Archive for category Rogers

Date: 7月 1st, 2011
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その3)

ステレオサウンド 56号、レコード芸術11月号(1980年)のころ、
瀬川先生は世田谷・砧にお住まいだった(成城と書いている人がいるが、砧が正しい)。

その砧のリスニングルームには、メインのJBL4343のほかに、
瀬川先生が「宝物」とされていたKEFのLS5/1A以外にもイギリスのスピーカーシステムはいくつかあった。
スペンドールのBCII、セレッションのディットン66、ロジャースのLS3/5A、
写真には写っていないが、ステレオサウンド 54号ではKEFの105を所有されていると発言されている。

それにスピーカーユニットではあるが、グッドマンのAXIOM80も。
イギリス製ではないけれどもドイツ・ヴィソニックのスピーカーシステムも所有されていた。

これらのスピーカーシステムを鳴らすときに、どのアンプを接がれて鳴らされたのか。
ステレオサウンド別冊「続コンポーネントステレオのすすめ」に掲載されているリスニングルームの写真では、
アンプ関係は、マークレビンソン、SAE・Mark2500、アキュフェーズC240、スチューダーA68がみえる。

アナログプレーヤーは、EMTの930stと927Dst、それにマイクロのRX5000+RY5500。
アナログプレーヤーは、マイクロがメインとなっていたのか。

ステレオサウンド 56号、レコード芸術11月号を読んでいると、そんなことを思ってしまう。
もうEMTのプレーヤーもスチューダーのパワーアンプも、もう出番は少なくなっていたのか、と。

ロジャースのPM510は、EMTの魅力を、ヨーロッパ製のアンプの良さを、
瀬川先生に再発見・再認識させる何かを持っていた、といえまいか。

聴感上の歪の少なさ、混濁感のなさ、解像力や聴感上のS/N比の高さ、といったことでは、
EMTでは927Dstでも、マイクロの糸ドライヴを入念に調整した音には及ばなかったのかもしれない。
アンプに関しては、アメリカ製の物量を惜しみなく投入したアンプだけが聴かせてくれる世界と較べると、
ヨーロッパ製のアンプの世界は、こじんまりしているといえる。

そういう意味では開発年代の古さや投入された物量の違いが、はっきりと音に現れていることにもなるが、
そのことはすべてがネガティヴな方向にのみ作用するわけでは決してなく、
贅を尽くしただけでは得られない世界を提示してくれる。

なにもマークレビンソンをはじめとする、アメリカのアンプ群が、
贅を尽くしただけで意を尽くしていない、と言いたいわけではない。
中には意を尽くしきっていない製品もあるが、意の尽くした方に、ありきたりの表現になってしまうが、
文化の違いがあり、そのことは音・響きのバックボーンとして存在している。

Date: 6月 30th, 2011
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その2)

レコード芸術の1980年11月号に、PM510の記事が載っている。
瀬川先生と音楽評論家の皆川達夫氏、それにレコード芸術編集部のふたりによる座談会形式で、
PM510とLS5/8の比較、PM510を鳴らすアンプの比較試聴を行なっている。
PM510というスピーカーシステム、1機種に8ページを割いた記事だ。

比較試聴に使われたアンプの組合せの以下の通り
QUAD 44+405
アキュフェーズ C240+P400
スレッショルド SL10+Stasis2
マークレビンソン ML6L+ML2L
マークレビンソン ML6L+スレッショルド Stasis2
マークレビンソン ML6L+スチューダー A68
マークレビンソン ML6L+ルボックス A740

この座談会の中にいくつか興味深いと感じる発言がある。
ひとつはマークレビンソン純正の組合せで鳴らしたところに出てくる。
     *
しばらくロジャース的な音のスピーカーから離れておりまして、JBL的な音の方に、いまなじみ過ぎていますけれども、それを基準にして聴いている限り、EMTの旧式のスタジオ・プレーヤーというのは、もうそろそろ手放そうかなと思っていたところへ、このロジャースPM510で、久々にEMTのプレーヤーを引っ張り出して聴きましたが、もうたまらなくいいんですね。
     *
ステレオサウンド 56号の記事をご記憶の方ならば、そこに927Dst、それにスチューダーのA68の組合せで、
一応のまとまりをみせた、と書かれてあることを思い出されるだろう。

このレコード芸術の記事では、スチューダー、ルボックスのパワーアンプについては、こう語られている。
     *
このPM510というスピーカーが出てきて、久々にルボックス、スチューダーのアンプの存在価値というものをぼくは再評価している次第です。
(中略)JBLの表現する世界がマークレビンソンよりスチューダー、ルボックスでは狭くなっちゃうんですね。ところがPM510の場合にはルボックスとスチューダー、それにマークレビンソンとまとめて聴いても決定的な違いというようなものじゃないような気がしますね。コンセプトの違いということでは言えるけれども、決してマークレビンソン・イズ・ベストじゃなくて、マークレビンソンの持っていないよさを聴かせる。たとえばスレッショルドからレビンソンにすると、レビンソンというのは、アメリカのアンプにしてはずいぶんヨーロッパ的な響きももっているアンプだというような気がするんですけれども、そこでルボックス、スチューダーにすると、やっぱりレビンソンも、アメリカのアンプであった、みたいな部分が出てきますね。

Date: 6月 29th, 2011
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その1)

瀬川先生の「音」を聴いたことのない者にとって、
その「音」を想像するには、なにかのきっかけ、引きがねとなるものがほしい。
それは瀬川先生が書かれた文章であり、瀬川先生が鳴らされてきたオーディオ機器、
その中でもやはりスピーカーシステムということになる。

となると、多くの人がJBLの4343を思い浮べるだろう。
4341でもいいし、最後に鳴らされていた4345でもいい。
ただ、JBLのスピーカーシステムばかりでは、明らかに偏ってしまった想像になってしまう危険性が大きい。

どうしても、そこにはイギリス生れのスピーカーシステムの存在を忘れるわけにはいかない。

ここに書いているように、瀬川先生はロジャースのPM510に惚れ込まれていた。

瀬川先生ご自身が、PM510を「欲しい!!」と思わせるものは、一体何か? と書かれているのだから、
第三者に、なぜそれほどまでにPM510に惚れ込まれていたのか、のほんとうのところはわかるはずもない。
それでも私なりに、瀬川先生の書かれたものを読んでいくうちに、そうではないのか、と気づいたことはある。

Date: 1月 1st, 2011
Cate: BBCモニター, PM510, Rogers, 瀬川冬樹

BBCモニター考(特別編)

昨年秋、また瀬川先生が書かれたメモとスケッチをいただいた。
その中に、BBCモニター、というよりもロジャースのPM510についてのメモがある。

1年前の今日も、瀬川先生のメモを公開した。
今年は、去年に比べるとずっと量は少ないが、このPM510についての「メモ」を公開する。
     *
◎どうしてもっと話題にならないのだろう、と、ふしぎに思う製品がある。最近の例でいえばPM510。
◎くいものや、その他にたとえたほうが色がつく
◎だが、これほど良いスピーカーは、JBLの♯4343みたいに、向う三軒両隣まで普及しない方が、PM510をほんとうに愛する人間には嬉しくもある。だから、このスピーカーの良さを、あんまりしられたくないという気持もある。

◎JBLの♯4345を借りて聴きはじめている。♯4343よりすごーく改良されている(その理由を長々と書く)けれど、そうしてまた2歩も3歩も完成に近づいたJBLを聴きふけってゆくにつれて、改めて、JBLでは(そしてアメリカのスピーカーでは)絶対に鳴らせない音味というものがあることを思い知らされる。
◎そこに思い至って、若さの中で改めて、Rogers PM510を、心から「欲しい」と思いはじめた。
◎いうまでもなく510の原形はLS5/8、その原形のLS5/1Aは持っている。宝ものとして大切に聴いている。それにもかかわらずPM510を「欲しい!!」と思わせるものは、一体、何か?

◎前歴が刻まれる!
     *
内容からして、なにかの原稿のためのメモであろう。
そして最後の1行の「前歴が刻まれる!」だけ、インクの色が違う。しばらくたってから書き足されている。

注意:若さの中で改めて、とあるが、「若」の字がくずしてあり、他の漢字の可能性も高いが、
ほかに読みようがなく、「若さ」とした。

Date: 12月 3rd, 2008
Cate: BBCモニター, PM510, Rogers

BBCモニター考(その2)

4343で感じられなかった音の粗さが、なぜPM510では感じとれたのか。

スピーカーには初動感度というのがある。基本的には能率が同じならば初動感度も同じと考えていい。
ただし聴感上の初動感度は必ずしも、音圧レベルと一致するとは言えない面も持つ。

たとえば重たい振動板を強力な磁気回路を用意して動かすのと、
軽い振動板をほどほどの磁気回路で動かすとして、出力音圧レベル(能率)が同じなら、
初動感度は同じということになる。

だが実際に聴いた印象では、軽い振動板の方が、敏捷だと感じることがある。

4343とPM510の使用ユニットに投じられている物量は、4343のほうがあきらかに上である。
フレームも磁気回路もしっかりとつくってある。
オーディオマニア心をくすぐるのは、4343である。

イギリスは、4343のようなスピーカーを、この時代はつくらなくなっていた。
それ以前はタンノイのオートグラフ、ヴァイタヴォックスのCN191など、
JBLのパラゴン、ハーツフィールド、エレクトロボイスのパトリシアン・シリーズと並ぶ
大型で本格的なつくりのスピーカーがつくられていたが、
いつのまにか家庭用スピーカーとしての範囲をこえないものになっていった。

いかにもイギリス的といえるが、やはりオーディオマニアとってはさびしい面もある。
PM510もLS5/8も、そういう意味では、コストを惜しまず技術の粋を集めて、
やれるところまでやってつくられたというスピーカーではない。

けれど……、と私は思う。

Date: 12月 2nd, 2008
Cate: BBCモニター, PM510, Rogers

BBCモニター考(その1)

こんなことがあった。

ステレオサウンドに入ったばかりの頃、試聴室となりの倉庫に、ちょうどロジャースのPM510があった。
もちろん、さっそく聴いてみた。
まず試聴室のリファレンススピーカーの4343を聴いた後、PM510に変えた。
アンプ、プレーヤーはそのままである。

出てきた音に、すくなからず驚いた。音がとても粗い。
なぜ、こんな音がするのか、不思議なほど、特に微小域の音が粗かった。

アンプを、マイケルソン&オースチンのTVA1に変えてみた。
嘘のように、粗さは消えている。
もういちどアンプを戻すと、やはり粗い。

もしかしてACの極性が反対かと思い、反転させてみても音の粗さは変わらず。
当時、世評の高いセパレートアンプの組合せである。
4343にもう一度つなげて聴くと、粗さは感じられない。

カタログ上の音圧レベルは、PM510は94dB、4343は93dB。
ほとんど同じだから、アンプの出力もほぼ同じ領域で使っていたわけだ。
にもかかわらず、4343では聴きとれなかった、というか気にならなかった音の粗さが、
PM510では耳について、気になって仕方がなかった。