Archive for category High Resolution

Date: 6月 24th, 2016
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(その7)

ステレオサウンド 57号の表紙はハーマンカードンのCitation XXだった。
マッティ・オタラのインタヴュー記事の最後に、
(編注=ハーマン・カードンXXの詳細については次号に掲載予定です)とあった。

58号の表紙はスレッショルドのパワーアンプSTASIS 1だった。
新製品紹介のページに、Citation XXは登場していなかった。
ということは次号(59号)か、と思った。

59号の表紙はJBLの4345だった。
この号でもCitation XXの姿はなかった。

Citation XXが新製品紹介のページに登場したのは60号だった。
長島先生が書かれている。
カラーで4ページ割かれている。
写真をみるかぎり、57号の表紙との違いはない。
にもかかわらず、ここまで発売がずれこんだのは最終的なチューニングのためであろう。

Citation XXの製造は日本の新白砂電気が行っている。
回路設計はマッティ・オタラで、Citation XXの開発がスタートして以来、
日本とフィンランドを幾度となく往復して二年有余の歳月が費やされた、との説明文がある。

井上先生が何度かステレオサウンドに書かれているように、
Citation XXはネジの締付けトルクを管理した初めてのアンプでもある。

60号の記事には、Citation XXのブロックダイアグラムが載っている。
入力信号はまずINFRASONIC、ULTRASONIC、ふたつのフィルター回路に入る。
フロントパネルのボタンでON/OFFできるようになっているだけでなく、
フィルターを必要とする状況では、それぞれのインジケーターが赤色に点灯するようになっている。

INFRASONICは1Hz以下の周波数を6dBでカットしている。
ULTRASONICは100kHz以上を、2次のベッセル型でカットしている。
記事を読んだ当時は気づかなかったけれど、
ここでベッセル型を採用しているところが、マッティ・オタラらしい、といまは思う。

INFRASONIC、ULTRASONICのあとは500kHz以上をカットするフィルターが設けられている。
こちらはON/OFF機能はない。

ステレオサウンド 57号のインタヴュー記事は、テクニカルノートという連載記事のひとつである。
57号では、この他に、松下電器産業の藤井喬氏によるテクニクスのリニアフィードバック回路の記事、
日本ビクターの藤原伸夫氏によるピュアNFBについての記事もある。

藤原氏が、次のように述べられている。
     *
藤原 TIM歪というのは、アンプ内の立ち上りのスピードと入力の立ち上りのスピードとの間にある関係があり、アンプ内部での立ち上りよりも速い信号に対しては歪みが出るけれども、それ以下の信号だとゼロになってしまう特徴があるのです。私どものTIM歪判断の基準として、たとえば入力に100kHzの高域をカットするフィルターを入れた状態で、立ち上り無限大の理想的な矩形波を入れる。立ち上り無限大の矩形波は、100kHzのフィルターを通すと、立ち上りがある程度なまるわけですが、実際の音楽信号でこのような無限大の立ち上りをもつ進行は存在しません。実際に音楽のレベルなどをいろいろ検討しても、100kHzのフィルターというのは、音楽信号の立ち上りに対するマージンをとったとしても十分すぎるマージンがあるので、TIM歪みに対しては100kHzのフィルターを入力に入れれば対処できるのではないかという考えが多いようです。ですから、現存するどんなアンプでも無限大の立ち上りの信号を入れれば、すべてTIM歪的なものが出てきてしまいますので、入力フィルターをいくらにとるかということが一つの基準のようになっているのです。
 私どもでは、入力に100kHzのフィルターを入れていますので、音楽信号に対してはTIM非済みゼロであると宣言しています。
     *
ここでも100kHzのフィルターが登場している。

Date: 6月 23rd, 2016
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(その6)

ステレオサウンド 57号でマッティ・オタラは、
100ぐらいのわかっていない歪が存在していると思う、と発言している。
そうかもしれない。

静的特性の歪ではなく、動的特性の歪に関しては、
意外にもそうなのかもしれない。
まだまだわかっていない歪が、かなりの数あっても不思議ではない。

57号ではTIMの他に、IIMについての説明もある。
     *
長島 TIMはスピーカーを除外したアンプ内のNFBの不正確な部分がクローズアップされたもので、これに対して、IIMはアンプにスピーカーをつないだ状態で、NFBの不正確さを追求したものと解釈していいわけですね。
マッティ・オタラ そのとおりです。このIIMを発見したきっかけというのは、スピーカーを聴いていると、400Hz〜1kHzのところにホーンで聴いているようなこもった感じがある。周波数特性はフラットなんでしょうがその辺が盛り上がった感じに聴こえる。どうしてだろうと思って、アンプやスピーカーを替えて聴いてみた。いいスピーカーといいアンプで聴くと、それがフラットに聴こえるんですけど、悪いスピーカーと悪いアンプでは、もちろんそうなっているのですが、スピーカーの悪さにマスクされてそれほど変わらない。いいスピーカーと悪いアンプで聴くと、まさしくアンプのこれが出てくるんです。これがIIMの発見のきっかけでした。ですから、悪いスピーカーを使っているのだったら、いいアンプを使う必要はないわけです(笑)。
 PIMは簡単にいいますと、フェイズ(位相)と振幅の直線性が一致しないという点を問題にしているわけです。
     *
マッティ・オタラはTIMにしてもIIMに関しても、
まず理論があって、これらの現象を発見したのではなく、
あくまでも音を聴いて疑問を感じ、その疑問の発生原因を追及していくことで、
動的歪を発見している。

このことはとても重要なことであり、科学にとって観察することが、
それも正しく観察することから始まる、ということを改めて教えてくれる。

Date: 6月 22nd, 2016
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(その5)

アンプにNFBをかけることで、特性は改善される。
周波数特性はのび、各種の歪も減る。ゲインも安定化される。

メリットはかなりある。
けれどデメリットもあることはずっと以前からいわれてきている。

NFBをかけすぎたアンプの音は死んでいる。
はっきりとした理由はわからない時代から、そういわれてきた。

1970年代がそろそろ終ろうとしているころに、TIMという、
新しい歪のことが、日本の技術誌の誌面にも登場するようになってきた。

TIMとはTransient Intermodulationの略語である。
フィンランドの物理学者マッティ・オタラ(Matti Otala)が、1963年に発見した歪である。
1968年からTIM歪の理論づけをはじめ、1970年にほぼ終了。
1972年にTIM歪抽出の論文を発表、1974年アンプのTIM歪測定法を発表。
1975年に、TIM理論を発表。

その後、1976年にIIM (Interface Intermodulation)を、
1979年にはPIM (Phase Intermodulation)を発見している。

このころマッティ・オタラの時の人だった。
ちなみにマッティ・オタラは、もともとの本名ではなかったそうだ。
ステレオサウンド 57号でのインタヴュー記事(ききて:長島達夫氏)によると、
国によって発音が違ってこないように、
コンピューターの順列組合せでつくった名前から絞りに絞って決めた名前だそうだ。

結婚を機に改名しているため、マッティ・オタラが本名となっている。
マッティ・オタラは1939年生れ、2015年に亡くなっている。

57号のインタヴュー記事には、TIM発見のきっかけのエピソードが載っている。
放送局に勤めるマッティ・オタラの友人が80dBものNFBをかけたパワーアンプを作って、
彼の家に持ち込んだ。

それは非常に硬い音のするアンプだったそうだ。
友人は、音が硬いのはNFBに原因があるのではなく、他のところにあるはずだから、
一緒に探してほしい、ということだったが、何の問題も発見できなかった。

数日後、今度は友人宅に行って、ふたたびそのアンプの音を聴いている。
はるかにいい音になっていたそうだ。

ただし、友人は50W出力のアンプとして設計したのに、30Wの出力しかとれていない、と。
友人は、トランジスターのエミッターとコレクターを逆に接続していたため、
出力が設計よりも小さな値になっていたわけだ。

つまりアンプのNFBをかける前のゲインは設計値よりも低く、
当然その分NFB量も減っていたわけだ。

そこでエミッターとコレクターを正しく接続しなおしたら、また音は硬くなった、とある。
1963年のころの話だから、マッティン・オタラが
「80dBもNFBもかけたら音は良くならないよ」と言っても、友人は信じなかったそうだ。

この時点では、なぜNFBをかけすぎると音にとって有害なのか、
そのシステムを解明していたわけではなかったけれど、経験上感じていたようだ。

マッティン・オタラのTIMについての論文は、検索すれば見つかると思う。
英文で見つかるはずだ。

TIM歪と従来の歪との大きな違いは、
TIM歪はいわは動的歪であり、従来の混変調歪、高調波歪は静的歪といえ、
NFBは静的歪に対しては非常に有効であっても、
適切に扱わなければ動的歪の発生原因となる。

マッティ・オタラはNFBをアスピリンにも例えている。
軽い頭痛であればわずかなアスピリンでおさまる。
けれど10kgのものもアスピリンを摂取したら非とは死んでしまう、と。

ちなみに57号(1980年時点)で、最適なNFB量は、
アンプの回路、使用するパーツによって変ってくるため一概にいえないとことわったうえで、
1970年の時点では22dB、1980年では12dB程度だといっている。

57号の表紙はハーマンカードンのパワーアンプ、
Citation XX(サイテーション・ダブルエックス)であり、
このアンプの回路設計はマッティ・オタラであり、NFB量は9dBとかなり低く抑えられていた。

57号の記事で、興味深いのはウィリアムソン・アンプについてである。
管球式アンプとしては、多量のNFBをかけて話題になったが、NFBは20dBである。

マッティ・オタラによると、ウィリアムソンの1933年の論文には、
NFBについては24dBを選択した、とある。
30dBをこすNFBをかけると、当時の測定器では測定できないほど静特性は改善される。
けれどウィリアムソンが24dBに抑えたのは、
ウィリアムソンは感覚的にTIMを発見していたのではないか、ということ。

Date: 6月 22nd, 2016
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(その4)

1981年といえばいまから35年前になってしまう。
そのころ出たステレオサウンドは58号、59号、60号、61号である。

58号の掲載の岡先生の「クラシック・ベスト・レコード」に、次のことを書かれている。
     *
 デジタル・マスターのレコードがふえるにしたがって、アナログ録音にくらべてものをいうひとがふえてきた。いちばんよくきかれる声は、高域の帯域制限によって生ずる情報量のすくなさ、ということを指摘する声である。音楽再生における情報量の大小をいう場合、その物理量をはっきり定義した、という例はほとんどなく、大体が聴感でこうかわったという表現を情報量という言葉におきかえられている。線材やパーツをかえると音がかわるということがさかんにいわれていたことがあったとき、この問題を好んで論ずるひとの合言葉みたいに情報量がつかわれていた。つまり、帯域の広さと情報量の多さが相関をもち、それがよりハイ・フィデリティであるという表現である。
 しかし、はたして実際にそのとおりかということになると、客観的データはすこぶるあいまいである。むしろ、録音・再生系の帯域を可聴帯域外までひろげることによって生ずる、超高域の近接IMがビートとなって可聴帯域の音にかかわりあうとか、TIMによる信号の欠落、あるいは非直線性の変調歪などが、聴感上情報量がふえるような感覚できこえるのではないかと考えたくなる。
 一昨年、ビクターの音響研究所がおもしろいデータを発表したことがある。プログラムをさまざまな帯域制限を行ったソースを用いて、数多くのブラインドのヒアリング・テストをした結果では、信号系の上限を15kHz以上の変化はほとんど検知されなかったという。音楽再生でハイ・エンドがよくきこえたとか欠落したとかという場合、むしろ帯域バランスに起因することが多い。中・低域がのびていると、高域はおとなしくきこえるし、低域が貧弱だと高域が目立つということはだれもが体験しているはずである。性能のよいグラフィック・イコライザーをつかって実験してみると、部分的なバランスを2dBぐらいかえてもからっと音のイメージがかわることがある。デジタル・システムはアナログ(テープ)にくらべて、低域の利得とリニアリティが丹前よく、かつ変調歪によって生ずる高域のキャラクターがより自然であるという点で、聴感上、ハイ・エンドがおとなしくなる、といったことになるのではないかと考えられる。高域の利得が目立っておちていると思えないことは、シンバル、トライアングルなどの高音打楽器が、アナログよりも解像力がよく、しかも自然にきこえる例でも明らかであろう。
     *
岡先生は、いまのハイレゾ・ブームに対して、どういわれるだろう……。

Date: 9月 16th, 2015
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(ソニー・クラシカルの場合)

9月11日にグレン・グールドの81枚組CDボックスが発売になった。
10月30日には、この81枚組ボックスからインタヴュー音源を省いたものが、USBメモリーで発売になる。
ソニーのサイトによれば、USBメモリー版はハイレゾ 24bit/96kHz FLACと書いてある。

おおっ、と誰もが思うことだろう。
だがこのサイトからリンクされている販売サイト(amazon、HMV、タワーレコードなど)をみると、
24bit/44.1kHz FLACとある。サンプリング周波数に違いがある。
ビット数が増えているから、これでもハイレゾ音源と呼べるわけだが、
なんとも出し惜しみ感たっぷりの中途半端なハイレゾという感じがつきまとう。

それにしてもどちらが本当なのだろうか。
ソニーは制作元である。しかもニュースリリースの日付は9月11日になっている。
けれどディスクユニオンのサイトをみると、
当初24bit/96kHzとお知らせしておりましたが、その後制作元より24bit/44.1kHzに訂正されました、と書いてある。

グレン・グールドのサイトにも、24bit/44.1kHzとある。

やはり24bit/44.1kHzなのだろうか。
そうなると制作元のソニーでは、古い情報をいまだ変更せずにいることになる。
そんなことがあるのだろうか。

もしかするとまた変更になり、当初のリリース通りに24bit/96kHzで出るのかもしれない。
可能性としてはかなり低いと思うけれど……。

Date: 3月 7th, 2015
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(その3)

facebookのタイムラインに表示されていて読んでみて、驚いた。
そこに引用されていたのは,次の文章だった。
     *
北口 ちょっと話の腰を折ってしまうんですけど、スピーカーでハイレゾって聴けるんですか?
井上 聴けます。
北口 それは、みんながふつうに持っているもので?
井上 いや、ハイレゾに対応しているスピーカーじゃないと無理ですね。あ、でも、本当に昔から出ているような、ひとつ100万円とかするようなものだと、対応しているものもあります。スタジオなどで使っているスピーカーなどはそういうものですね。
     *
このとんでもないことを話している井上という人を、最初はIT関係のライターだと思った。
けれど、リンク先の記事を読むと、そこには「ソニーのビデオ&サウンド事業本部」とある。

ソニーの社員によるハイレゾ解説が、このレベルであるのを、どう受けとったらいいのだろうか。
ソニーの社員が話したことであるから、多くの人がこれをソニーの見解として受けとめてもおかしくはない。

ハイレゾに興味をもちはじめている人がこれを読んだら、どう思うのか。

そして、個人的にもっとも驚いたというか、
ほんとうなのか、と目を疑ったのは、この井上という人のフルネームだった。
そこには、井上卓也、とあった。

同姓同名の人はいる。
オーディオ業界にもいて不思議はない。
けれど、よりによって井上先生と同姓同名の人が、こんないいかげんなことを話している……。

貧すれば鈍す、なのだろうか。

Date: 12月 16th, 2014
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(その2)

Hi-Fiという略語がある。
いうまでもなくHigh Fidelityの略。

High Fidelityはハイ・フィデリティであるが、
Hi-Fiと略したものを、誰もハイフィとはいわない。
ハイファイという。

Hi-Resをハイレゾと読む人は、
Hi-Fiをハイフィと読むのだろうか。

Date: 12月 15th, 2014
Cate: High Resolution

Hi-Resについて(その1)

Mac OS Xになりなくなってしまったが、
それ以前の漢字Talk、System、Mac OS時代には、ResEditというアプリケーションがあった。
Appleが開発者用に提供していたものである。

ResEditは”Resource Editor”の略語である。
どう読むのか、友人と調べたことがある。
レスエディットなんだろうな、と思っていたら、どうもレズエディットらしい、ということがわかった。

リソースエディターを略して、レズエディットである。
まちがってもリソエディットとは呼ばない。

さきごろ、Hi-Resをハイレスを書いている人をみかけた。
年配の方のように思われたが、この人を笑えるだろうか。

Hi-Resは、日本ではハイレゾと読む。
High Resolution(ハイレゾリューション)の略だから、ハイレゾ。
語感のいい略語ではない。それについてはもういわない。

けれどHi-Resと表記したら、Hi-ResがHigh Resolutionの略語だと知らない人は、
ハイレス、もしくはハイレズと呼ぶように思う。
Hi-Resを、何も知らずにハイレゾと呼べる人がいるだろうか。

こんな略語で、ほんとうにHigh Resolutionを根づかせたいのか。