瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・続補足)
アルテックの620Bの組合せの中に、そのことは出てくる。
620Bの組合せをつくるにあたって、
机上プランとしてアルテックの音を生かすには新しいマッキントッシュのアンプだろう、と考えられた。
このころの、新しいマッキントッシュとはC29とMC2205のことだ。
ツマミが、C26、C28、MC2105のころから変っている。
C29+MC2205の組合せは、ステレオサウンドの試聴室でも、瀬川先生のリスニングルームでも、
「ある時期のマッキントッシュがもっていた音の粗さと、身ぶりの大きさとでもいったもが、
ほとんど気にならないところまで抑えこまれて」いて、
マッキントッシュの良さを失うことなく「今日的なフレッシュな音」で4343を鳴らしていた。
なのに実際に620Bと組み合わせてみると、うまく鳴らない。
「きわめてローレベルの、ふつうのスピーカーでは出てこないようなローレベルの歪み、
あるいは音の汚れのようなもの」が、620Bでさらけ出されうまくいかない。
瀬川先生も、4343では、C29+MC2205の
「ローレベルのそうした音を、♯4343では聴き落して」おられたわけだ。
620Bの出力音圧レべは、カタログ上は103dB。4343は93dB(どちらも新JIS)。
聴感上は10dBの差はないように感じるものの、620Bは4343よりも高能率のスピーカーである。
ロジャースのPM510は、4343と同じ93dBである。
つまり4343では聴き落しがちなC29+MC2205のローレベルの音の粗さの露呈は、
スピーカーシステムの出力音圧レベルとだけ直接関係しているのではない、ということになる。
これはスピーカーシステムの不感応領域の話になってくる。
表現をかえれば、ローレベルの再現能力ということになる。
PM510は4343ほど、いわゆるワイドレンジではない。
イギリスのスピーカーシステムとしてはリニアリティはいいけれど、
4343のように音がどこまでも、どこまでも音圧をあげていけるスピーカーでもない。
どちらが、より万能的であるかということになると4343となるが、
4343よりも優れた良さをいくつか、PM510は確かに持っている。
このあたりのことが、927Dst、A68、A740の再評価につながっているはずだ。