Archive for category JBL

Date: 1月 2nd, 2013
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その33)

オルトフォンのMC型カートリッジは、低インピーダンスである。

ステレオサウンド 74号のハーマンインターナショナルが出しているオルトフォンの広告には、こうある。
「必然の数値」。

3Ωという、低い内部インピーダンスこそが、その「必然の数値」ということを、
その広告は謳っている。

3Ωという数値はオルトフォンが「行き着くべくして行き着いたインピーダンスの値」とあり、
「もっとも効率よくいい音を引き出せるコイルの巻数」ともある。

オルトフォンの言い分では、3Ω以上のインピーダンスになれば、
さまざまな問題が発生してくる──、
「コイルの巻数が多いから、エネルギー・ロスが多い」、
「発熱によるサーマルノイズ(熱雑音)が発生する」、
「振動系全体が重くなり、トラッキングアビリティが悪くなる」、
「位相もズレる」
これらをオルトフォンは問題点として挙げている。

この広告のあとしばらくしてだったと記憶しているが、
オルトフォンは「オルトフェイズ」という造語を使っていた(はずだ)。

Date: 12月 30th, 2012
Cate: 4343, JBL

4343とB310(その21)

ステレオサウンド別冊「いまだからフルレンジ 1939-1997」の巻頭にある「フルレンジの魅力」は、
19ページにわたっている。
単にフルレンジ型ユニットの魅力について書かれているのではなく、
井上先生ならではの解説と使い方へのアドバイスもあり、
この記事を初心者向けのものととらえる人もいるだろうが、
読めばそうでないことは、キャリアのある人ほど実感できるはずである。

「フルレンジの魅力」の冒頭には、こう書かれている。
     *
フルレンジユニットの魅力は、まず第一に、音源が一点に絞られ、いわゆる点音源的になるために、音像定位のクリアーさや安定度の高さが、何といっても最大のポイントだ。また、シングルコーン型や、ダブルコーン型に代表される複合振動板採用のユニットでは、デヴァイディング・ネットワークが不要なため、これによる音の色づけや能率低下がないことも魅力だ。さらに、振動板材料の違いによる音質、音色の差もきわめて少ないため、音の均質性に優れ、何らかの違和感も生じることがなく、結果として反応が速く、鮮度感の高い生き生きとした躍動感のある音を楽しめる点が、かけがえのない魅力である。
     *
「いまだからフルレンジ 1939-1997」は誌名からわかるように1997年に出ている。
「いまだからフルレンジ 1939-1997」にこまかな不満がないわけではないが、
その程度の不満はどの本に対しても感じることであり、特にここで書こうとは思っていない。

でも、ひとつだけ不満というか注文をつけるとしたら、
本の最後に、筆者後記が欲しかった、と思う。

つまり、なぜ1997年にフルレンジ型ユニットの別冊を企画されたことの意図についての、
井上先生の文章が読みたかったからである。

でも、井上先生のことだから、あえて書かれなかったのだとも思っている。
1997年に、井上先生がフルレンジ型ユニットの本を監修されたのかは、
「いまだからフルレンジ 1939-1997」の読み手が、ひとりひとり考えることであり、
そのことを考えずに「いまだからフルレンジ 1939-1997」を読んだところで、
この本の面白さは半分も汲み取れないのではないだろうか。

Date: 12月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その32)

BL積のBは磁束密度のことで、Lはボイスコイルの長さのことである。
Lは長さなので、技術書ではBL積ではなくBl積と表記されているが、
見難いのでBL積と、ここでは表記していく。

BL積は、磁束密度が高くボイスコイル長が長いほど高くなるわけだ。

そして動電型(つまりダイナミック型)スピーカーにおける駆動力とは、
このBL積にボイスコイルに流れる電流値IをかけたBLIとなり、
磁束密度が同じ磁気回路のスピーカーユニットではボイスコイル長の長いほうが、
電流は少なくても同じ駆動力が得られることになる。

JBLの4インチ径ダイアフラムのコンプレッションドライバーでは、
8Ωよりも16Ωの方が聴感上の結果は良かったわけだが、
だからといって、どんなに場合にもBL積の値が高いほうが好ましい結果が得られるとは限らないだろう。

4インチ口径のコンプレッションドライバーでは高域が延びているといっても10数kHzまでだから、
16Ωの方が良かったのかもしれない。
スーパートゥイーターのように20kHz以上まで延びていると、結果は変ってくることも考えられる。

ボイスコイル長は同じで磁束密度を増してBL積を大きくするのであればいいのだが、
ボイスコイル長を長くした(16Ω仕様とした)場合、
ボイスコイルはその名の通りコイルであるためインダクタンスがその分増すことになる。
このことは高域のインピーダンスの上昇へとつながっていく。

これに関することで思い出すのは、オルトフォンのカートリッジのインピーダンスについてである。

Date: 12月 26th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その31)

いま挙げた例は、いわばスピーカーがアンプに寄り添っていったともいえることである。
たしかにトランジスターアンプで鳴らすのであれば、16Ωよりも8Ωのほうが効率がいい。
けれど効率がいいことが音の良さに必ずしもつながっていくわけではないことを、
オーディオマニアであれば体験上知っているはず。

もう4年ほど前のことだったか、
知人があるオーディオショップでJBLのコンプレッションドライバーの比較試聴を行う、と私に連絡してきた。
比較試聴といってもJBLのドライバーをいくつか用意して、ということではなく、
同一ユニットでインピーダンスの違いを聴き比べる、ということだった。
違いはダイアフラムだけである。

試聴条件はネットワークだと、
ドライバーのインピーダンスによってカットオフ周波数などが変化することを配慮して、
マルチアンプ駆動で行ったそうだ。

知人は連絡してきたときに、こういっていた。
「8Ωのダイアフラムの方がボイスコイルの巻数が少ない分、振動系の質量がわずかとはいえ軽量なので有利なはず」
それに対して私は「BL積が関係してくるから、16Ωの方がきっといいと思うよ」と答えておいた。

夜、もういちど知人から電話があった。
すこし興奮気味で「16Ωのほうが良かった」といっていた。

彼は8Ωのほうが軽量な分高域が伸びて、
大型コンプレッションドライバーを使った2ウェイのシステムを考えていただけに、
8Ω仕様に期待していたのが、実際には16Ωの方が、音が鳴りだした瞬間に、優っていたことを知らされた、と。

駆動力に直接関係するBL積は、
私がオーディオをやり始めたころはスピーカーユニットのスペックとして発表されることが多かった。
それがいつのまにか、それほど重要なスペックではない、ということになり、
スペック上から消えていっていた。

でも、私はどこかで、スピーカーの技術者による「BL積(BLファクター)は重要だ」、
という発言を読んでいた記憶がずっとあったため、
私自身は8Ωと16Ωのダイアフラムによる音の違いは実際には聴いたことはなかったけれども、
16Ωのほうが有利ではないか、という推測ができただけである。

Date: 12月 26th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その30)

たとえばアルテックの同軸型ユニットの604シリーズ。
604Eまではインピーダンスは16Ω、
604-8Gから、型番の末尾にアルファベットだけでなく数字の8が加わったことからもわかるように、
インピーダンスは8Ω仕様に変更されている。

これは604Eのころはまだまだ真空管アンプで鳴らされることが前提だったのが、
604-8Gが登場した1975年には真空管アンプは市場からほとんど消え去り、
トランジスターアンプで鳴らされることが多くなってきていたからである。

トランジスターアンプは真空管アンプのように出力トランスをしょっていないため、
スピーカーのインピーダンスによって出力が変る。
理論通りの動作をしているパワーアンプであれば、
16Ω負荷では8Ω負荷時の1/2の出力に、4Ω負荷では8Ω負荷時の2倍の出力となる。

真空管とくらべるとトランシスターは低電圧・大電流動作のため、
スピーカーのインピーダンスはある程度低いほうが出力を効率よく取り出せる。

アルテックの604シリーズを例に挙げたが、
他のメーカーのスピーカーでも、これは同じことであり、それまでは16Ωが主流で32Ωのユニットもあったのが、
1970年代にはいり、スピーカーのインピーダンスといえば標準で8Ωということになっていく。

トランジスターのパワーアンプが登場する前、
真空管アンプで出力トランスを省いたOTLアンプが一時的に流行ったころには、
16Ωでも真空管のOTLアンプにとってはインピーダンスが低すぎて、
効率よく出力を取り出せないために、
OTL専用のスピーカーユニットとしてインピーダンスが100Ωを越えるものが特注でつくられていた、と聞いている。

スピーカーのインピーダンスの変化をみていくと、
それはアンプの主流がなんであるかによって変っていっているわけだから、
アンプが、その意味では主ともいえなくもないわけだ。

Date: 12月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その29)

コーン型スピーカーの始まりは、1925年に世界初のスピーカーとしてアメリカGEの、
C. W. RiceとE. W. Kellogの共同開発による6インチのサイズのものとなっている。
けれど以前にも書いているように、スピーカーの特許は、
エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、アメリカとドイツで申請されている。

このときの特許が認められなかったのは、
スピーカーを鳴らすために必要不可欠なアンプが、まだ世の中に誕生していなかったからである。
ようするに真空管が開発されアンプが開発されるまでの約50年間の月日を、
スピーカーは待っていたことになる。

スピーカーはスピーカーだけでは、ほとんど役に立たない。
おそろしく高能率のスピーカーと、同程度に高出力のカートリッジがあれば、
カートリッジをスピーカーを直接接続して音を出すことはできるだろうが、
それは音が出る、というレベルにとどまるであろう。

現在のような水準にまで高められたのは、やはりアンプが誕生し、改良されてきたからである。

こんなふうに歴史を振り返ってみると、
オーディオの再生系においてスピーカーが主でアンプは従という関係は、
実のところスピーカーが従であり、アンプが主なのかもしれない──、
そんな見方もできなくはない。

そして、いまのスピーカーシステムは、
いまのパワーアンプ(定電圧駆動)でうまく鳴るようにつくられている。

そんなこと当然じゃないか、といわれるかもしれない。
でも、ほんとうに再生系においてスピーカーシステムが主であるならば、
主であるスピーカーシステムをうまく鳴らすようにつくられるのはアンプのほうであるべき、ともいえる。

このことは鶏卵前後論争に近いところがあって、
そう簡単にどちらが主でどちらが従といいきれることではない。

Date: 12月 24th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その28)

私はD130を、いまいくつかの形式のアンプで鳴らしてみたい、と考えている。

市販のほぼすべてのパワーアンプでそうであることからも、
現代のアンプとして一般的な形式で定電圧駆動をひとつの基準としたうえで、
あえてD130が生れたころと同時代のアンプで鳴らすということ、
それから定電流駆動という選択も当然考えている。

定電圧駆動と定電流駆動の中間あたりに属するアンプもおもしろいと思う。
トランジスターアンプでも出力インピーダンスが高めで、ダンピングファクターが低めのもの。
市販されているアンプではファーストワットのSIT1が、これに相当する。
出力インピーダンスが4Ωだから、16ΩのD130に対してはダンピングファクターは4になる。
真空管のOTLアンプも考えられるが、
年々夏が暑くなっているように感じられる昨今では、
あの熱量の多さを考えると、やや消極的になってしまう。

それからヤマハのAST1で聴いた負性インピーダンス駆動とバスレフ型の組合せがもたらした、あの低音の見事さ。
ASt1を聴いた時から考えているのが、負性インピーダンス駆動とバックロードホーン型の組合せである。

AST1において負性インピーダンス駆動をON/OFFすると、低音の表情は大きく変化する。
この音の変化を聴いている者には、負性インピーダンス駆動とバックロードホーンの組合せが気になって仕方がない。
必ずしも、うまくいくとは思っていない。
失敗の確率もけっこう高そうではあると思いつつも、一度は試しておきたいパワーアンプの形式である。

どれがD130+バックロードホーンに最適となるのかは、
他の要素も絡んでくることだからなんともいえないことはわかっている。
それでも、実際にこんなことを試していく過程で、
これまで見落してきたこと、忘れてきたことを再発見できる可能性を、そこに感じてもいる。

D130はもともと高能率で、それをバックロードホーンにおさめるのであれば、
パワーアンプにはそれほどの出力を求めなくてもすむ。
これは、いくつもの形式のアンプを試していく上でも大きなメリットになる。

Date: 12月 17th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その27)

JBLのD130は60年以上前に開発・設計されたスピーカーユニットであり、
その、いわば大昔のユニットを、これまた昔の主流であったバックロードホーンにいれる──、
いまどきのスピーカーシステムを志向される人からみれば、
いまさら、なにを……とあきれられることをやろうとしている。

D130とバックロードホーンの組合せで聴いている人は、
日本においては少数派ではないかもしれない。意外に多いようにも思っている。

でも、ずっと以前から、この組合せで聴いてきた人たちと、
いまごろD130とバックロードホーンの組合せで聴こう、とする私とでは、同じに語れないところもある。

このことは私だけのことでもないし、D130だけにあてはまることではない。
他のスピーカーでも、ほかの人の場合にでも、同じに語れないところがあるからこそ、
スピーカー選ぶことの難しさを感じ、それを面白い、とも思うわけだ。

ずっとずっとD130を鳴らしてきている人に対し、
私は「いいスピーカーを鳴らされていますね」と本音でいう。
そんな人はいないと思うけれど、私が書いたものを読んで、
JBLのD130に興味をもち、鳴らしてみようという人がいたら、
「やめたほうがいいかもしれません」と、やはりこちらも本音でいう。

スピーカーの真の価値は、そういうことによっても変化するものである。

つまり私にD130を鳴らしてきた、いわば歴史がない。
しかも、もう若くはない。
そういう歳になって、こういうスピーカーを鳴らそうとしているわけだから、
D130を鳴らすことにおいて、徹底してフリーでありたい、と思う。
特にパワーアンプの選択に関しては、それを貫きたい。

だからといって、なにも数多くの既製品のパワーアンプをD130で聴きたい、ということではない。

Date: 12月 5th, 2012
Cate: 4345, JBL, 瀬川冬樹

4345につながれていたのは(その4)

ステレオサウンド 61号の編集後記に、こうある。
     *
今にして想えば、逝去された日の明け方近く、ちょうど取材中だったJBL4345の組合せからえもいわれぬ音が流れ出した。この音が先生を彷彿とさせ、話題の中心となったのは自然な成り行きだろう。この取材が図らずもレクイエムになってしまったことは、偶然とはいえあまりにも不思議な符号であった。
     *
この取材とは、ステレオサウンド 61号とほぼ同時期に発刊された「コンポーネントステレオの世界 ’82」で、
井上先生による4345の組合せのことである。
この組合せが、この本の最初に出てくる記事にもなっている。

ここで井上先生は、アンプを2組選ばれている。
ひとつはマランツのSc1000とSm700のペア、もうひとつはクレルのPAM2とKSA100のペアである。

えもいわれぬ音が流れ出したのは、クレルのペアが4345に接がれたときだった、ときいている。

このときの音については、編集後記を書かれたSさんにも話をきいた。
そして井上先生にも直接きいている。
「ほんとうにいい音だったよ。」とどこかうれしそうな表情で語ってくれた。

もしかすると私の記憶違いの可能性もなきにしもあらずだが、
井上先生は、こうつけ加えられた。
「瀬川さんがいたのかもな」とも。

Date: 12月 1st, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その26)

私にとってJBLのD130というスピーカーは、異相の木だと書いた。
この異相の木を、自分の庭(環境)で鳴らしたい、それもそう遠くないうちに──と考えている。

私にとってJBLのD130は、つねにハークネスとともにある。
この異相の木を、どう鳴らしていくか、
平面バッフルに取り付けて、という手もあるけれど、やはりハークネスしかない。

なぜハークネスなのか、は何度か書いてきていることなので、ここでくり返しはしないが、
ハークネスにいれるユニットとして130Aもあるわけだが、
私にとってハークネスにはD130、D130にはハークネスで、これから先もずっと、
私がくたばるまで、これは変ることがない。

ハークネスはバックロードホーンである。CWホーンである。
D130をバックロードホーンで鳴らす。

基本的には私はワイドレンジ志向だから、D130だけで鳴らすことはどうしても高域の不足を感じてしまう。
なんらかのトゥイーターをもってくる必要があるわけだが、
075ではなく、LE175DLHをもってきたい。
075よりも175DLHのほうが、望む音が得られるという予感が、
175DLHの姿をながめていると感じられる。

基本的にはD130とL175DLHとの2ウェイで聴く。
それでも時には、D130をソロで鳴らしたい──、
きっとそう思うはずである。

だから2ウェイでもD130のソロ(つまりフルレンジ)でも、簡単に接続が切りかえられるようにはしておきたい。
それが異相の木としてD130を迎え、異相の木としてD130を聴くために、
私には必要なことだと、いまはおもえるからだ。

実はバックロードホーンという形式も、私にとっては異相の木的な存在に近く、
D130の異相の木としての性格を際立たせるために、より濃くしていくためにも不可欠の要素といえよう。

Date: 11月 28th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その25)

スピーカーのネットワークの並列型と直列型で、
もしこんなことが試されるのであれば──と思っていることがある。

アルテックの同軸型604とタンノイの同軸型を、それぞれ直列型、並列型のネットワークで鳴らしてみる、
ということである。
アルテックもタンノイも15インチ口径の同軸型ユニットを長年つくり続けてきている(いた)。
共通するところもあれば、そうでないところもあるアメリカとイギリスの同軸型ユニットである。

アルテックは低域用と高域用のマグネットを独立させている。
ただし磁気回路の一部は兼用しているので、磁気回路すべてが独立しているわけではない。
タンノイは、マグネットを独立させている同軸型ユニットも存在しているが、
このマグネット独立型のユニットが使われるのは、
同軸型ユニットにウーファーなりトゥイーターをつけ足してワイドレンジ化を図ったモデルであり、
同軸型ユニットのみを搭載したモデルに関しては、一貫してマグネット兼用型のユニットとなっている。
ここにタンノイの見識があらわれている、ともいえよう。

そんな違いのあるふたつの同軸型ユニットを、
直列型ネットワーク、並列型ネットワークで鳴らしてみると、どういう結果になるのか。

マグネットの独立と呼応するように、アルテックは並列型、タンノイは直列型が向いていることになるのか、
意外にもアルテックに直列型に向いていて、タンノイには並列型向いている、という結果になるかもしれない。

これは完全な推測にすぎないのだが、
並列型のネットワークのほうが、いわゆる音の分離、明瞭度は高く、
音の細部の表現においては直列型の上をいくのかもしれないが、
音のまとまり、ハーモニーの美しさ、それに音像のしっかりした感じなどは直列型のほうが優位なのでは……、
そんなふうに想像している。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その9)

ほんとうのところは、まだまだスピーカーとアンプの関係性について書いていきたいのだが、
そうするといつまでも本題である「瀬川冬樹氏とスピーカーのこと」に移れなくなるのでこのへんにしておく。
けれど、スピーカーのアンプの関係性については書きたいことだけでなく、
考えていきたいとも思っているので、項を改めて書く予定ではある(といってもいつになるかは……)。

なぜ少しばかりの脱線とはいえないくらいアンプのことを書いてきたのは、
瀬川先生が最後に鳴らされていたJBLの4345から、
もしいまも存命だったら絶対に鳴らされているはずのジャーマン・フィジックスのDDD型ユニットまで、
いったいどのスピーカーを鳴らされていたのかを考えていくのに、
スピーカーのことだけを考えていては、答に近づけないと思うからである。

リスニングルームの条件も考慮しないといけない。
瀬川先生が砧に建てられた家から移られたのは目黒のマンションである。
ここは決して広いとはいえないスペースだった、と聞いている。
そこに4345を置かれていた。

1981年以降、瀬川先生はどの程度のリスニングルームのスペースを確保されただろうか……。
そういうことも勘案していく必要がある。

それにアンプのこともある。

1981年の初夏にステレオサウンドから出たセパレートアンプの別冊の巻頭に掲載されている文章、
いま、いい音のアンプがほしい」を読んでいくと、
瀬川先生が求められている音にも変化があり、
マークレビンソンのアンプの音にも変化があり、
このふたつの音の変化は同じところを向っていないことが感じとれる。

瀬川先生は、アンプは何を選ばれただろうか──、
このことも考えていかなければ、スピーカーに何を選ばれたのかについての確度の高い推察はまず無理であろう。

このスピーカーとアンプの関係性からみていくときに、
この項の(その2)で書いているアルテック620Bとマイケルソン&オースチンのTVA1の組合せ、
それにずっと以前の、604Eをおさめた612AとマッキントッシュのC22とMC275との組合せ、
このふたつの組合せのもつ意味を考えていく必要がある、と私はそう確信している。

Date: 11月 26th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その8)

D40は、ステレオサウンド 44号の新製品紹介のページで登場している。
井上先生と山中先生が試聴されていて、次のようなことが語られている。
     *
井上 この場合は、スペンドールのスピーカーを鳴らした場合には、という条件つきでないとこのアンプの本来の姿を見失ってしまいますね。ある一つのスピーカーを鳴らすことに的を絞ってアンプを開発した場合は、特別な回路構成をとらないでも、コントロール機能を必要なものに簡略化してしまっても、スピーカーを含めたトータルな再生音のクォリティは非常に高い水準に持っていけるという好例として注目できます。
     *
私はD40を他のスピーカーで聴く機会はなかった。
でも、聴いたことのある人の話では、BCIIと同系統のスピーカーではよかったけれど、
そうでないスピーカーとの組合せでは、精彩を欠いてしまう、と。

そうだと思う。
一般的なアンプの常識では、優秀なアンプとは考えられない。
D40の音は、不思議にいい音であって、その意味では優秀なアンプとは言い難い。
なのに優秀なアンプで鳴らしたBCIIよりも、BCIIの魅力を抽き出し弱いところをうまく補うアンプはない。

もうすこし引用しておく。
     *
山中 このアンプでスペンドールのスピーカーを鳴らしてみますと、他のアンプで聴いたときの印象と違って、かなり中音域が充実して聴こえます。
井上 そうなんですね。以前にいろいろなアンプで聴いたスペンドールのスピーカーの音は、大変バランスがいいといってもやや中域がエネルギー的に不足している部分に感じられたのです。またそれがデリケートで微妙なニュアンスの再現性に優れた、特有の音色と結びついていたともいえるのですが場合によっては神経質な音といった感じに聴こえてしまうこともありました。このD40で鳴らすとその辺をうまく補って、中域にある種のエネルギー感がついて、全体的な音のまろやかさ、余裕といったものが出てくるようです。
山中 もちろん中域のエネルギー感が加わったといっても大変元気な音になったというわけではないですね。スペンドール独得のひめやかな、雰囲気のある音はやはりベースになっています。
     *
D40は優秀なアンプではないし、アンプの理想像に近いわけでもない。
それでもアンプは単体でなにかをするものではない。スピーカーを鳴らしてこそアンプの存在があり、
つねにスピーカーとの関係において語っていくものとしたら、
スペンドールのスピーカーシステムとD40の関係は、
スピーカーとアンプの関係のひとつの理想に近いものといえるところがある。

Date: 11月 25th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その7)

スペンドールのD40は、
スペンドールの設立者であるスペンサー・ヒューズの息子、デレク・ヒューズの設計となっている。

スペンドールのスピーカーシステムの型番は、
たとえばBCシリーズは、
ウーファーの振動板のベクストレンとトゥイーターに採用されているセレッションを表しているし、
小型のSA1は、
自社製のウーファーとフランス・オーダックス製のトゥイーターを採用していることからつけられている。

そういう型番のつけ方をしているスペンドールだから、
D40のDは、デレク・ヒューズの設計を表している、と考えていいはず。

D40はコンパクトなプリメインアンプで、
機能も最小限度のものしかついていない。
入力セレクター、バランサー、レベルコントロールだけ。
外形寸法はW33.2×H9.6×D22.3cm、重量は6kg。
出力は型番からわかるように40W+40W。

回路についての技術的な説明はなにもない。

D40についての製品解説をしようと思っても、あまり書くことが見当たらない、
そういうプリメインアンプである。

けれど、このD40は、スペンドールのスピーカーシステムと組み合わせたとき、
なぜ、こんなつくりのアンプなのに、と思いたくなるほどの音を聴かせてくれる。

私はいちどだけBCIIとの組合せで聴いたことがある。
D40よりも物量を投入したプリメインアンプ、セパレートアンプのいくつかでBCIIを聴いたことはある。
そのどれよりも、D40で鳴らしたときに、BCIIは、こういう音も鳴らせるのか、という驚きがあった。

Date: 11月 24th, 2012
Cate: D44000 Paragon, JBL, 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏とスピーカーのこと(その6)

300Bのアンプのことについては何度か書いてきている。
そのたびに、具体的な300Bのアンプについて書けないもどかしさを感じている。
市販品でなんとかおすすめできる300Bアンプがあれば、そのアンプを例にとって話をしていけるのに……、
というもどかしさがある。

300Bという真空管の名称は、真空管にさほど興味のない方でも、
いちど聞いたことのある、そういう誰もが名前だけは知っている真空管である。
なのに、そのもっとも有名な真空管を使ったアンプの音について、
なんらかの共通認識があるのかといえば、ないとしかいいようがない。

ウェスターン・エレクトリックの、ほんとうの300Bは格別の球であることは断言できる。
だからといって、ほんとうの300Bを出力段に使ったからといって、
それだけでどんなアンプでも、格段の音になるわけではない。

それでも300Bのアンプということが語られ謳われ、私も300Bのシングルアンプという表現を使う。
けれど、それは、おそらくみな違う音のことでもある。
伊藤アンプにかわる標準原器ともいえる300Bのアンプが登場してほしい、と、
300Bという言葉を、ここで書く度に思っている。

300Bのシングルアンプよりも、まだ多くの人が聴いているアンプ、
それも市販されたことのあるアンプで思い出したのがひとつある。
スペンドールのプリメインアンプのD40である。

同じイギリスのスピーカーメーカーであるロジャースのアンプは知っているけれど、
スペンドールもアンプを作っていたの? と思われる方は少なくないだろう。
D40も決して多く売れたアンプではない。

でもスピーカーとパワーアンプの関係について、
パワーアンプに求められる姿について考えていくうえで、
D40はもっとも好適である。