Archive for category アナログディスク再生

Date: 6月 27th, 2020
Cate: アナログディスク再生

トーンアームに関するいくつかのこと(その8)

片持ちは、オーディオ機器のいたるところにある。
たとえばスピーカーシステムであれば、バスレフポートがそうである。
とうぜんポート長がながくなればなるほど、片持ちの影響は大きく音にあらわれることになる。

それにスピーカーユニットそのものも片持ちといえば、そういえる。
特に奥行きの長いユニットほど、片持ちの影響は、ここでもはっきりとあらわれてる。

ホーン型のユニットは、コンプレッションドライバーの重量のため、
後側が重たくなっている。

JBLの4343の中高域ユニットは2420。
フロントバッフルにホーンの一端が固定され、反対側に2420という重量物がくる。
重量バランスはかなり悪い。

その重たい後部が、いわばフリーの状態である。
4343の後継機の4344では、ホーンの後部(ドライバー側)に金属板をとりつけ、
この金属板がエンクロージュアの天板に固定されることで、片持ちの影響を抑えている。

それから同軸型ユニットも片持ち的といえるユニットである。
同口径のコーン型ユニットよりも、中高域がホーン型の同軸型ユニットは、
奥行きの長いユニットになってしまう。

アルテックの604もそうだし、タンノイの一連の同軸型ユニットがそうだ。
これらのユニットをきちんと鳴らそうと考えるのであれば、
ユニット後部をどう支えるかも考えていくことになる。

こまかいことをいえば、ここで注意をはらう必要があるのは、
上記の二例の場合、フロントバッフルでも固定されている、ということである。

エンクロージュアという箱が、完全な無共振・無振動であれば問題はないのだが、
現実にはそんなことは無理である。

さまざまなことろが共振し振動している。
その振動の位相が各部同じであることはまずない。

フロントバッフルと後部とを固定した場合、
二つの固定点の位相はどういう関係にあるのか。

Date: 5月 25th, 2020
Cate: アナログディスク再生

歴史はくり返す(?)

ステレオサウンド 58号掲載の、
行方洋一氏の「東芝EMIのアドレス・レコードを聴く」から、少し引用したい。
     *
 さてレコード制作上で、重要な音質上のファクターとなるカッティング・マシーンに目を向けてみよう。現在の新らしいタイプのカッティング・マシーンは、メカをコントロールするコンピューター内蔵なのである。ミゾぎれやキッティング(ミゾとミゾがクロスしてしまうこと)が、このコンピューターによってサーボされるのである。むかしはカッティング・マンの職人的な感覚によって作られていたレコードのカッティングも、だいぶ変化してきているわけだ。カッティング・ヘッドをドライブするドライブアンプも、ハイパワーになり、カッター自体もハイパワー入力に充分たえられるようになったため、かつてのレコードにくらべて、カッティング・レベルも5dBや8dBは軽くレベル・アップされているのである。
 レベルの話で想い出すのだが、私は弘田三枝子の「ビー・マイ・ベイビー」というシングル盤で、大チョンボをやったことがある。この曲のイントロで、バス・ドラムがリズムをきざんでいたのであるが、その時代の再生機器は、さっきもいったようにたいへんクォリティが低かった。にもかかわらず、レベルをその時代ノーマル・レベルより、2dBほど上げてカッティングを行なって、このシングル盤を発売してしまったのである。発売して1週間ほどのあいだに、会社にはクレームの電話や返品が山ほど入ってしまった。というのは、イントロのバス・ドラムのアタックで、針がとんでしまうのである。2小節あるリズムパターンの、頭の小節の1拍目で、針が6小節ほど先にとんでしまうのである。
 レコードというのは、いつの時代でもユーザーの再生装置の水準をよく考えて、制作しなければならないのだという教訓を、実感させられたエピソードであった。このシングル盤は、最近の再生システムではビクともしないのだから、くやしい話だ。
     *
58号は1981年春号である。
約40年前のことを思い出したのは、facebookでの投稿を読んだからだ。

サニーデイ・サービスというバンドが、「いいね!」というアルバムをLPでも出した。
アナログディスク用のマスタリング、カッティングを何度か行い、
納得のいく仕上がりになった、とのこと。

けれど、そのアナログディスクを購入した人から、特定の箇所で針飛びするという指摘が、
何件かあったとのこと。

「いいね!」のアナログディスクのプレス工場で、
一般的なアナログプレーヤーと安価なプレーヤーとで検品して出荷したにもかかわらず、
ということでもある。

詳しいことはサニーデイ・サービスの曽我部恵一氏のtwitterで読める。

行方洋一氏の大チョンボとなった弘田三枝子の「ビー・マイ・ベイビー」は、
1960年代前半のころの話である。もう60年近い昔の話である。

にもかかわらず、同じことを2020年のいま起きている。

針飛びがするというプレーヤーでも、チェックしたところ、
問題なくトレースした、とのこと。

そのプレーヤーがどの程度のモノなのかは、はっきりとしないが、
再現してのチェックで、気温はチェック項目にあったのだろうか、とも思う。

アナログディスクは、行方洋一氏が書かれているように、
いつの時代でもユーザーの再生装置の水準をよく考えて、制作しなければならないだけでなく、
ユーザーの水準をよく考えて、制作しなければならないわけでもある。

Date: 4月 25th, 2020
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その35)

SMEのロバートソン・アイクマンが、
《ソニーの電子制御アーム。これも私にとって興味をいだかずにはいられないものでした》
と語ったことが載っているステレオサウンドのオーディオフェアの別冊でのインタヴューでは、
もう一人、KEFのレイモンド・クックが、電子制御のトーンアームについて語っている。

クックは、1979年のオーディオフェアで興味のあったことの第一は、
スピーカーエンジニアということもあってだろうが、日本のオーディオメーカー各社から、
平面振動板のスピーカーが登場したことを挙げている。

第二が、電子制御のトーンアームである。
《ついに現われたかという感じなんですが、一方ではPCMディスクでしょう。この関係が今後どうなるのか、電子制御アームは今となってはおそすぎたのか、これは興味のあるところですね》
と語っている。

「ついに現われたか」ということは、
クックは、以前からトーンアームには電子制御が必要かどうかではなく、
電子制御のトーンアームの可能性を考えていた、ということなのか。

まったく考えていなかった者が「ついに現われたか」とはいわないだろう。
クックが、どういう電子制御のトーンアームを考えていたのか、
それはある程度具体的なことだったのか、
それとも漠然と電子制御のトーンアームを想像していただけなのか、
いまとなってはわからないが、妄想をふくらませるならば、
クックは、スピーカーの電子制御を考えていたのか。

もし考えていたとしたら、一般的なMFBとは違う電子制御だったのか。

Date: 3月 15th, 2020
Cate: アナログディスク再生

トーンアームに関するいくつかのこと(その7)

マカラはメカニズムを専門とするメーカーがつくりあげたプレーヤーシステムである。
マカラの人たちは、片持ちが音にどういう影響を与えるのか、
そのことを知っていたのかどうかはわからない。

それでもメカニズムの専門家として、片持ちの製品を世の中に送り出すことはしなかった。
マカラのプレーヤーシステム4842は、いまから四十年前に登場している。

なのに現在のプレーヤーHolboが片持ちのまま製品化している。
片持ちのままのプレーヤーを、製品と呼んでいいのか、という問題はここでは語らないが、
なぜ片持ちのままなのか。

メーカーの開発者に訊くしかないのだが、
おそらくトーンアームの高さ調整との関係ではないのか、と推測できる。

片持のリニアトラッキングアームであれば、
弧を描く通常のトーンアームと同様の機構で、
トーンアームの高さを調整できる。

けれどベアリングシャフトと呼ばれているシルバーの太いパイプを両端で支えたとしよう。
この構造で、高さ調整をすると、調整箇所が二箇所になる。

エアーベアリング型のアームにとって、
ベアリングシャフトの水平がきちんとでていなければ動作に支障がでる。

片持ならば、調整箇所は一箇所で、
基本的にはプレーヤー全体の水平が確保されていれば、
ベアリングシャフトも水平ということになるし、
高さを変更しても水平は維持できている(はずだ)。

ところが高さ調整の箇所が両端二箇所ともなると、
プレーヤー全体の水平は出ていても、
ベアリングシャフトの水平は、二箇所をきちんと調整する必要がある。

いいかげんな調整では水平が微妙に狂ってしまう。
その点を防ぐには片持ち構造が、いちばん楽な方法である。

Date: 3月 15th, 2020
Cate: アナログディスク再生

トーンアームに関するいくつかのこと(その6)

ホルボのHolboというアナログプレーヤーを、
片持ちの代表例として取り上げたのには、一つだけ理由がある。

Holboは、プレーヤーシステムであるからだ。
トーンアーム単体ならば、他の例といっしょに取り上げただろうが、
くり返すが、Holboはプレーヤーシステムである。

プレーヤーシステムであるならば、
この手のエアーベアリング方式のリニアトラッキングアームの片持ちは、
メーカーが気付いているのであれば、なんとかできるからだ。

1980年第後半、アメリカからリニアトラッキングアーム単体がいくつか登場した。
それらのなかには、Holboに搭載されたトーンアームとよく似たモノがあった。

でも、それらのリニアトラッキングアームは、
既存のアームレスプレーヤーに取り付けなければならない。

取り付けのためのアームベースは、メーカーによって違ってくるが、
多くのモノは、弧を描く一般的なトーンアーム用のスペースしか想定していない。

その限られたスペースに、リニアトラッキングアームという、
別の動きをするトーンアームを取り付けなければならない。
そのために片持ちにならざるをえなかった面もあるとはいえる。
それでも工夫はできたはずだが。

エアーベアリング方式で、リニアトラッキングアームといえば、
日本のマカラが最初のモデルのはずだ。

余談だが、
1979年のオーディオフェアで発表されていたフィデリティ・リサーチのプレーヤーは、
プロトタイプであったが、このマカラをベースにしていた。

マカラのリニアトラッキングアームも、一見すると片持ちのようにみえるが、
片持ちになっていると思われる側は、下部からの支柱があるのがわかる。

Date: 3月 12th, 2020
Cate: アナログディスク再生

トーンアームに関するいくつかのこと(その5)

B&Wの805Dのトゥイーター後方の角の先端を支えるといっても、
テンションを与えるような支え方はすすめない。

どういう素材を使うのか、どの程度の支え方にするのかによっても音は違ってくる。
が、それでも支えない状態の音と支えた状態の音の違いは、
一度、その違いを聴いてしまうと無視できないほどである。

Nautilusの場合、そのアピアランスを損ねることなく、
三本の角の先端を支えるというのは、なかなか難しいことになるだろう。

ああしてみたら、とか、こうしてみたら、と二、三、その方法を考えてはいるけれど、
試すことはまずない。それでもNautilusの音を極限まで抽き出したいのであれば、
その使い手は、なんらかの方法を考えた方がいい。

その意味で、Nautilusの開発に携わっていた人たちは、
片持ちの弊害をわかっていたはずである。

ビビッド・オーディオのGIYAシリーズをみれば、明らかだ。
GIYAを最初にみたとき、こういう処理の仕方もあるな、と感心したものだ。

もっもとB&WのNautilusの場合、
三本の片持ちの影響をすべてひっくるめてのNautilusである、
と捉えるべき考え方もできる。

どう捉えるかは、Nautilusの使い手自身が判断することだ。

Date: 3月 12th, 2020
Cate: アナログディスク再生

トーンアームに関するいくつかのこと(その4)

アナログプレーヤー関係ではないが、
片持ちの代表的例、もっといえば片持ちのキングといえるオーディオ機器は、
やはりB&WのNautilusだ。

ウーファーをのぞく上三つの帯域のユニットの後部は、
消音構造のために、角のように伸びている。

この角は、先端が片持である。
これだけ長い片持ちのオーディオ機器は、これ以前にはなかったし、
Nautilus以降もない。
しかも三本の片持ちである。

Nautilusの、この三本の角の先端を、適切な方法で片持ちではないようにしたら、
どれだけ音が変化することだろう。

Nautilusでは試したことはないが、
B&Wの小型2ウェイの805Dでやったことはある。

805Dのトゥイーターの後方にのびる角は、さほど長くない。
それでも先端の下に支えをかましてやる──、
たったこれだけのことなのに、音は大きく変化する。

その時は、数人で聴いていた。
ギターのディスクがかかっていた。

アクースティックギターなのに、エレクトリックギターのように鳴っていた。
それが、ほんのちょっと角の先端を支えただけで、
アクースティックギターの響きに変っていった。

私の隣で聴いていた人は、高校時代にギター部にいた人で、
彼も片持ちのままの805Dのギターの音には首を傾げていたが、
私が手を加えたあとの805Dの音を聴いて、納得していた。

Date: 3月 1st, 2020
Cate: アナログディスク再生

トーンアームに関するいくつかのこと(その3)

ホルボのHolboというアナログプレーヤーがある。

昨年登場し、ステレオサウンドでも取り上げられているし、
ステレオサウンドのウェブサイトでも、確か二回記事が載っている。

最近発売されたということで、ここで取り上げているが、
リニアトラッキングアームの片持ちという問題点は、
なにもこのHolboだけでなく、ほかの多くの同種のトーンアームについてもいえることである。

なので、輸入元ブライトーンのHolboのページにある写真を見てほしい。
とにかく写真だけでいいから見てもらえれば、どこが片持ちなのか、
誰にでもすぐにわかることだ。

ベアリングシャフトと呼ばれているシルバーの太いパイプがある。
ここが片持になっている。

このパイプは、水平移動するトーンアームにとって、いわばレールにあたる。
ここをなぜ片持ちのままにしておくのか、
片持ちのままでも問題がない、とでもメーカーは思っているのか、
さらにいえば輸入元も、これで十分と思っているのか、
この種のトーンアームを含むプレーヤーシステムを評価しているオーディオ評論家は、
オーディオ評論家(職能家)といえるのだろうか、
そんなことを見るたびに思ってしまう。

こんな疑問を投げ掛ければ、
メーカーも輸入元も、さらにはオーディオ評論家と呼ばれている人たちも、
パイプの径が十分に太くて、材質も吟味されているから、
必要な剛性は確保できている──、と答えるであろう。

ほんとうにそうおもって、そう答えるのであれば、
もうなにをかいわんや、としかいいようがない。

Date: 2月 29th, 2020
Cate: アナログディスク再生

トーンアームに関するいくつかのこと(その2)

トーンアームには片持ちの部品が他にもある。
アームリフターの操作レバーも片持である。

昨晩(その1)へのコメントが、facebookであった。
海外のフォーラムにあったフィデリティ・リサーチのFR64Sの使いこなしに関するものだった。

コメントをくださった方がGoogle翻訳をベースに手直ししてくれものだった。
そこにはトーンアームの構造上、
アナログディスク再生に必要ない部品はすべて取り外した、とある。

具体的にはアームレスト、アームリフターである。
同じことをやっている人が海外にもいるんだな、と思いながら読んでいた。

アームレストにしてもアームリフターにしても、
取り外してしまえるのならば外してしまったほうが、
雑共振の元を減らすという意味でもより効果的である。

片持ちということではヘッドシェルの指かけもそうである。
指かけの多くは外せる。
外した音を、一度聴いてほしい。
(もちろん外した場合、針圧の再調整は必要になる。)

他にも片持ちのところはある。
インサイドフォースキャンセラーに関するところだ。

ここは再生上必要になるので取り外してしまえ、と乱暴なことはいわないが、
影響を与えていることは間違いない。

そしてトーンアームの後部、
つまりメインウェイトが挿し込まれているシャフトも片持である。

基本片持ちになっている箇所は、雑共振という視点からは疑った方がいい。

そしてトーンアームで一番の片持ちはなにかといえば、
メインウェイト用のシャフトではなく、
リニアトラッキングアームに存在している。

Date: 2月 28th, 2020
Cate: アナログディスク再生

トーンアームに関するいくつかのこと(その1)

トーンアームの新製品が、いまの時代でも、というよりも、
いまの時代だからこそ出ている、といったほうがいいのか、
とにかく新製品が日本からも海外からも登場している。

いまでは単体トーンアームは、かなり高価である。
高価になってしまう理由もわからないではないが、
それにしても……、と思うところがある。

アームレストである。
単体トーンアームであれば、アームレストがある。

プレーヤーシステムとしてのトーンアームであれば、
アームレストはキャビネットに立てられていることがほとんどだ。

けれど単体トーンアームではそうはいかないから、
片持ち構造のアームレストがある。

さらにアームレストにパイプを固定するためには、
なんらかの部品がそこにはついている。

このアームレストが、音質上好ましくない存在である。
必要なアームレストであるわけだが、
音楽を聞いているとき、
つまりカートリッジがレコードの音溝をトレースしているとき、
アームレストはフリーな状態(アームを固定していない)である。

片持ち構造のアームレストは、この時振動している。
その振動は音質に影響をもたらしている。

どのトーンアームなのかは書かないが、
ずっと以前、アームレストにいくつか細工をしたことがある。
簡単にできることだが、見た目はひどくなる。

あくまでも実験的に行ったことだが、
アームレストになんらかの対策を施せば、
アームレストがどれだけ音に影響を与えているかが、音で確認できる。

アームレストの影響をなくすには、根元からポキッと折ってしまうことだろう。
そんなことをすれば、トーンアームは固定されず、カートリッジの破損につながる。

アームレストに関しては、
あまり注意を払っていないモデルが、高価なモノでもけっこう、というか、
そうとうに多い。

ここまでの価格にするのであれば、
アームレストに対して、そうとうに注意を払うべきだ。

Date: 2月 28th, 2020
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その34)

日本のオーディオの歴史をふりかえれば、
日本のメーカーのトーンアームはSMEのコピー(モノマネ)から始まった、といえる。

ほぼ日本だけの規格ともいえるところがあるヘッドシェルのコネクターも、
まさにそうだ。
このコネクターの採用により、カートリッジの交換が容易になり、
カートリッジを、レコードに応じて、音楽に応じて、ときには気分に応じて交換する──、
そういう楽しみ方が日本のオーディオマニアではごくあたりまえのことになっていた。

もちろんずっとSMEのトーンアームのコピーのままだったわけではないが、
SMEのトーンアームが日本のメーカーに与えた影響はそうとうに大きいものであった。

だからこそ日本のオーディオメーカーに、
日本独自といえる電子制御のトーンアームを、
完成形といえるレベルまで開発を継続してほしかった。

事実、(その5)でもふれているように、
SMEのロバートソン・アイクマンは1979年のオーディオフェアに来日して、
《ソニーの電子制御アーム。これも私にとって興味をいだかずにはいられないものでした》
と、ステレオサウンドのオーディオフェアの別冊でのインタヴューで語っている。

そのソニーの電子制御トーンアームは、洗練はされていなかった。
当時、広告や記事での写真を見てもカッコイイとは感じなかった。
いま見ても、そのへんの印象は変らない。

まだまだ登場したばかりの形という感じだった。

十年。
1990年ごろまで、日本のオーディオメーカー各社が、
電子制御トーンアームに積極的に取り組んでいれば、
そのカタチも洗練されていったはずだ。

そうなっていれば、日本独自の素晴らしいトーンアームが生れていたかもしれない。

Date: 2月 27th, 2020
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その33)

CDの登場が1982年ではなく、
1987年、五年遅れで登場していたら──、と妄想することがある。

ビクターやソニー、デンオンがてがけていた電子制御トーンアームは、
かなり進歩した性能になっていたのではないだろうか。

テクニクスも電子制御トーンアームを出してきた可能性も考えられる。
ヤマハもリニアトラッキング式に積極的だったから、
電子制御トーンアームの開発に取り組んだかもしれない。

CDの登場も、アナログディスク再生技術の進歩ということを考えると、
早かった、といっていい。
それにCDの普及も勢いがあった。

もう少しゆっくり普及していっていれば、
アナログディスク再生もおもしろい技術が出ていたであろう。

その分、CDの技術も進んでいったといえるのだから、
こんなことをいってもしかたないことだし、
誰かがどうにかできたことでもないだろう。

昨年、SAECのトーンアームのWE407/23が、WE4700として復活した。
最新の加工技術によって、WE407/23各部の精度を高めている、という。

それにWE407/23が販売されていたころと、いまとでは売れる台数に大きな開きがある。
それゆえ高価になるのはわかる。

でも、実際の価格をみると、ここまで高くなってしまうのか、と驚きもある。
他社のトーンアームも、そうとうに高価なモノがあるから、WE4700だけが飛び抜けて高価ともいえない。

だからよけいに、電子制御のトーンアームが、あの時代、もう少し進歩を遂げていたら、
現代の先端技術をうまく利用して、いまの時代に高性能に復活できたのではないだろうか。

Date: 12月 1st, 2019
Cate: アナログディスク再生

アナログディスクの自作(補足)

facebookでコメントがあり、
カッティングマシンを中心としたブログのURLがあった。

YAMADAN DISK RECORDINGS BLOGで、
2016年の「レコードカッティングマシンのこと(国産)」へのリンクであった。

このブログに掲載されている機種のなかで、ディスクルが、
私の記憶の中にあるモノとよく似ている。
たぶん、これであろう。

ソノシート用ではなかったが、モノーラル専用である。
価格もわかった。

そうなのだ、当時としてはかなり高額だった。
高校生には、ちょっと無理な価格だった。

上記ブログは、ディスクル以外のモデルも紹介されている。

Date: 12月 1st, 2019
Cate: アナログディスク再生

アナログディスクの自作

Phonocutという機械が、SNSで話題になっている。
WIREDが『アナログ盤を自作できるマシンが、まったく新しい「レコードの時代」の到来を告げる
という記事を公開している。

記事には、こうある。
《「Phonocut」は、家庭用としては初のアナログレコードのカッティングマシンだ》

WIREDの記事を書いている人は、私よりもかなり若い世代なのだろうか。
記事の内容そのものについての批判ではなく、
ただ上に引用した箇所について、ちょっと補足したいだけである。

Phonocutが家庭用としては初のカッティングマシンではない、ということだ。
私が高校生のころに、すでにあった。

オーディオメーカーから出ていたわけではなかった。
全国紙の広告に載っていた。
メーカー名は、もう40年ほど前のことで忘れてしまった。

Phonocutは10インチ盤だが、私が新聞広告で見た機械は、シングル盤専用だったと記憶している。

当時の新聞のモノクロの広告だから、写真も鮮明ではなかった。
技術的な説明がきちんと載っていたわけでもなかった。
ソノシート用だったのかもしれないが、
少なくともカッティングマシン、それも家庭用のそれであったことは間違いない。

これが家庭用として初のカッティングマシンだったのかどうかもわからない。
40年ほど前に、すでにそういう機械は日本にはあった、という事実だ。

Date: 10月 27th, 2019
Cate: アナログディスク再生

ダイレクトドライヴへの疑問(その38)

私が高校生のころ使っていたダイレクトドライヴ型は、
国産の普及クラスの製品で、私にとって、初めてのダイレクトドライヴ型でもあった。

ある日、ターンテーブルプラッターを外して、モーターを廻してみたら、
センタースピンドルが、カクカクした感じで回転している。
いわゆるコギングである。

スムーズに回転しているものだとばかり思っていたから、
このコギングは、かなり衝撃的だった。

ターンテーブルプラッターの慣性を利用して、
結果としてはスムーズに回転している、という説明をその後すぐに知ったけれど、
肝心の回転が、こんなにカクカクしていて、ほんとうに問題ないのか。

それになぜ、センタースピンドルでターンテーブルプラッターに回転を伝えているのかも、
これまで書いてきているように、非効率のように思えた。

この普及クラスのダイレクトドライヴ型プレーヤーのせいで、
私のダイレクトドライヴ型に対する不信感は、一拠に大きくなった。

パイオニアのPL30、50、70、
それにExclusive P3が登場する前のことだ。

パイオニアが、このころ採用したSHR(Stable Hanging Rotor)方式の解説図、
これを見てダイレクトドライヴ型のすべてがセンタードライヴでないことに気づいた。

SHR方式を理解しようとして、まずつまずいたのが、
ダイレクトドライヴ・イコール・センタードライヴという思い込みだった。

それでどうやってSHR方式を実現できるのだろうか、とけっこう考えたものだった。
カタログに載っていた図を見て、なんだぁ、と気づいたわけだが、
おかげでセンタードライヴではないダイレクトドライヴ型に気づけた。