違いない、とにらんだ。たまたま、輸入元オーデックス・ジャパンの山田氏が、ロジャースの技術部長のリチャード・ロスという男の写真のコピーをみせてくれた。眉毛の濃い、鼻ひげをたくわえた、いかにも好き者そうな目つきの、まるでイタリア人のような風貌の男で、ほら、やっぱりそうだろう、と大笑いしてしまった。KEFのレイモンド・クックの学者肌のタイプと、まさに正反対で、結局、作る人間のタイプが音にもあらわれてくる。実際、チャートウェルでステヴィングスの作っていたときの音のほうが、もう少しキリリと引緊っていた。やはり二人の人間の性格の差が、音にあらわれるということが興味深い。
     *
チャートウェルのPM450とロジャースのPM510の音の違い、
PM450はキリリと引緊っていて、PM510はモニター計としてはやや例外的な享楽派。
同じスピーカーユニット、同じサイズのエンクロージュア、おそらくネットワークも同じか、
違っていたとしてもそう大きな違いはないと思われるのに、
PM450とPM510には共通した音の性格がありながらも、はっきりとした違いがあることがわかる。

リチャード・ロスの写真も、ステヴィングスの写真も見たことがある。
一枚の写真でどれだけのことがわかるのか──、それはなんともいえないけれど、
ロスとステヴィングスの顔つきは、
レイモンド・クックとリチャード・ロスほどの違いはないけれど、やっぱりずいぶんと違う印象を受ける。

となるとグラハムオーディオのLS5/8の音を想像していく上で重要なのは、
開発スタッフの写真ということになる(?)。

Date: 5月 7th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その5)

私が1982年に購入したロジャースのPM510は、
サランネットを外すにはスピーカー本体を仰向けにして、底板前方にあるネジを二本外さなければならなかった。
いわゆるマジックテープ(面ファスナー)で固定されていたわけではなかった。

今回のグラハムオーディオのLS5/8は写真をみるかぎり、
面ファスナーでサランネットを固定しているようだ。
つまりロジャース時代のLS5/8、PM510はサランネットを装着したままで聴くことを前提としている、
そういう見方ができるのに対し、
グラハムオーディオのLS5/8はフロントバッフルもツキ板仕上げとしていることと考え合わせると、
サランネットなしで聴くことを前提としている、
もしくはサランネットなしで聴くことも想定してある、とみていいのではないか。

もちろんフロントバッフルの仕上げの違いによっても音は変化する。
塗装仕上げとツキ板仕上げでは音は違って当然であり、
サランネット装着を前提としていても、
仕上げによる音の違いを考慮してのツキ板仕上げとも考えられないわけではないが、
どちらかといえばサランネットなしを前提としているように思える。
(このへんは実際に音を聴いてみないことにははっきりとはいえない。)

個人的には音の違いがあったとしても、フロントバッフルは黒で仕上げてほしかった。
これはポリプロピレンという乳白色の半透明の素材であるだけに、
ユニットが取り付けられるバッフルは黒い方が、ポリプロピレンコーンが色気を感じさせてくれる。

そんなふうに見てしまうのは私だけなのかもしれないけれど、
フロントバッフルをツキ板仕上げ(つまり木目)にしてしまうと、
ウーファーがそこだけ浮いてしまうように感じる。

これはPM510のイメージが強く残っているからかもしれない。

Date: 5月 6th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その4)

チャートウェルのPM450、ロジャースのPM510、そして今回のグラハムオーディオのLS5/8は、
どんな違いがあるのだろうか。

PM450は1978年に登場している。日本への入荷数は数ペアだときいている。
PM510は1980年に登場。こちらは私も購入したくらいだし、けっこうな数が入荷していると思われる。
けれどもう30年以上経過しているスピーカーシステムということになる。

いまもロジャースという会社は残っているけれど、
このころのロジャースとは違ってきている。
PM510のメンテナンスをどうしたらいいのか。悩まれている方も少なくないはずだ。

ポリプロピレンコーンは特許をとっている。
その内容のすべてを知っているわけではないが、そのひとつは接着に関することである。
当時ポリプロピレンの接着は非常に難しかった、ときいている。

最近になってやっと日本の接着剤メーカーからポリプロピレンを接着できる製品が登場している。

余談だが、LS5/8、PM510は、当時のイギリスのスピーカーシステムとしては高耐入力だった。
そのためリアバッフルには”WARNING”と書かれたシールが貼られている。
耳の孔に指を差し込んでしかめっ面をしているイラストの横には、
耳を痛めるほどの大音量再生が可能なので、注意、とある。

山中先生がスイングシャーナルの組合せの取材でLS5/8を使われた。
その取材に立ち会った人から直接きいた話なのだが、
たしかにパワーは入る。それで気持ちよく聴いていたら、
ウーファーのポリプロピレンコーンが溶けてしまったそうだ。

ボイスコイルが発する熱がポリプロピレンコーンに伝わりそうなったらしい。

話を戻そう。
PM450にしてもPM510にしても新品同様のモノはもう存在しない。
充分に使い込まれ、鳴らし込まれたモノである。
そういうスピーカーシステムと、
でき上ってきたばかりのグラハムオーディオの LS5/8を並べて聴く機会が仮に得られたとしても、
参考程度にはなっても正確な比較試聴は無理である。

比較は想像の上でしか成り立たないのである。
ならば……、と想像してみよう。

Date: 5月 5th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その3)

チャートウェルのPM450からロジャースのPM510にも、外観上の変更点はあった。
PM450は型押ししたフォーム・プラスチックで、縦に三本のラインがアクセントになっていたのに対し、
PM510では平織りの一般的なサランネットになっていた。アクセントとなる縦のラインもない。

LS5/8はプロ用モニターということもあって、
エンクロージュア両サイドに持ち運びを容易にするための把手があった。
PM450よりもPM510は把手がすこし下がった位置になっている。

今回のグラハムオーディオのLS5/8にも、
トゥイーターのレベルコントロールの他にいくつかの外観上の変更点がある。
まず把手が省かれている。
それからフロントバッフルがツキ板仕上げとなっている。

チャートウェルもロジャースのLS5/8、それに他のBBCモニターも、
フロントバッフルは黒の塗装仕上げである。
このことは、サランネットを装着した状態で聴くことを前提としている。

ところがグラハムオーディオのLS5/8(LS5/9もそうだが)、
フロントバッフルを外の面と同じに仕上げてあるということは、
サランネットを外した状態を、標準としていると見ていいだろう。

それとスペックをみて気づくのは出力音圧レベルに違いがある。
PM510はカタログ発表値は94dB/W/m、グラハムオーディオLS5/8は89dB SPL (2.83V, 1m)とある。
インピーダンスは8Ωだから、測定条件は同じといえるわけだから、
このふたつの発表値を信じるのであれば、5dBほど能率が低くなっている。

このことはトゥイーターのレベルコントロールの増設は関係しているような気がする。

Date: 5月 5th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その2)

ということはグラハムオーディオのLS5/8は、
チャートウェルPM450、ロジャースPM510の復刻といえるのかというと、
写真をみると、そうともいえない点がある。

グラハムオーディオのサイトには、今日の時点ではLS5/8のことは公開されていない。
だがグラハムオーディオのfacebookには、LS5/8の情報と写真がいくつか公開されている。
それを見ると、フロントバッフルには、LS5/8、LS5/9と同じタイプのトゥイーターのレベルコントロールがある。

PM450、PM510にはこのレベルコントロールはない。
つまり今回のLS5/8は、PM450、PM510のLS5/9的モデルとでもいおうか、
BBCモニター的仕様とでもいったらいいのか、
とにかくLS5/8の正確な復刻モデルとも、PM450の正確な復刻モデルともいえない。
その中間に位置するような復刻である。

とはいえ、私は今回のLS5/8は聴いてみたい、と思っている。
LS5/8そのままの復刻でもないし、PM510そのままの復刻をめざしたモノでないからこそ、
聴いてみたい気持にさせてくれる。

グラハムオーディオのLS5/8は、
チャートウェルのPM450に、より近いスピーカーシステムのような気がするからである。

チャートウェルのPM450は、ステレオサウンド 49号に登場している。
瀬川先生が書かれている。
     *
おそらくバイアンプのせいばかりでなく、LS5/1Aよりも音のひと粒ひと粒を際立たせるような解像力のよい、自然な、しかしイギリスの良質のスピーカーに共通のどこか艶めいた美しい音は、聴き手をひき込むようなしっとりした雰囲気をかもし出す。
     *
チャートウェルのPM450E、PM450は、元PM510ユーザーとして、いまでも一度聴いてみたいスピーカーなのだ。

Date: 5月 5th, 2015
Cate: BBCモニター, PM510

BBCモニター、復権か(LS5/8の復刻・その1)

今年の一月だったか、そのくらいの時期、
BBCモニターのLS5/9を復刻したイギリスのグラハムオーディオがLS5/8も復刻する予定だと知った。

LS5/8には日本はチャートウェル・ブランドとロジャース・ブランドのふたつが輸入されている。
前者のLS5/8の輸入量はごくわずかである。
チャートウェルそのものがロジャースに買収されてしまったためだ。

LS5/8は他のBBCモニターと違う点がある。
それまでのBBCモニター、LS3/5AにしてもLS3/6、LS5/5にしても、
BBCがプロトタイプを開発して、それを民間のオーディオメーカーにライセンス料を聴取してつくらせていた。

LS5/8はチャートウェルが独自開発したモデルをBBCが、
LS5/8というスタジオモニターとして採用した初めての例である。
それゆえにLS5/8は、チャートウェルのPM450Eという型番も持っていて、
日本にはノアがPM450Eとして輸入していた。

LS5/8(PM450E)は、QUADのパワーアンプ405のシャーシないのわずかな隙間に、
エレクトロニッククロスオーバーを組み込み、バイアンプ駆動するというシステムだ。

チャートウェルにはこのPM450Eの他に、PM450もあった。
こちらは内蔵ネットワーク仕様モデルである。

これらがロジャース・ブランドの LS5/8、PM510となっていく。
グラハムオーディオがLS5/8を復刻すると知って、この点をどうするのかが気になっていた。
オリジナルのLS5/8を受け継いでバイアンプ駆動とするのか
(当然アンプは405が製造中止なので他のアンプに変更されるだろうが)、
それともPM450(PM510)のように内蔵ネットワークとするのか。

製品として売れるであろうと思えるのは、内蔵ネットワーク仕様である。
けれど仮にもLS5/8を謳っている以上は、バイアンプ仕様とするのか。
この点が気になっていた。

結果、登場したLS5/8は内蔵ネットワーク仕様である。

Date: 5月 3rd, 2015
Cate: JBL

JBLのユニットのこと(ウーファーについて・その5)

JBLのウーファー2231に採用されたマスコントロールリングは、
JBLがいうとおりの効果が得られるのであれば、どこかに実測データはないのか、とさがしていたら、
JBLではないけれどオンキョーが発表していたデータが見つかった。

オンキョーは1977年9月にセプター・システムスピーカーを発表した。
セプター・スピーカーシステムではなく、システムスピーカーと名づけられたこのシリーズは、
ウーファー3機種、ドライバー3機種、ホーン4機種、トゥイーター1機種、
この他にも音響連美、ネットワーク、エンクロージュアからなる。

このウーファーにも、JBLと同じようにマスコントロールリングが装着されている。
オンキョーではウェイトリングと呼んでいた。

このとき発表されたデータに、
ウェイトリングなし、ウェイトリング30g、ウェイトリング60gの、
周波数特性、インピーダンス特性がある。

ウェイトリングを装着することでなしの状態よりも、当然のことだがf0はわずかに左にずれる。つまり低くなる。
さらにインピータンスの上昇も、なしの状態よりも60g装着時には2/3ほどに抑えられている。

周波数特性は、意外にもいうべきか500Hz以上ではほとんど変化がない。
それから50Hzの肩特性も低い方に移行する。ただし減衰カーヴは一致している。
グラフをみると150Hzから300Hzのあいだでウェイトリングによる特性の変化幅が大きい。

ウェイトリングが重量が増すと、この帯域のレスポンスは低下している。
JBLによれば、マスコントロールリングにより、
低域の下限周波数の拡張だけでなく、堅くて軽いコーン紙を使うことで中低域のレスポンスも向上する、とある。
この辺は、オンキョーの特性結果と異るところでもある。

オンキョーの発表した特性では中低域のレスポンスは低下している。
ただしJBLのそれは、アクアプラスと比較してのことだとすれば、そうなのだろう。

とにかくマスコントロールリング(ウェイトリング)を装着しても中高域は変化しないことがわかった。
そしてオンキョーも発表しているようにボイスコイルボビンとコーン紙の結合がよりしっかりするために、
コーン紙の釣り鐘振動といわれる変形が抑えられているのが、
ウェイトリングなし/ありのストロボ写真ではっきりと確認できる。

この釣り鐘振動は中低域の音の濁りの原因ともいわれているから、
JBLのいう中低域のレスポンスの向上は、このことも含まれているのかもしれない。

Date: 4月 23rd, 2015
Cate: 4345, JBL

JBL 4345(4347という妄想・その1)

ステレオサウンド 60号の特集記事の座談会、
JBLの4345のところで、次のように瀬川先生が語られている。
     *
 この前、あるアマチュアでおもしろい指摘をした人がいまして、4345の音を聴いた後、ウーンと得なって、「なるほどいいところはある。けれども、4341が4343になって完成したと同じく、これはもしかしたら4347ぐらいが出ると、もっと完成後が高まるんじゃないか」と言った人がいました。
     *
4345の後継機としての4347。
4343の後継機として4348は登場したけれど、4347というモデルナンバーのスピーカーは登場しなかった。
18インチ口径のウーファー搭載の4300シリーズは、4345だけで終ってしまった。

4345の後継機はなぜ登場しなかったのか。
その理由はいくつか考えられるけれど、はっりきとしたことはよくわからない。

瀬川先生が生きておられたら……、4347なるモデルが登場したかもしれない。
私はそうおもってしまう人間である。

いまも4347がもし登場したら、どんなスピーカーだったっのか、とあれこれ妄想してしまう時間がある。

4347、
やはりウーファーは4345と同じ18インチ口径であってほしい。
それから4341が4343になって洗練されたように、4347も絶対そうであってほしい。
となるとミッドバスが4345と同じ2122ではどうしてもうまくいかないような気がする。

18インチ口径ウーファー搭載で、システムとしてのサイズはどうしても大きくなってしまう。
ならばいっそのことミッドバスも10インチではなく12インチにしたほうが、
全体のバランス、プロポーションは整ってくるはずだ。

このことは昔からそう思っていた。
それが確信に変ったのは、タンノイのKingdomの登場があったからだ。

現在のKingdom Royalではなく、最初のKingdom。
18インチ口径ウーファーに、12インチ口径同軸型ユニット、そしてスーパートゥイーターの4ウェイ構成。
この大型のシステムは、威風堂々としていて、4345のようなずんぐりしたイメージはまったくない。

つまりミッドバスには、4350、4355に搭載されている2202となる。
そうなればミッドハイのドライバーは2420(2421)から2441にしても、
エネルギー的にバランスがとれるようになる。
スーパートゥイーターは2405のまま。

こんな4347を想像している。

Date: 4月 23rd, 2015
Cate: 4343, JBL

40年目の4343(なぜ、ここまでこだわるのか)

ブログを書いていて、われながら、なぜここまで4343にこだわるのか、と思わないわけでもない。
このブログで、オーディオ機器に関しては4343のことをもっとも多く書いている。

読まれる方の中には、「また4343か」という人がいるのはわかる。
それでも、こうやって4343について書いているのは、
オーディオ界を見渡すためにも必要なことのように感じているからでもある。

もちろん個人的な理由の方が大きいとはいっても、
4343という、いわばスタジオモニター、それも高価なスピーカーシステムが、
驚異的な本数が売れたということは、なにか象徴的な現象のように思える。

そういえば……、と思いだす。
菅野先生が、ステレオサウンド別冊「JBLモニター研究」で、次のように書かれている。
     *
 そしてその後、中高域にホーンドライバーを持つ4ウェイという大がかりなシステムでありながら、JBL4343というスピーカーシステムが、プロのモニターシステムとしてではなく、日本のコンシューマー市場で空前のベストセラーとなった現象は、わが国の20世紀後半のオーディオ文化を分析する、歴史的、文化的、そして商業的に重要な材料だと思っている。ここでは本論から外れるから詳しくは触れないが、この問題を多面的に正確に把握することは、現在から近未来にかけてのオーディオ界の分析と展望に大いに役立つはずである。
     *
1998年に書かれている。
4343に憧れてきたひとりとして、そのとおりだと思うとともに、
残念に思うのは、いまのステレオサウンドには4343という材料(問題)を、
多面的に正確に把握することは期待できない、ということだ。

「名作4343を現代に甦らせる」という記事が、強く裏付けている。

Mark Levinsonというブランドの特異性(その53)

私は精神科の専門家でもないし、精神科に関する知識はほとんど持っていない。
精神科の権威のオーディオマニアが「あの男、このまま行ったら、いつか発狂して自殺しかねませんな」、
と口にされたころの、つまり若いころのマーク・レヴィンソンには会ったことはない。

そんな私だから、間違っている可能性の方が高いだろうけど、
それでも思うのは、LNP2、JC2を世に送り出したばかりのレヴィンソンが、
周りの人にそういうふうに映ってしまったのは、ジョン・カールと出あったからなのではないか、
つまりジョン・カールと出あわずにいたら、おそらく発狂し自殺しかねないとは思われなかったのではないか。

もともとマーク・レヴィンソンはそういう男ではなかった。
LNP2の最初のモデルはよく知られているようにバウエン製のモジュールである。
レヴィンソンがバウエン製のモジュールをずっと使い続けていたら、
精神科の権威のオーディオマニアも、
「あの男、このまま行ったら、いつか発狂して自殺しかねませんな」とは思わなかったよう気がしてならない。

この項ですでに書いたように、
JC1、JC2、LNP2、ML2までのマークレビンソンのアンプの音と、
ML3、ML7以降のアンプの音には共通性も感じながらも、決定的に違う性質があるように感じている。

その違いは、結局は回路の設計者の違いのような気がする。
つまりはジョン・カールとトム・コランジェロの違いである。

どちらがアンプの設計者として優秀かということではなく、
ふたりの気質の違いのようなものが、たとえマーク・レヴィンソンがプロデュースしていたとはいえ、
音の本質的な部分として現れていて、
その音に、誰よりも長い時間接していたマーク・レヴィンソンだからこそ、
あの時期、会った人に発狂しかねないという印象を与えた──、としか思えない。

ジョン・カールとトム・コランジェロ、それぞれが設計したマークレビンソン時代のアンプ、
その後のアンプ、
ジョン・カールはディネッセンのJC80、トム・コランジェロはチェロの一連のアンプ、
これらのアンプを聴いてきて、私はそう思う、
マーク・レヴィンソンはもともと狂うタイプの男ではなかった、と。