Archive for category JBL

Date: 12月 5th, 2012
Cate: 4345, JBL, 瀬川冬樹

4345につながれていたのは(その4)

ステレオサウンド 61号の編集後記に、こうある。
     *
今にして想えば、逝去された日の明け方近く、ちょうど取材中だったJBL4345の組合せからえもいわれぬ音が流れ出した。この音が先生を彷彿とさせ、話題の中心となったのは自然な成り行きだろう。この取材が図らずもレクイエムになってしまったことは、偶然とはいえあまりにも不思議な符号であった。
     *
この取材とは、ステレオサウンド 61号とほぼ同時期に発刊された「コンポーネントステレオの世界 ’82」で、
井上先生による4345の組合せのことである。
この組合せが、この本の最初に出てくる記事にもなっている。

ここで井上先生は、アンプを2組選ばれている。
ひとつはマランツのSc1000とSm700のペア、もうひとつはクレルのPAM2とKSA100のペアである。

えもいわれぬ音が流れ出したのは、クレルのペアが4345に接がれたときだった、ときいている。

このときの音については、編集後記を書かれたSさんにも話をきいた。
そして井上先生にも直接きいている。
「ほんとうにいい音だったよ。」とどこかうれしそうな表情で語ってくれた。

もしかすると私の記憶違いの可能性もなきにしもあらずだが、
井上先生は、こうつけ加えられた。
「瀬川さんがいたのかもな」とも。

Date: 12月 1st, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その26)

私にとってJBLのD130というスピーカーは、異相の木だと書いた。
この異相の木を、自分の庭(環境)で鳴らしたい、それもそう遠くないうちに──と考えている。

私にとってJBLのD130は、つねにハークネスとともにある。
この異相の木を、どう鳴らしていくか、
平面バッフルに取り付けて、という手もあるけれど、やはりハークネスしかない。

なぜハークネスなのか、は何度か書いてきていることなので、ここでくり返しはしないが、
ハークネスにいれるユニットとして130Aもあるわけだが、
私にとってハークネスにはD130、D130にはハークネスで、これから先もずっと、
私がくたばるまで、これは変ることがない。

ハークネスはバックロードホーンである。CWホーンである。
D130をバックロードホーンで鳴らす。

基本的には私はワイドレンジ志向だから、D130だけで鳴らすことはどうしても高域の不足を感じてしまう。
なんらかのトゥイーターをもってくる必要があるわけだが、
075ではなく、LE175DLHをもってきたい。
075よりも175DLHのほうが、望む音が得られるという予感が、
175DLHの姿をながめていると感じられる。

基本的にはD130とL175DLHとの2ウェイで聴く。
それでも時には、D130をソロで鳴らしたい──、
きっとそう思うはずである。

だから2ウェイでもD130のソロ(つまりフルレンジ)でも、簡単に接続が切りかえられるようにはしておきたい。
それが異相の木としてD130を迎え、異相の木としてD130を聴くために、
私には必要なことだと、いまはおもえるからだ。

実はバックロードホーンという形式も、私にとっては異相の木的な存在に近く、
D130の異相の木としての性格を際立たせるために、より濃くしていくためにも不可欠の要素といえよう。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その25)

スピーカーのネットワークの並列型と直列型で、
もしこんなことが試されるのであれば──と思っていることがある。

アルテックの同軸型604とタンノイの同軸型を、それぞれ直列型、並列型のネットワークで鳴らしてみる、
ということである。
アルテックもタンノイも15インチ口径の同軸型ユニットを長年つくり続けてきている(いた)。
共通するところもあれば、そうでないところもあるアメリカとイギリスの同軸型ユニットである。

アルテックは低域用と高域用のマグネットを独立させている。
ただし磁気回路の一部は兼用しているので、磁気回路すべてが独立しているわけではない。
タンノイは、マグネットを独立させている同軸型ユニットも存在しているが、
このマグネット独立型のユニットが使われるのは、
同軸型ユニットにウーファーなりトゥイーターをつけ足してワイドレンジ化を図ったモデルであり、
同軸型ユニットのみを搭載したモデルに関しては、一貫してマグネット兼用型のユニットとなっている。
ここにタンノイの見識があらわれている、ともいえよう。

そんな違いのあるふたつの同軸型ユニットを、
直列型ネットワーク、並列型ネットワークで鳴らしてみると、どういう結果になるのか。

マグネットの独立と呼応するように、アルテックは並列型、タンノイは直列型が向いていることになるのか、
意外にもアルテックに直列型に向いていて、タンノイには並列型向いている、という結果になるかもしれない。

これは完全な推測にすぎないのだが、
並列型のネットワークのほうが、いわゆる音の分離、明瞭度は高く、
音の細部の表現においては直列型の上をいくのかもしれないが、
音のまとまり、ハーモニーの美しさ、それに音像のしっかりした感じなどは直列型のほうが優位なのでは……、
そんなふうに想像している。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その9)

ほんとうのところは、まだまだスピーカーとアンプの関係性について書いていきたいのだが、
そうするといつまでも本題である「瀬川冬樹氏とスピーカーのこと」に移れなくなるのでこのへんにしておく。
けれど、スピーカーのアンプの関係性については書きたいことだけでなく、
考えていきたいとも思っているので、項を改めて書く予定ではある(といってもいつになるかは……)。

なぜ少しばかりの脱線とはいえないくらいアンプのことを書いてきたのは、
瀬川先生が最後に鳴らされていたJBLの4345から、
もしいまも存命だったら絶対に鳴らされているはずのジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットまで、
いったいどのスピーカーを鳴らされていたのかを考えていくのに、
スピーカーのことだけを考えていては、答に近づけないと思うからである。

リスニングルームの条件も考慮しないといけない。
瀬川先生が砧に建てられた家から移られたのは目黒のマンションである。
ここは決して広いとはいえないスペースだった、と聞いている。
そこに4345を置かれていた。

1981年以降、瀬川先生はどの程度のリスニングルームのスペースを確保されただろうか……。
そういうことも勘案していく必要がある。

それにアンプのこともある。

1981年の初夏にステレオサウンドから出たセパレートアンプの別冊の巻頭に掲載されている文章、
いま、いい音のアンプがほしい」を読んでいくと、
瀬川先生が求められている音にも変化があり、
マークレビンソンのアンプの音にも変化があり、
このふたつの音の変化は同じところを向っていないことが感じとれる。

瀬川先生は、アンプは何を選ばれただろうか──、
このことも考えていかなければ、スピーカーに何を選ばれたのかについての確度の高い推察はまず無理であろう。

このスピーカーとアンプの関係性からみていくときに、
この項の(その2)で書いているアルテック620Bとマイケルソン&オースチンのTVA1の組合せ、
それにずっと以前の、604Eをおさめた612AとマッキントッシュのC22とMC275との組合せ、
このふたつの組合せのもつ意味を考えていく必要がある、と私はそう確信している。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その8)

D40は、ステレオサウンド 44号の新製品紹介のページで登場している。
井上先生と山中先生が試聴されていて、次のようなことが語られている。
     *
井上 この場合は、スペンドールのスピーカーを鳴らした場合には、という条件つきでないとこのアンプの本来の姿を見失ってしまいますね。ある一つのスピーカーを鳴らすことに的を絞ってアンプを開発した場合は、特別な回路構成をとらないでも、コントロール機能を必要なものに簡略化してしまっても、スピーカーを含めたトータルな再生音のクォリティは非常に高い水準に持っていけるという好例として注目できます。
     *
私はD40を他のスピーカーで聴く機会はなかった。
でも、聴いたことのある人の話では、BCIIと同系統のスピーカーではよかったけれど、
そうでないスピーカーとの組合せでは、精彩を欠いてしまう、と。

そうだと思う。
一般的なアンプの常識では、優秀なアンプとは考えられない。
D40の音は、不思議にいい音であって、その意味では優秀なアンプとは言い難い。
なのに優秀なアンプで鳴らしたBCIIよりも、BCIIの魅力を抽き出し弱いところをうまく補うアンプはない。

もうすこし引用しておく。
     *
山中 このアンプでスペンドールのスピーカーを鳴らしてみますと、他のアンプで聴いたときの印象と違って、かなり中音域が充実して聴こえます。
井上 そうなんですね。以前にいろいろなアンプで聴いたスペンドールのスピーカーの音は、大変バランスがいいといってもやや中域がエネルギー的に不足している部分に感じられたのです。またそれがデリケートで微妙なニュアンスの再現性に優れた、特有の音色と結びついていたともいえるのですが場合によっては神経質な音といった感じに聴こえてしまうこともありました。このD40で鳴らすとその辺をうまく補って、中域にある種のエネルギー感がついて、全体的な音のまろやかさ、余裕といったものが出てくるようです。
山中 もちろん中域のエネルギー感が加わったといっても大変元気な音になったというわけではないですね。スペンドール独得のひめやかな、雰囲気のある音はやはりベースになっています。
     *
D40は優秀なアンプではないし、アンプの理想像に近いわけでもない。
それでもアンプは単体でなにかをするものではない。スピーカーを鳴らしてこそアンプの存在があり、
つねにスピーカーとの関係において語っていくものとしたら、
スペンドールのスピーカーシステムとD40の関係は、
スピーカーとアンプの関係のひとつの理想に近いものといえるところがある。

Date: 11月 25th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その7)

スペンドールのD40は、
スペンドールの設立者であるスペンサー・ヒューズの息子、デレク・ヒューズの設計となっている。

スペンドールのスピーカーシステムの型番は、
たとえばBCシリーズは、
ウーファーの振動板のベクストレンとトゥイーターに採用されているセレッションを表しているし、
小型のSA1は、
自社製のウーファーとフランス・オーダックス製のトゥイーターを採用していることからつけられている。

そういう型番のつけ方をしているスペンドールだから、
D40のDは、デレク・ヒューズの設計を表している、と考えていいはず。

D40はコンパクトなプリメインアンプで、
機能も最小限度のものしかついていない。
入力セレクター、バランサー、レベルコントロールだけ。
外形寸法はW33.2×H9.6×D22.3cm、重量は6kg。
出力は型番からわかるように40W+40W。

回路についての技術的な説明はなにもない。

D40についての製品解説をしようと思っても、あまり書くことが見当たらない、
そういうプリメインアンプである。

けれど、このD40は、スペンドールのスピーカーシステムと組み合わせたとき、
なぜ、こんなつくりのアンプなのに、と思いたくなるほどの音を聴かせてくれる。

私はいちどだけBCIIとの組合せで聴いたことがある。
D40よりも物量を投入したプリメインアンプ、セパレートアンプのいくつかでBCIIを聴いたことはある。
そのどれよりも、D40で鳴らしたときに、BCIIは、こういう音も鳴らせるのか、という驚きがあった。

Date: 11月 24th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その6)

300Bのアンプのことについては何度か書いてきている。
そのたびに、具体的な300Bのアンプについて書けないもどかしさを感じている。
市販品でなんとかおすすめできる300Bアンプがあれば、そのアンプを例にとって話をしていけるのに……、
というもどかしさがある。

300Bという真空管の名称は、真空管にさほど興味のない方でも、
いちど聞いたことのある、そういう誰もが名前だけは知っている真空管である。
なのに、そのもっとも有名な真空管を使ったアンプの音について、
なんらかの共通認識があるのかといえば、ないとしかいいようがない。

ウェスターン・エレクトリックの、ほんとうの300Bは格別の球であることは断言できる。
だからといって、ほんとうの300Bを出力段に使ったからといって、
それだけでどんなアンプでも、格段の音になるわけではない。

それでも300Bのアンプということが語られ謳われ、私も300Bのシングルアンプという表現を使う。
けれど、それは、おそらくみな違う音のことでもある。
伊藤アンプにかわる標準原器ともいえる300Bのアンプが登場してほしい、と、
300Bという言葉を、ここで書く度に思っている。

300Bのシングルアンプよりも、まだ多くの人が聴いているアンプ、
それも市販されたことのあるアンプで思い出したのがひとつある。
スペンドールのプリメインアンプのD40である。

同じイギリスのスピーカーメーカーであるロジャースのアンプは知っているけれど、
スペンドールもアンプを作っていたの? と思われる方は少なくないだろう。
D40も決して多く売れたアンプではない。

でもスピーカーとパワーアンプの関係について、
パワーアンプに求められる姿について考えていくうえで、
D40はもっとも好適である。

Date: 11月 24th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その5)

スピーカーのことについて書いていくのが、パワーアンプのことについて書いている。
もう少しパワーアンプのことにつきあっていただきたい。

パワーアンプの理想とはどういうことなのか。
いかなるスピーカーシステムであろうと鳴らしきることのできるパワーアンプを優秀なパワーアンプということで、
この項を書いてきている。
けれど、その優秀なパワーアンプでは鳴らせない音を、
300Bのシングルアンプのように、優秀なアンプの定義にはおさまらないアンプが聴かせることが、
オーディオには往々にしてある。

300Bのシングルアンプといっても、市販品に推められるアンプがあるからといえば、
そうとうに妥協しても、ない、といわざるをえない。
シングルアンプが無理なら、300Bのプッシュプルアンプでは──、
やはり、ない。
海外のメーカーからも300Bのプッシュプルアンプは出ているけれど、
あのアンプの写真を見たとき、なんというデザインなんだろう……、とひどくがっかりしたものだ。
仕上げはたしかに丁寧であっても、はっきりいってひどいデザインといえる。

でもオーディオ雑誌を読むと、デザインのことで褒めている人が何人かいる。
なんなのだろうか……、と思う。
これがブランド・イメージなのか、とも思う。

音に関しては、特になにもいわないけれど、あのデザインに関してだけは、あれこれいいたくなる。
いいたいことがありすぎる。
書き始めると、それだけでけっこうな文量になってしまうし、
書く方も読まれる方も気持のいいものではないから、具体的にはあれこれ書きはしないものの、
あのアンプのデザインを褒める人の音質評価は、私はもう信じないことにしている。

オーディオ雑誌で書いている人たちは、書きにくいことがあるのは読む方だって承知している。
だからデザインについて悪く書くことができなければ、
デザインについては触れなければいいわけで、それをあえて触れて褒めているということは、
その人は、あのアンプのデザインがいいと思っていることになる。
読者はそう受けとめるだろう。私はそう受けとめた。

Date: 11月 20th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その4)

優秀なパワーアンプとは、
スピーカーシステムを鳴らしきれるだけのパワー(単に出力という意味だけでなくパフォーマンスも含めて)をもつ、
ということになるのだろう。

どんなスピーカーをであれ、鳴らしきれるパワーアンプもあることだろう、
一方で、その範囲は狭まるものの、ある種のスピーカーを鳴らしきることのできるパワーアンプもある、といえる。
この場合、前者のパワーアンプの方がより優秀ということに一般的になるけれど、
オーディオを仕事としていなければ、つまりいくつものスピーカーを鳴らすということを目的としていなければ、
自分がそのとき気に入っているスピーカーを鳴らしきってくれれば、充分でありそれ以上を求めるかどうかは、
その人次第でもある。

鳴らしきれるスピーカーの範囲が広かろうと、ある程度限られていようと、
鳴らしきることのできるパワーアンプからすると、決して優秀とは呼びにくいパワーアンプがあることも事実である。
けれど、そういうパワーアンプのすべてが、いい音がしないわけでは、決してない。

たとえばウェスターン・エレクトリックの300Bのシングルアンプ。
このアンプを優秀なアンプとは呼びにくい。

もちろん300Bのシングルアンプといってもピンからキリまであるのだから、
あくまでもここでいう300Bのシングルアンプとは、私にとっては伊藤先生の300Bシングルアンプであり、
すくなくとも同等のクォリティをもった300Bのシングルアンプということに限らせてもらう。

出力が小さいからそれに見合うだけの高能率のスピーカーと組み合わせれば……、というとこになるだろうが、
それでも感覚的には、スピーカーを鳴らしきる、というイメージにもったことはない。
鳴らしきっている、というより、うまく鳴らしている、といった感じなのである。

300Bのシングルアンプは、一方の極にある。
もう一方の極には、いかなるスピーカーであろうと鳴らしきるだけの優秀なパワーアンプ。

パワーアンプという括りではいっしょにできないほど、このふたつの極のアンプの性格は違う。

マッキントッシュのMC275は登場したときは、優秀なパワーアンプの極に属していた、ともいえる。
けれどMC275の登場から50年以上が経ち、
いまでは300Bのシングルアンプの極にぐっと近い位置にいるといえる。

Date: 11月 19th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その3)

マイケルソン&オースチンのTVA1が現代のMC275と、当時いわれたのは、
なにもKT88のプッシュプルで出力がほぼ同じということだけでなく、
シャーシーがどちらもクロームメッキ処理されているということもあった。

KT88とクロームメッキ、ということでいえば、1983年に登場したフランスのジャディスのJA80もまた、
KT88にクロームメッキ・シャーシーの組合せだった。
JA80は、けれどAクラス動作(MC275、TVA1はABクラス)で80Wの出力を得るために、
KT88を4本使用したパラレルプッシュプル。

いま、これら3機種を集めて聴き較べをしてみたら、どういう結果になるんだろうか、と関心がある。
どれも、個性の強い(というより濃い)音を特色としている。
そういう音をベースにしていても、意外にも一色に塗ってしまう音とは違う。

しなやかさをきちんと持っている。
コントロールアンプを替えれば、カートリッジやCDプレーヤーを替えたりすれば、
その音色の違いを、それぞれのアンプ固有の音色の中に反映させる、という意味でのフレキシビリティの高さがある。

意外に思われるかもしれないけれど、MC275もフレキシビリティの高いアンプである。
これは以前書いていることだが、ステレオサウンドの試聴室で、MC275を鳴らしたことがある。

鳴らしたスピーカーシステムはBOSEの901に、アポジーのCaliper Signature、
コントロールアンプはあえて使わずにCDプレーヤーを直接接続。
音量調整はMC275の入力レベルコントロールで行った。

901とCaliper Signatureは、ずいぶんと異る面をいくつも持つスピーカーシステムで、
およそ共通するところはないように見える、このふたつのスピーカーをMC275を実にうまく鳴らしてくれた。

Caliper Signatureはインピーダンスが低いため、
トランジスターアンプでは大型の電源トランスと大容量のコンデンサーによるしっかりと余裕のある電源、
それに低インピーダンス負荷においても十分な電流供給能力をもつ出力段、
そういったことが要求されるわけで、必然的に大型パワーアンプと組み合わされることが多かった。

そういったアンプからみれば、MC275の出力は少ないし、規模も小さい。
リボン型の低インピーダンスのスピーカーシステムを鳴らしきるアンプとは思いにくい。

その印象はそう間違ってはいない。
Caliper Signatureに合うパワーアンプが鳴らしきる、という印象の音なのに対し、
MC275での音には、鳴らしきっている、という印象はない。
けれど、うまく鳴らしてくれる。
鳴らしきるパワーアンプでは聴けない表情をCaliper Signatureから抽き出してくれた。

Date: 11月 18th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その2)

瀬川先生は、JBL4345とジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットのあいだに、
どんなスピーカーシステムを鳴らされていたであろうか、を考えるにあたって、いくつかの要素がある。

その中でまず浮んでくるのは、スイングジャーナルの別冊でつくられた組合せのことだ。
このブログの最初のころに書いているように、そこで瀬川先生はJBLのスピーカーではなく、
アルテックの604の最新型604-8Hをおさめた620Bを指定され、
アンプにはアキュフェーズのC240とマイケルソン&オースチンのTVA1。

この組合せは、
瀬川先生の耳の底に焼きついている音を鳴らした、
604Eをおさめた621AとマッキントッシュのC22、MC275と組合せを思い出させる。

TVA1はKT88のプッシュプル、MC275もKT88のプッシュプルで、
出力はTVA1が70W+70W、MC275が75W+75Wということもあって、
もちろんそれだけでなく音の面でも、MC275の現代版としてとらえられるところがあった。
そういうパワーアンプである。

マイケルソン&オースチンからコントロールアンプもややおくれて登場したけれど、
それほど話題にはならなかった。
TVA1の出来に比較すると、コントロールアンプの出来はそういう程度であったからだ。

まだTVA1しか登場していなかったころ、瀬川先生はアキュフェーズのC240と組み合わせされている。
そのことはステレオサウンド 52号に書かれている。
     *
 TVA1は、プリアンプに最初なにげなく、アキュフェーズのC240を組合わせた。しかしあとからいろいろと試みるかぎり、結局わたくしは知らず知らずのうちに、ほとんど最良の組合せを作っていたらしい。あとでレビンソンその他のプリとの組合せをいくつか試みたにもかかわらず、右に書いたTVA1の良さは、C240が最もよく生かした。というよりもその音の半分はC240の良さでもあったのだろう。例えばLNPではもう少し潤いが減って硬質の音に鳴ることからもそれはいえる。が、そういう違いをかなりはっきりと聴かせるということから、TVA1が、十分にコクのある音を聴かせながらもプリアンプの音色のちがいを素直に反映させるアンプであることもわかる
     *
TVA1の音の個性は、どちらかといえば濃い、といえる。MC275もそういうところをもつ。
それでいて両者とも、意外にもフレキシビリティの高さももっている。

Date: 11月 16th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その1)

11月7日のaudio sharing例会「瀬川冬樹を語る」でも出た話題であり、
私がステレオサウンド働いていたときも辞めたあとも、なんどか出た話題が、
瀬川先生が生きておられたスピーカーは何を鳴らされているか、ということだ。

いまならば、間違いなくジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットを使われている。
ジャーマン・フィジックスのスピーカーシステムにされているか、
菅野先生と同じようにDDD型ユニットを中心としたシステムを自分で組まれるか、
たぶん後者ではなかろうか、とは思うけれど、
どちらにしろジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットを核としたシステムである。
これは断言しておく。

菅野先生がジャーマン・フィジックスのTrobadour40を導入されたとき、
たしか2005年5月だった。
このとき聴き終った後、
「瀬川先生が生きておられたら、これ(Trobadour40)にされてたでしょうね」、
自然と言葉にしてしまった。

菅野先生も
「ぼくもそう思う。オーム(瀬川先生の本名、大村からきているニックネーム)もこれにしているよ」
と力強い言葉が返ってきた。

私だけが思っていたのではなく、菅野先生も同じおもいだったことが、とてもうれしかった。
すこしそのことを菅野先生と話していた。

菅野先生はいまはTrobadour40からTrobadour80にされている。
ウーファーはJBLの2205、その下にサブウーファーとしてヤマハのYST-SW1000が加わり、
スーパートゥイーターとしてエラックのリボン型4PI。

瀬川先生がどういうウーファーと組み合わされるのか、
やはりスーパートゥイーターとしてエラック4PIを使われるのか、
そういう細かいことをはっきりとはいえないし、
もしかするとThe Unicornを中心としたシステムを組まれていたことだって考えられる。

それでも、ジャーマン・フィジックスのDDD型に惚れ込まれていたことだけは、確信している。

だから「瀬川先生が生きておられたら……」で考えるのは、
最後に鳴らされていたJBLの4345とジャーマン・フィジックスのあいだをうめるスピーカーについて、
ということになる。

Date: 11月 11th, 2012
Cate: JBL

なぜ逆相にしたのか(その11)

正相接続・逆相接続による音の違いはどこから生れてくるのだろうか。

いくつかの要素が考えつく。
まずフレームの鳴き。
何度かほかの項で書いているように、
ボイスコイルにパワーアンプからの信号が加わりボイスコイルが前に動こうとする際に、
その反動をフレームが受けとめ、とくにウーファーにおいては振動板の質量が大きいこと、
それに振動板(紙)の内部音速が比較的遅いこともあって、
コーン紙が動いて音を出すよりも前にフレームから音が放射される。

逆相接続にすればフレームが受ける反動も大きく変わってくる、
そうすればフレームからの放射音にも違いが生じるはず。

反動によるフレームの振動はエンクロージュアにも伝わる。
エンクロージュアの振動モードも変化しているであろう。

こういうことも正相接続・逆相接続の音の違いに少なからず関係しているはず。

これを書いていてひとつ思い出したことがある。
アクースタットのコンデンサー型スピーカーが登場したとき、
どうしても背の高い、この手のスピーカーはしっかりと固定できない。
ならば天井から支え棒をするのはどうなんだろう、と思い、井上先生にきいてみたことがある。

「天井と床がつねに同位相で振動している、と思うな」
そう井上先生はいわれた。

同位相で振動していれば支え棒は、
つねに一定の力でアクースタットの天板(そう呼ぶには狭い)を押えてくれる。
しかし実際には同位相の瞬間もあれば逆位相の瞬間もあり、90度だけ位相がずれている瞬間、
かなり複雑な位相関係の瞬間もあるだろうから、
支え棒が押える力は常に変動することになる。

この力の変動はわずかかもしれない。
でも、こういった変動要素は確実に音に影響をおよぼす。
それに支え棒そのものも振動しているのだから、

支え棒の位相がスピーカー本体や天井に対してどうなのか。

井上先生は、さまざまな視点からものごとをとらえることの重要さを教えてくれた。

Date: 11月 11th, 2012
Cate: JBL

なぜ逆相にしたのか(その10)

この項を書き始めたとき、
JBLが逆相なのは、ボイスコイルを捲く人が間違って逆にしてしまったから、
それがそのまま採用されたんだよ、と、いかにもその時代を見てきたかのようなことを言ってくれた人がいる。

本人は親切心からであろうが、
いかにも自信たっぷりでおそらくこの人はどこから、誰かから聞いた話をそのまましてくれたのであろうが、
すくなくとも自分の頭で、なぜ逆相にしたのか、ということを考えたことのない人なのだろう。

私はJBLの最初のユニットD101は正相だと考えている。
逆相になったのはD130から、であると。
これが正しいとすれば、最初にボイスコイルを逆に捲いてしまったということはあり得ない説になる。

ほんとうにそうであるならば、D101も逆相ユニットでなければならない。
私は、こんなくだらない話をしてくれた人は、
D130の前にD101が存在していたことを知らなかったのかもしれない。

また、こんなことをいってくれた人もいた。
振動板が最初前に出ようが(正相)、後に引っ込もうが(逆相)、
音を1波で考えれば出て引っ込むか、引っ込んで前に出るかの違いだけで、なんら変りはないよ、と。

これもまたおかしな話である。
振動板の動きだけをみればそんなことも通用するかもしれないけれど、
スピーカーを音を出すメカニズムであり、振動板が動くことで空気が動いている、ということを、
これを話してくれた人の頭の中には、なかったのだろう。
そして、すくなくともこの人は、ユニットを正相接続・逆相接続したときの音の違いを聴いていないか、
聴いていたとしても、その音の違いを判別できなかったのかもしれない。

スピーカーを正相で鳴らすか逆相で鳴らすか、
音の違いが発生しなければ、この項を書くこともない。
けれど正相で鳴らすか逆相で鳴らすかによって、同じスピーカーの音の提示の仕方ははっきりと変化する。

一般的にいって、正相接続のほうが音場感情報がよく再現され、
逆相接続にすることで音場感情報の再現はやや後退するけれど、
かわりに音像がぐっと前に出てくる印象へとあきらかに変化する。

これは誰の耳にもあきらかなことであるはず。
正相接続と逆相接続で音は変化する。
変化する以上は、そこにはなんらかの理由が存在しているはずであり、
そのことを自分の頭で考えもせず、
誰かから聞いたことを検証もせずに鵜呑みにしてしまっては、そこで止ってしまう。

Date: 8月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その24)

スピーカーのネットワークに並列型と直列型があることは、ずっと以前から知ってはいた。
私が中学生のときは、まだ技術的なことを解説した書籍がいくつも出ていた。
スピーカーに関する、そういう本もいくつもあった。

ラジオ技術から出ていた書籍は、中学生、高校生にとっては、
LPを一枚買うか、それとも本を買うか、迷ってしまうぐらいに、ほぼ同じ価格のが多かった。

ラジオ技術から出ていた一連の技術書は、
当時手に入れることのできる、もっとも充実した内容のものが多かった。

スピーカーの技術に関するのは「スピーカ・システム」というタイトルで、
山本武夫・編著、となっている。

この本でも当然ネットワークについて語られていて、
並列型と直列型があることも書いてある。
けれど直列型がどういうメリットがあるのかについてはふれられていない。

なにも、この本だけにかぎらない。
私が手にした本で、直列型ネットワークのメリットにふれたものは、ひとつとしてなかった。
どれも直列型がある、というだけにとどまっていた。

もっとも現実の製品をみても、
大半(90%以上)のスピーカーシステムは並列型のデヴァイディングネットワークを採用している。
直列型を採用しているのは、数えるほどしかない。
それでも現行製品で直列型を採用しているスピーカーシステムがあるのも、また事実である。

直列型のメリットは、いったいなんだろうか。
実を言うと、私もよくわかっていない。
いちど並列型と直列型の両方のネットワークを作ってみるべきなのだけど、まだやっていない。

ただデメリットは、ひとつ即いえることがある。
直列型では回路構成上、バイワイヤリングは不可能ということ。
そして、これに関連することだが、たとえばJBLの4343のようにスイッチひとつで、
バイアンプ駆動に切りかえるということも、無理である。