Archive for category 真空管アンプ

Date: 8月 30th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(番外)

現代真空管アンプ考というタイトルをつけている。
現代スピーカー考」という別項もある。

現代、現代的、現代風などという。
わかっているようでいて、いざ書き始めると、何をもって現代というのか、
遠くから眺めていると、現代とつくものとつかないものとの境界線が見えているのに、
もっとはっきり見ようとして近づいていくと、いかにその境界線が曖昧なのかを知ることになる。

1989年、ティム・バートン監督による「バットマン」が公開された。
バットマンは、アメリカのテレビドラマを小さかったころ見ていた。

バットマンというヒーローの造形が、こんなに恰好良くなるのか、とまず感じた。
バットモービルに関しても、そうだった。

「バットマン」はヒットした。
そのためなのかどうかはわからないが、
過去のヒーローが、映画で甦っている。

スーパーマン、スパイダーマン、アイアンマン、ハルク、ワンダーウーマンなどである。
スパイダーマンは日本で実写化されたテレビ版を見ている。
ハルクとワンダーウーマンのテレビ版は見ている。

スーパーマンの映画は、
1978年公開、クリストファー・リーヴ主演の「スーパーマン」から観てきている。

これらヒーローの造形は、現代的と感じる。
特にワンダーウーマンの恰好良いこと。

ワンダーウーマンの設定からして、現代的と感じさせるのは大変だったはずだ。
けれど、古い時代の恰好でありながらも、見事に成功している。

日本のヒーローはどうかというと、
仮面ライダー、キカイダー、ガッチャマン、破裏拳ポリマーなどの映画での造形は、
アメリカのヒーローとの根本的な違いがあるように感じる。

較べるのが無理というもの、
予算が違いすぎるだろう、
そんなことを理由としていわれそうだが、
ヒーローものの実写映画において、肝心のヒーローの造形が恰好良くなくて、
何がヒーローものなのか、といいたくなる。

日本の、最近制作されたヒーローものの実写映画での造形は、
どこか根本的なところから間違っているように思う。

「現代」という言葉の解釈が、アメリカと日本の映画制作の現場では大きく違っているのか。
日米ヒーローの造形の、現代におけるありかたは、
「現代」ということがどういうことなのかを考えるきっかけを与えてくれている。

Date: 8月 29th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その23)

トランスのことに話を戻そう。

重量物であるトランスをうまく配置して、重量バランスがとれたからといって、
トランスが複数個あることによる問題のすべてが解消するわけではない。

トランスは、まず振動している。
ケースにおさめられ、ケースとトランスの隙間をピッチなどが充填されていても、
トランスの振動を完全に抑えられるわけではない。

トランスはそれ自体が振動発生源である。
しかも真空管パワーアンプでは複数個ある。
それぞれのトランスが,それぞれの振動を発生している。

チョークコイルも、特にチョークインプット方式での使用ではさらに振動は大きく増す。
しかも真空管アンプなのだから、能動素子は振動の影響を受けやすい真空管である。

一般的な真空管アンプのように、一枚の金属板に出力トランス、電源トランス、チョークコイル、
そして真空管を取り付けていては、振動に関してはなんら対策が施されていないのと同じである。

トランスと金属板との間に緩衝材を挿むとか、
その他、真空管ソケットの取付方法に細かな配慮をしたところで、
根本的に振動の問題を解消できるわけではない。

もちろん、振動に関して完璧な対策があるわけではないことはわかっている。
それでも真空管アンプの場合、
トランスという振動発生源が大きいし多いから、
難しさはトランジスターアンプ以上ということになる。

30年ほど前、オルトフォンの昇圧トランスSTA6600に手を加えたことがある。
手を加えた、というより、STA6600に使われているトランスを取り出して、
別途ケースを用意して、つくりかえた。

その時感じたのは、トランスの周囲にはできるだけ金属を近づけたくない、だった。
STA6600のトランスはシールドケースに収められていた。
すでにトランスのすぐそばに金属があるわけだが、
それでも金属板に取り付けるのは、厚めのベークライトの板に取り付けるのとでは、
はっきりと音は違う。

金属(アルミ)とベークライトの固有音の違いがあるのもわかっているが、
それでも導体、非導体の違いは少なからずあるのではないのか。

そう感じたから、トランスの周りからは配線以外の金属は極力排除した。
ベークライトの板を固定する支柱もそうだし、ネジも金属製は使用しなかった。

Date: 8月 24th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その22)

ここまで書いてきて、また横路に逸れそうなことを思っている。
現代真空管アンプとは、いわゆるリファレンス真空管アンプなのかもしれない、と。

ステレオサウンド 49号の特集は第一回STATE OF THE ART賞だった。
Lo-DのHS10000について、井上先生が書かれている。
     *
 スピーカーシステムには、スタジオモニターとかコンシュマーユースといったコンセプトに基づいた分類はあが、Lo-DのHS10000に見られるリファレンススピーカーシステムという広壮は、それ自体が極めてユニークなものであり、物理的な周波数特性、指向周波数特性、歪率などで、現在の水準をはるかに抜いた高次元の結果が得られない限り、その実現は至難というほかないだろう。
     *
こういう意味での、リファレンス真空管アンプを考えているのだろうか、と気づいた。
製品化することを前提とするものではなく開発されたオーディオ機器には、
トーレンスのReferenceがある。

ステレオサウンド 56号で、瀬川先生がそのへんのことを書かれている。
     *
「リファレンス」という名のとおり、最初これはトーレンス社が、社内での研究用として作りあげた。
アームの取付けかたなどに、製品として少々未消化な形をとっているのも、そのことの裏づけといえる。
 製品化を考慮していないから、費用も大きさも扱いやすさなども殆ど無視して、ただ、ベルトドライヴ・ターンテーブルの性能の限界を極めるため、そして、世界じゅうのアームを交換して研究するために、つまりただひたすら研究用、実験用としてのみ、を目的として作りあげた。
 でき上った時期が、たまたま、西独デュッセルドルフで毎年開催されるオーディオ・フェアの時期に重なっていた。おもしろいからひとつ、デモンストレーション用に展示してみようじゃないか、と誰からともなく言い出して出品した。むろん、この時点では売るつもりは全くなかった??、ざっと原価計算してみても、とうてい売れるような価格に収まるとも思えない。まあ冗談半分、ぐらい気持で展示してみたらしい。
 ところが、フェアの幕が開いたとたんに、猛反響がきた。世界各国のディーラーや、デュッセルドルフ・フェアを見にきた愛好家たちのあいだから、問合せや引合いが殺到したのだそうだ。あまりの反響の大きさに、これはもしかしたら、本気で製品化しても、ほどほどの採算ベースに乗るのではないだろうか、ということになったらしい。いわば瓢箪から駒のような形で、製品化することになってしまった……。レミ・トーレンス氏の説明は、ざっとこんなところであった。
     *
トーレンスのReferenceには、未消化なところがある。
扱いやすいプレーヤーでもない。
あくまでもトーレンスが自社の研究用として開発したプレーヤーをそのまま市販したのだから、
そのへんは仕方ない。

その後、いろいろいてメーカーからReferenceとつくオーディオ機器がいくつも登場した。
けれど、それらのほとんどは最初から市販目的の製品であって、
肝心のところが、トーレンスのReferenceとは大きく違う。

Lo-DのHS10000も、市販ということをどれだけ考えていたのだろうか。
W90.0×H180.0×D50.0cmという、かなり大きさのエンクロージュアにもかかわらず、
2π空間での使用を前提としている。

つまりさらに大きな平面バッフルに埋めこんで使用することで、本来の性能が保証される。
価格は1978年で、一本180万円だった。
しかもユニット構成は基本的には4ウェイ5スピーカーなのだが、
スーパートゥイーターをつけた5ウェイへの仕様変更も可能だった。

HS10000も、せひ聴きたかったスピーカーのひとつであったが、
こういう性格のスピーカーゆえに、販売店でもみかけたことがない。
いったいどれだけの数売れたのだろうか。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その21)

これまで市販された真空管パワーアンプを、
トランスの配置(重量配分)からみていくのもおもしろい。

ウエスギ・アンプのU·BROS3は、シャーシーのほぼ中央(やや後方にオフセットしているが)に、
出力トランス、電源トランス、出力トランスという順で配置している。
重量物三つをほぼ中央に置くことで、重量バランスはなかなかいい。

同じKT88のプッシュプルアンプのマイケルソン&オースチンのTVA1は、
シャーシーの両端にトランスを振り分けている。
片側に出力トランスを二つを、反対側に電源トランスとなっている。

電源トランスは一つだから、出力トランス側のほうに重量バランスは傾いているものの、
極端なアンバランスというほどではない。

ラックスのMQ60などは、後方の両端に出力トランスをふりわけ、前方中央に電源トランス。
完璧な重量バランスとはいえないものの、けっこう重量配分は配慮されている。

(その20)で、マッキントッシュのMC275、MC240はアンバランスだと書いたが、
MC3500はモノーラルで、しかも電源トランスが二つあるため、
内部を上から見ると、リアパネル左端に出力トランス、フロントパネル右端に電源トランスと、
対角線上に重量物の配置で、MC275、MC240ほどにはアンバランスではない。

現行製品のMC2301は、マッキントッシュのパワーアンプ中もっとも重量バランスが優れている。
シャーシー中央にトランスを置き、その両側に出力管(KT88)を四本ずつ(計八本)を配置。

出力は300W。MC3500の350Wよりも少ないものの、MC3500の現代版といえる内容であり、
コンストラクションははっきりと現代的である。
2008年のインターナショナルオーディオショウで初めてみかけた。
それから十年、ふしぎと話題にならないアンプである。
音を聴く機会もいまのところない。

インターナショナルオーディオショウでも、音が鳴っているところに出会していない。
いい音が鳴ってくれると思っているのに……。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その20)

真空管パワーアンプは、どうしても重量的にアンバランスになりがちだ。
出力トランスがあるから、ともいえるのだが、
出力トランスをもたないOTLアンプでも、
カウンターポイントのSA4やフッターマンの復刻アンプでは、重量的アンバランスは大きかった。

電源トランスが一つとはいえ、真空管のOTLアンプではもう一つ重量物であるヒートシンクがないからだ。
SA4を持ち上げてみれば、すぐに感じられることだが、フロントパネル側がやたら重くて、
リアパネル側は軽すぎる、といいたくなるほどアンバランスな重量配分である。

重量的アンバランスが音に影響しなければ問題することはないが、
実際は想像以上に影響を与えている。

出力トランスをもつ真空管アンプでは、重量物であるトランスをどう配置するかで、
アンプ全体の重量配分はほぼ決る。

ステレオアンプの場合、出力トランスが二つ、電源トランスが一つは、最低限必要となる。
場合によってはチョークコイルが加わる。

マッキントッシュのMC275やMC240は、重量配分でみれば、そうとうにアンバランスである。
マランツのModel 8B、9もそうである。
ユニークなのはModel 2で、電源トランス、出力トランスをおさめた金属シャーシーに、
ゴム脚が四つついている。
この、いわゆるメインシャーシーに突き出す形で真空管ブロックのサブシャーシーがくっついている。

サブシャーシーの底にはゴム脚はない。いわゆる片持ちであり、
強度的には問題もあるといえる構造だが、重量的アンバランスはある程度抑えられている、ともいえる。

Model 5は奥に長いシャーシーに、トランス類と真空管などを取り付けてある。
メインシャーシー、サブシャーシーというわけではない。
このままではアンバランスを生じるわけだが、
Model 5ではゴム脚の取付位置に注目したい。

重量物が寄っている後方の二隅と、手前から1/3ほどの位置に前側のゴム脚がある。
四つのゴム脚にできるだけ均等に重量がかかるような配慮からなのだろう。

でもシャーシー手前側は片持ち的になってしまう。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その19)

定電流点火のやっかいなのは、作るのが面倒だという点だ。
回路図を描くのは、いまでは特に難しくはない。

けれど作るとなると、熱の問題をどうするのかを、まず考えなくてはならない。
それに市販の真空管アンプ用の電源トランスではなく、
ヒーター用に別個の電源トランスが必要となってくる。

もっとも真空管アンプの場合、高電圧・低電流と低電圧・高電流とを同居しているわけで、
それは電源トランスでも同じで、できることならトランスから分けたいところであるから、
ヒーター用電源トランスを用意することに、特に抵抗はないが、
定電流回路の熱の問題はやっかいなままだ。

きちんとした定電流点火ではなく、
単純にヒーター回路に抵抗を直列に挿入したら──、ということも考えたことがある。

たとえば6.3Vで1Aのヒーターだとすれば、ヒーターの抵抗は6.3Ωである。
この6.3Ωよりも十分に高いインピーダンスで点火すれはいいのだから、
もっとも安直な方法としては抵抗を直列にいれるという手がある。

昔、スピーカーとアンプとのあいだに、やはり直列に抵抗を挿入して、
ダンピングをコントロールするという手法があったが、これをもっと積極的にするわけで、
たとえば6.3Ωの十倍として63Ωの抵抗、さらには二十倍の126Ωの抵抗、
できれば最低でも百倍の630Ωくらいは挿入したいわけだが、
そうなると、抵抗による電圧低下(630Ωだと630Vになる)があり、
あまり高い抵抗を使うことは、発熱の問題を含めて現実的ではない。

結局、定電流点火のための回路を作ったほうが実現しやすい。
定電流の直流点火か交流点火なのか、どちらが音がいいのかはなんともいえない。

ただいえるのは定電流点火をするのであれば、ヒーター用トランスを用意することになる。
それはトランスの数が増えることであり、トランスが増えることによるデメリット、
トランス同士の干渉について考えていく必要が出てくる。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その18)

ここまでやるのならば、ヒーター点火の周波数を50Hz、60Hzにこだわることもない。
もう少し高い周波数による交流点火も考えられる。
十倍の500Hz、600Hzあたりにするだけでも、そうとうに音は変ってくるはずだ。

そのうえで定電流でのバランス点火とする手もある。

つまりヒーター用電源を安定化するということは、
真空管のエミッションを安定化するということであり、
ヒーターにかかる電圧を安定化するということではない。

エミッションの安定化ということでは、重要なパラメーターは電圧ではなく電流なのだろう。
そうなると定電流点火を考えていくべきではないのか。

300Bだろうが、EL34、KT88だろうが、真空管全盛時代のモノがいい、といわれている。
確かに300Bをいくつか比較試聴したことがあって、刻印タイプの300の音に驚いた。

そういう球を大金を払って購入するのを否定はしないが、
そういう球に依存したアンプは、少なくとも現代真空管アンプとはいえない。

現代真空管アンプとは、現在製造されている真空管を使っても、
真空管全盛時代製造の真空管に近い音を出せる、ということがひとつある。
そのために必要なのは、エミッションの安定化であり、
それは出力管まで定電流点火をすることで、ある程度の解決は見込める。

もちろん、どんなに優れた点火方法であり、100%というわけではないし、
仮にそういう点火方法が実現できたとしても、
真空管を交換した場合の音の違いが完全になくなるわけではない。

それでも真空管のクォリティ(エミッションの安定)に、
あまり依存しないことは、これからの真空管アンプには不可欠なことと考える。

Date: 8月 23rd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その17)

直熱三極管の交流点火ではハムバランサーが必ずつくといっていい。
この場合、電源トランスのヒーター用巻線の両端のどちらかが接地されることは、まずない。

傍熱管の場合でもハムバランサーがついているアンプもある。
マッキントッシュの場合は、モノーラル時代のモノ(つまりMC60までは)ハムバランサーがあり、
ステレオ時代になってからはヒーター用巻線の片側が接地されている。
MC3500ではハムバランサーが復活している。

同時代のマランツのパワーアンプは、というと、ヒーター用巻線にセンタータップがあり、
これが接地されている。ハムバランサーはない。

ハムバランサーがない場合でも、マッキントッシュとマランツとでは接地が違う。
正直いうと、この接地の仕方の違いによる音の変化を、同一アンプで比較試聴したことはない。

マランツの真空管アンプも聴いているし、マッキントッシュの真空管アンプも聴いているが、
これらのアンプの音の違いは交流点火における接地の仕方だけの違いではないことはいうまでもない。

なので憶断にすぎないのはわかっているが、交流点火の場合、
ヒーター用巻線にセンタータップがあり、ここを接地したほうが音はいいのではないのか。

交流点火が音がいい、という人がいる。
けれど理屈からは直流点火のほうがエミッションは安定化するように思える。
それでも──、である。

ということは交流点火で考えられるのは電流の向きが反転することであり、
この反転がヒーターの温度の安定化にどう作用しているのか。

交流点火になんらかの音質的なメリットがあるとしよう。
ならば交流点火でも、定電圧点火と定電流点火とが考えられる。
通常の交流点火ではヒーター用巻線からダイレクトに真空管のヒーターに配線するが、
あえてアンプを介在させる。小出力のアンプの出力をヒーターへと接続する。

そうすることで出力インピータンスを低くすることができ、
この場合は定電圧点火となるし、このアンプを電流出力とすれば、
交流の定電流点火とすることができる。
しかもアンプをアンバランスとするのか、バランスとするのかでも音は変ってこよう。

Date: 8月 22nd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その16)

ヒーターはカソードを熱している。
カソードとヒーター間に十分な距離があれば問題は生じないのだろうが、
距離を離していてはカソードを十分に熱することはできない。

カソードとヒーターとは近い。
ということはそこに浮遊容量が無視できない問題として存在することになる。
ということは真空管アンプの回路図を厳密に描くのであれば、
カソードとヒーターを、極小容量のコンデンサーで結合することになる。

それでも真空管が一本(ヒーターが一つ)だけであれば、大きな問題とはならないかもしれないが、
実際には複数の真空管が使われているのだから、浮遊容量による結合は、
より複雑な問題となっているはず。

仮に定電圧点火であっても定電流点火であっても、
エミッションが完全に安定化していたとしても、この問題は無視できない。

そこに定電圧電源をもてくるか、定電流電源をもってくるかは、
それぞれの干渉という点からみれば、
低インピーダンスの定電圧電源による点火か、
高インピーダンスの定電流電源による点火か、
どちらが複数の真空管の相互干渉を抑えられるかといえば後者のはずだ。

念のためいっておくが、三端子レギュレーターの配線を変更して定電流点火は認めない。

私は真空管のヒーターは、きちんとした回路による定電流点火しかないと考える。
けれど、ここで交流点火について考える必要もある。

交流点火はエミッションの安定化、つまりヒーター温度の安定化という点では、
どう考えても直流点火よりも不利である。

けれど交流点火でなければならない、と主張する人は昔からいる。
ここでの交流点火は、ほとんどの場合、出力管は直熱三極管である。

Date: 8月 22nd, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その15)

いまでこそアンプに面実装タイプの部品があたりまえのように使われるようになっている。
小さい抵抗やコンデンサーには、そのサイズ故のメリットがあるのはわかっていても、
それ以前のアンプでのパ抵抗やコンデンサーの大きさを知っている者からすれば、
デメリットについても考える。

もちろんメリットとデメリットは、どちらか片方だけでなく、
サイズの大きな部品にもメリットとデメリットがあるわけだが、
昔から、抵抗は同じ品種であっても、ワット数の大きいほうが音はいい、といわれてきた。

1/4Wのの抵抗よりも1/2W、さらには1W、2W、5W……、というふうに音はよくなる、といわれていた。
富田嘉和氏はさらに大きな10W、20Wの抵抗を、アンプの入力抵抗に使うという実験をされていたはずだ。

ワット数が大きいほうが、なぜいいのか。
その理由ははっきりとしないが、ひとつには温度係数が挙げられていた。
音楽信号はつねに変動している。

1/4Wの抵抗で動作上問題がなくても、
大きな信号が加わった時、抵抗の内部はほんのわずかとはいえ温度が上昇する。
温度係数の、あまりよくない抵抗だと、その温度上昇によって抵抗値にわずかな変動が生じる。
それが音に悪影響を与えている可能性が考えられる──、
そういったことがいわれていた。

確かに抵抗であれば、ワット数が大きくなれば温度係数はよくなる。
この仮説が事実だとしたら、真空管のヒーターもそうなのかもしれない、と考えられる。

温度のわずかな変化、それによるヒーターの抵抗値のわずかな変動。
そこに定電圧電源から一定の電圧がかかっていれば、
ヒーターへの電流はわずかとはいえ変動することになる。

電流の変動はエミッションの不安定化へとつながる。
ならば安定化しなければならないのは電圧ではなく、電流なのかもしれない。

定電流点火によってヒーターのなんらかの変動が生じても、電流は一定である。
そのためヒーターにかかる電圧はわずかに変動する。

それでも重要なのはエミッションの安定であることがわかっていれば、
どちらなのかははっきりとしてくる。

Date: 8月 17th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その14)

結局のところ、抵抗負荷での測定であり、
入力信号も音楽信号を使うわけではない。

上杉先生の検証も抵抗負荷での状態のはずだし、
マランツがModel 8Bの開発においても抵抗負荷での実験が行われたはず。

ほぼ原波形どおりの出力波形が得られた、ということにしても、
音楽信号を入力しての比較ではなく、
正弦波、矩形波を使っての測定である。

アンプが使われる状況はそうてはない。
負荷は常に変動するスピーカーであり、
入力される信号も、つねに変動する音楽信号である。

ここでやっと(その4)のヒーターの点火方法のことに戻れる。
おそらくヒーターも微妙な変動を起しているのではないか、と考えられる。
安定しているのであれば、定電圧点火であろうと定電流点火であろうと、
どちらも設計がしっかりした回路であれば、音の変化は出ないはずである。

ヒーターに流れる電流は、ヒーターにかかっている電圧を、
ヒーターの抵抗値で割った値である。

ヒーターは冷えている状態と十分に暖まった状態では抵抗値は違う。
当然だが、冷えている状態のほうが低い。

十分に暖まった状態で、ヒーターの温度が安定していれば抵抗値も変動しないはず。
抵抗値が安定していれば、かかる電圧も安定化されているわけで、
オームの法則からヒーターに流れる電流も安定になる。
定電圧点火でも定電流点火でも、音に違いが出るはずがない。

けれど実際は、大きな音の違いがある。

Date: 8月 17th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その13)

上杉先生は管球王国 vol.12で、
マランツのModel 8Bの位相補正について、次のように語られている。
     *
上杉 この位相補正のかけ方は、実際に波形を見ながら検証しましたが、かなり見事なもので、補正を一つずつ加えていくと、ほとんど原派生どおりになるんですね。そのときの製作記事では、アウトプットトランスにラックス製を使ったため、♯8Bとは異なるのですが、それでも的確に効果が出てきました。
     *
上杉先生が検証されたとおりなのだろう。
位相補正をうまくかけることで、NFBを安定してかけられる。
つまりNFBをかけたアンプの完成度を高めているわけである。

真空管のパワーアンプの場合、出力トランスがある。
その出力トランスの二次側の巻線から、ほとんどのアンプではNFBがかけられる。
つまりNFBのループ内に出力トランスがあるわけだ。

出力トランスが理想トランスであれば、
位相補正に頼る必要はなくなる。
けれど理想トランスなどというモノは、この世には存在しない。
これから先も存在しない、といっていいい。

トランスというデバイスはひじょうにユニークでおもしろい。
けれど、NFBアンプで使うということは、それゆえの難しさも生じてくる。

Model 8と8Bは、トランスの二次側の巻線からではなく、NFB用巻線を設けている。
しかも(その12)でも書いているように、8BではNFB用巻線がさらに一つ増えている。

上杉先生が検証されたラックスのトランスには、NFB用巻線はなかったのではないか。
二次側の巻線からNFBをかけての検証だった、と思われる。

それでも的確に効果が出てきた、というのは、そうとうに有効な位相補正といえよう。
なのに、なぜ、複雑な構成のネットワークをもつスピーカーが負荷となると、
マランツのModel 8B、Model 9は大変なことになるのか。

凝りに凝った位相補正がかけられていて、
NFBアンプとしての完成度も高いはずなのに……、だ。

Date: 8月 16th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その12)

Model 8とModel 8Bの違いについて細かなことは省く。
詳しく知りたい方は、管球王国 vol.12の当該記事が再掲載されているムック、
「往年の真空管アンプ大研究」を購入して読んでほしい。

以前の管球王国は、こういう記事が載っていた。
そのころは私も管球王国には期待するものがあった。
けれど……、である。

わずかのあいだにずいぶん変ってしまった……、と歎息する。

Model 8はよくいわれているようにModel 5を二台あわせてステレオにしたモデルとみていい。
Model 8は1959年に発売になっている。
Model 8Bは1961年発売で、前年にはModel 9が発売されている。

Model 8と8Bの回路図を比較すると、もちろん基本回路は同じである。
けれど細かな部品がいくつか追加されていて、
出力トランスのNF巻線が8Bでは二組に増えている。

そういった変更箇所をみていくと、Model 8Bへの改良には、
記事中にもあるようにModel 9の開発で培われた技術、ノウハウが投入されているのは明らかだ。

石井伸一郎氏は、Model 8Bはマランツの管球式パワーアンプの集大成、といわれている。
井上先生も、Model 8Bはマランツのパワーアンプの一つの頂点ではないか、といわれている。
上杉先生は、マランツのパワーアンプの中で、Model 8Bがいちばん好きといわれている。

マランツの真空管パワーアンプの設計はシドニー・スミスである。
シドニー・スミスは、Model 5がいちばん好きだ、といっている(らしい)。

ここがまた現代真空管アンプとは? について書いている者にとっては興味深い。

Date: 8月 16th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その11)

多素子のネットワーク構成ゆえに容量性負荷となり、
しかもインピーダンスも8Ωよりも低くかったりするし、
さらには能率も低い。

おまけにそういうスピーカーに接続されるスピーカーケーブルも、
真空管アンプ全盛時代のスピーカーケーブル、
いわゆる平行二芯タイプで、太くもないケーブルとは違っていて、
そうとうに太く、構造も複雑になっていて、
さらにはケーブルの途中にケースで覆われた箇所があり、
そこには何かが入っていたりして、
ケーブルだけ見ても、アンプにとって負荷としてしんどいこともあり得るのではないか。

QUAD II以外のアンプのほとんどは位相補正を行っている。
無帰還アンプならばそうでもないが、NFBをかけているアンプで位相補正なしというのは非常に珍しい。

大半のアンプが位相補正を行っているわけだが、
どの程度まで位相補正をやっているのか、というと、
メーカー、設計者によって、かなり違ってきている。

マランツの真空管アンプは、特にModel 9、Model 8Bは、
徹底した、ともいえるし、凝りに凝った、ともいえる位相補正である。

積分型、微分型、両方の位相補正を組合せて、計五箇所行われている。
それ以前のマランツのパワーアンプ、Model 2、5、8でも位相補正はあるけれど、
そこまで徹底していたわけではない。

私がオーディオに興味をもったころ、Model 8に関しては8Bだけが知られていた。
Model 8というモデルがあったのは知っていたものの、
そのころは8Bはマイナーチェンジぐらいにしかいわれてなかった。

ステレオサウンド 37号でも、
回路はまったく同じで電源を少し変えた結果パワーが増えた──、
そういう認識であった。
1975年当時では、そういう認識でも仕方なかった。

Model 8とModel 8Bの違いがはっきりしたのは、
私が知る範囲では、管球王国 vol.12(1999年春)が最初だ。

Date: 8月 12th, 2018
Cate: 真空管アンプ

現代真空管アンプ考(その10)

ステレオサウンド 3号のQUADのページの下段には、解説がある。
この解説は誰による文章なのかはわからないが、8号の特集からわかるのは、
瀬川先生が書かれていた、ということ。

QUAD IIについては、こう書かれている。
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 公称出力15Wというのは少ないように思われるが、これは歪率0.1%のときの出力で、カタログ特性で、〝OVERLOAD〟とある部分をみると、ふつうのアンプなら25Wぐらいに表示するところを、あえて控えめに公称しているあたり、イギリス人の面目躍如としている。コムパクトなシャーシ・コンストラクションと、手工芸的な配線テクニックは、実に信頼感を抱かせる。
 イギリスでは公的な研究機関や音響メーカーで標準アンプとして数多く採用されていることは有名で、技術誌のテストリポートやスピーカーの試聴記などに、よく「QUAD22のトーン目盛のBASSを+1、TREBLEを−1にして聴くと云々」といった表現が使われる。
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岡先生もステレオサウンド 50号で、
《長年に亘ってBBCをはじめ、イギリスの標準アンプとして使われていただけのことはある傑作といえる。》
と書かれている。

その意味でQUAD IIは、業務(プロフェッショナル)用アンプといえる。
けれどQUAD IIはプロフェッショナル用を意図して設計されたアンプではないはず。

結果として、そう使われるようになったと考える。

同じ意味ではマッキントッシュのMC275もそうといえよう。
マッキントッシュにはA116というプロフェッショナル用として開発され使われたアンプもあるが、
MC275はコンシューマー用としてのアンプである。

それがCBSコロムビアのカッティングルームでのモニター用アンプとして、
それから1970年代初頭、コンサートでのアンプには、
トランジスターの、もっと出力の大きなアンプではなくMC275がよく使われていた、とも聞いている。

MC275もQUAD IIと、だから同じといえ、
それがマランツの真空管アンプとは、わずかとはいえはっきり違う点でもある。