私にとってアナログディスク再生とは(SME 3012-R Special・その5)
いま別項で「純度と熟度」について書いている。
そこで触れている高い純度と高い熟度のバランス、
これを実現している(私がそう思っているだけにしても)モデルは、
そう多くはない。
SME 3012-R Specialは、唯一の例とまではいわないものの、
数少ないモデルの一つである。
なぜ、そうなのかを説明はしない。
3012-R Specialを、きちんと使ったことのある人ならば、
納得されるはず。
いま別項で「純度と熟度」について書いている。
そこで触れている高い純度と高い熟度のバランス、
これを実現している(私がそう思っているだけにしても)モデルは、
そう多くはない。
SME 3012-R Specialは、唯一の例とまではいわないものの、
数少ないモデルの一つである。
なぜ、そうなのかを説明はしない。
3012-R Specialを、きちんと使ったことのある人ならば、
納得されるはず。
自転車(ロードバイク)のフロントフォークも、
いまやストレートフォークばかりになっている。
ストレートフォークを最初に採用したのは、
イタリアのコルナゴのはず。
1990年代の半ばごろから登場してきた、と記憶している。
ストレートフォークが登場したばかりのころ、あんまり美しくないなぁ、と思っていた。
それまでのロードバイクのスタイルとのあいだに違和感を覚えていた。
なんだろう、この違和感は……、と、
なぜそう感じるのだろうか、
とあれこれ考えていた時期があった。
従来の、先端がカーヴしているベンドフォークは、
いまでは限られたモデルのみである。
いまではストレートフォークであっても、登場まもないころの違和感は、ほとんど感じなくなった。
こちら側が慣れてしまっただけなのかそう思うことはない。
ベンドフォークのロードバイクを見ると、
やっぱりベンドフォークだ、と思うからだ。
ストレートフォークのロードバイクは、乗ったことがない。
乗れば、やっぱりストレートフォークだな、と、
ころっと変ってしまうかもしれないが、
そうなったとしても、ベンドフォークは美しい。
このことにかわりはない。
プロの自転車乗りならば、勝利が求められているのだから、
どちらが美しい、とかは関係ない。
勝てる機材としてのロードバイクであって、
そのためのストレートフォークなのだろう。
細身のベンドフォークと3012-R Special。
決して懐古趣味からそう感じるわけではない。
トーンアームのパイプの形状は、
私がオーディオに興味を持ち始めた1976年は、S字型かJ字型が大半だった。
ストレート型もいくつかあったけれど、少数派だった。
ストレートパイプが増えてきたのは、1980年代に入ってからだろう。
しばらくしてピュアストレート型が提唱されるようになってきた。
オフセット角は不必要というもので、
それまでのストレート型はヘッドシェル部に角度がついていたが、
ピュアストレート型はヘッドシェルまで直線になっている。
ピュアストレート型の優位性を、理論的に説明する人もいる。
それはそれで納得できるところも多い。
それでも、でもね……、と思うの私だ。
トーンアームは、ピュアストレート型でないほうがいい。
いい、というのは、好きだ、という意味、
さらには美しいという意味で書いている。
SMEの3012-R Specialが盤面をトレースする姿をみていると、
この長さ、そして形があってこそ、と思う。
レコードを聴いているとき、盤面をじーっと眺めているわけではない。
目に入るのは、カートリッジを盤面に降ろすときとあげるときぐらいであっても、
美しいと感じられる形であってほしい。
そんなことよりも、音のほうが重要だろう、といわれるのはわかっている。
それでも──、である。
SMEのトーンアームなら、
3012-R Specialよりもひとつ前のモデル、
3012 Series IIのほうが優秀という声があるのは知っている。
3012-R Specialは妥協のトーンアームだという人がいるのも知っている。
私は3012 Series IIは使ったことがない。
3012-R Specialよりも優秀なのかもしれない──、と思いつつも、
トーンアームとしての完成度の高さでみたら、やはり3012-R Specialだと私は思っている。
特にユニバーサルトーンアームとしての完成度は、3012-R Specialが上だと言い切る。
SMEのトーンアームとしての特徴であるナイフエッジ。
構造的にもラテラルバランスがきちんととれていて、その性能(感度)を発揮する。
3012-R Specialはラテラルバランスがとりやすい。
カートリッジをつけ替えて、ゼロバランスをとり、ラテラルバランスをとり、針圧をかける。
それからトーンアームの高さやインサイドフォースキャンセラーを調整する。
これらを手早くきちんとやれるのか。
そういうことを含めてのバランスのよさということで、3012-R Specialを私はとるし、
だからこそユニバーサルトーンアームとして唯一の存在とも思っている。
しかも私の目には、3012 Series IIよりも3012-R Specialが美しくみえる。
優雅ともいいたい。
今回ガラードの301との組合せをながめていて、
プレーヤーキャビネットが光をどこまでも吸収するような黒に仕上げられていたら──、
そんなことを想像していた。
目に映るのは、301と3012-R Specialとカートリッジ、そしてレコードのみ。
5月26日の野口晴哉記念音楽室レコード鑑賞会でのアナログプレーヤーは、
別項で書いているようにガラードの301にトーンアームはSMEの3012-R Special、
カートリッジはEMTのTSD15をアダプターを介して取りつけた。
昇圧トランス、ヘッドアンプは使わずに、
マランツのModel 7のPhono端子に直接挿している。
そのためシステム全体では逆相になっている。
このことも別項で書いているが、
東京に来て最初に買ったオーディオ機器が、3012-R Specialである。
当時、限定ということだったので、とにかく、このトーンアームだけは手に入れなければ──、
そのおもいだけで手にしたモノだ。
ステレオサウンドの試聴室でも、3012-R Proがリファレンストーンアームだった。
だからというわけではないが、今回、ひさしぶりに3012-R Specialに触れて、
やっぱり使いやすいトーンアームだな、よく出来たトーンアームだな、
3012-R Specialこそがユニバーサルトーンアームだな、
そんなことを思っていた。
それにレコードをかけている時も、盤面の上に弧を描いていく3012-R Specialは、
やっぱり美しい、とも思っていた。
高二の時に手に入れたオルトフォンのMC20MKIIと、
オーディオクラフトのヘッドシェル、AS4PLの組合せは、
私にとっての本格的なアナログディスク再生の一歩目と、
いまふりかえってみても、そういえる。
とはいっても、この時、プレーヤーは国産のダイレクトドライヴの普及クラスのモノだった。
もちろん、その上、つまりグレードアップを考えてたりはしていても、
そうそう簡単に、はっきりとグレードアップというかたちとなると、
高校生のアルバイトとこづかいでどうにかできるわけではなかった。
あれこれ、次のステップは──、そんなことを毎日のように思っていた。
あの頃の、ひとつの目標はマイクロの糸ドライヴだった。
RX5000+RY5500に、トーンアームにはオーディオクラフトのAC3000MC、
この組合せが目標だった。
あくまでも目標であって、現実的には、その下のモデルあたりとなるわけだが、
それだってすぐに手が届くわけではなかった。
マイクロの糸ドライヴ型はたしかに目標であったけれど、
同時に、いつかはEMTというおもいもずっと持っていた。
930stを、いつか手に入れる。
そんなことをおもっている日々が続いていた。
そこに登場したのが、トーレンスの“Reference”だった。
ステレオサウンド 56号の瀬川先生の文章に触れた者、
その時代に読んできた者にとっては、リファレンスは衝撃だったはずだ。
私には、そうとうに大きい衝撃だったし、
別項で触れているように、瀬川先生の熊本に来られた時に、
その音をかなりの時間を聴くことができた。
うちのめされた、とは、この時のことだった。
今回のOTOTENだけのことではないのだが、
気になることがあった。
トーンアームのインサイドフォースキャンセラーのオモリについてだ。
SMEのトーンアームのように糸の先にオモリをつけたタイプの場合、
なにかの拍子に、このオモリが揺れてしまうことがある。
このことに無頓着な人が少なくないように、昔から感じている。
今回のOTOTENでもあった。
私が座っているところからもはっきりとわかるくらいにオモリが揺れている。
気にしないのか──、
そんなふうに眺めていた。
音に影響しないのであれば、オモリが揺れていても気にしなければいいのだが、
このタイプのインサイドフォースキャンセラーをもつトーンアームを使っている人は、
自分でオモリを意図的に揺らしてみて、その音の違いを確認してみたらいい。
アナログプレーヤーを構成する部品のなかで、カートリッジは交換が簡単に行える。
オーディオマニアならば、カートリッジを複数個持っている人は大勢いる。
いまは、カートリッジはこれだけです、という人でも、
そこにたどりつくまでにはいくつものカートリッジを使ってきたはずだ。
けれどトーンアームとなるとどうだろうか。
トーンアームの比較試聴をしたことがある人は、それほど多くないはずだ。
まして若い世代となると、トーンアームの比較試聴をやったことのある人は、
もっともっと少なくなる。
同じカートリッジであってもプレーヤーシステムがかわれば、音はかわる。
プレーヤーシステム全体の比較試聴をしたことのある人は、そこそこいよう。
けれどトーンアームをつけ替えても比較試聴となると、どうだろうか。
私はステレオサウンドで働いていたから、トーンアームの比較試聴の機会にめぐまれた。
けれどそうでなかったら、どれだけのトーンアームの試聴ができただろうか。
昨晩のaudio sharingの忘年会で、私より若い世代の人との話で、
やはりトーンアームのこのことが話題になった。
カートリッジとターンテーブルはそのままでトーンアームの比較試聴の機会はない──、
そうだろうと思いながら聞くだけしかできなかった。
そういう機会を、いまのところつくることもできないし、
ここに行けばトーンアームの比較試聴ができるよ、というところはあるのだろうか。
私は知らない。
(その3)で、
2018年のインターナショナルオーディオショウで見たアナログプレーヤーのことを書いている。
聴いた、としないのは、聴く以前の製品であったからだ。
(その3)でも触れているが、このアナログプレーヤーで再生すると、
ウーファーが見たことのないくらい前後にフラフラする。
CD全盛時代になってからは、こういうことは基本的になくなったが、
アナログディスク全盛時代では、ウーファーのフラつきはあった。
アナログプレーヤーの低域共振によって発生する現象なのだが、
それにしても2018年に見たウーファーのフラつきぶりはひどかった。
このフラつきの発生原因であるアナログプレーヤーの製品名は書かなかった。
オーディオ雑誌でも、新製品紹介記事に登場してからは、
私の知る限りではほとんど登場していない。
今年のインターナショナルオーディオショウでは展示されていなかった。
なので、もう輸入されていないものだと思ってしまったところに、
この製品の値上げの情報が発表になった。
まだ輸入されていたのか? まずそう思った。
型番はそのままなのだから、大きな改良は施されていないと思われる。
とすれば、ウーファーのフラつきは、あのままのはずだ。
世の中には、ウーファーのひどいフラつきを見て、
低音がすごく出ている、と勘違いする人もいるようだ。
そういう人にとっては、このアナログプレーヤーは低音がよく出るということになるのか。
このアナログプレーヤー、MAG-LEV AudioのML1、
いまもウーファーはフラつくのだろうか。
いまも変らずだとしたら、輸入元の人たちは、そのことをどう思っているのか。
なんとも思っていないのだとしたら、製品以上に、そのことのほうが問題である。
オーディオテクニカのウェブサイト内に、
「レコード曲の思い出を求めて〈40代・女性〉」というページがある。
11月1日に公開されている。
40代とおもわれる女性がLPを手にしている写真が使われている。
この写真をどう受けとったらいいのだろうか。
盤面に指先で触れている。
オーディオテクニカは、
「レコード曲の思い出を求めて〈50代・女性〉」と
「レコード曲の思い出を求めて〈50代・男性〉も公開している。
こちらの写真では、盤面の縁を両手でもっている。
盤面には触れていない。
なので、あえて〈40代・女性〉では盤面に触れるような写真を撮り使っているのか。
40代の人ならば、
音楽をおさめたメディアといえばCDだった人のほうが多いのではないのか。
LPを知らない人、触ったことのない人もいよう。
だから扱い方を知らない人がいるのは知っている。
その上で、オーディオテクニカは、こういう写真を使っているのだろうか。
それにしても、こういう取り扱い方を載せてしまうのは、いただけない。
オーディオテクニカが、この写真を使っている理由が知りたい。
何も考えずの、この写真ということはないと思うのだが……。
老化と劣化は同じではない。
(その11)で触れている例は、どちらなのか。
そのことを考えてほしいし、
インターナショナルオーディオショウという場で、
アナログディスクが頻繁にかけられるようになっていることはけっこうなことだが、
同時に、CD全盛時に、この人たちは大事なことをどこかに置き忘れてきたのか、
それともアナログディスク全盛時代でもそうだったのか──、
そこで鳴っている音に真剣に耳を傾ければ、わかるはずだ。
今日、インターナショナルオーディオショウに行ってきたわけだが、
とあるブースでアナログディスクがかかっていた。
かなり高価なプレーヤーでの再生だった。
なのに奇妙なノイズがつきまとった音だった。
パチパチというスクラッチノイズではなく、ジョリジョリといった感じのノイズである。
ずっとつきまっているノイズだから、サーフェスノイズなのだろう。
だとしたら、こんなサーフェスノイズは聴いたことがない。
どう調整すれば(どう調整が失敗すれば)、
こういうジョリジョリといったノイズが出せるのか。
盤の状態がおそろしく悪いのかというと、そんな感じではない。
このブースのスタッフは、誰もこのノイズが気にならないのか。
こういうアナログディスク再生が行われていると、
悪い意味での老いということについて、あれこれ考えてしまう。
OTOTENでのDSオーディオのブースで、一つだけ確認したいことがあった。
けれど、それをリクエストするのは、さすがにどうかな、と思い何もいわなかった。
何を確認したかったのかというと、
ES001を使うことで偏心量を数値で確認できる。
そして減らすことで、音は良くなる。
偏心量を検出するときはもちろんディスクのレーベル上に、ES001がのっている。
ディスクをずらすときものっている。
偏心量がある値よりも小さくなって、もう一度再生するときものっている。
OTOTENでは、偏心量が大きいときも小さくなった時も、つねにES001がのっている。
ES001がのっている音しか聴けなかった。
私が聴きたかったのは、偏心量を小さくした状態で、
ES001がのっている音とのっていない音である。
いま書店に並んでいるオーディオ雑誌は、ES001を取り上げていることだろう。
誰がどんなことを書いているのかは知らないが、
ES001をのせた音、のせない音に言及している人がいるだろうか。
そしてES001の効果を絶賛しているようにも思う。
だがES001は、くり返すが測定器である。
偏心をなくしてくれるわけではない。
これまで感覚量でしかなかった偏心の度合を、数値で表してくれる測定器である。
そして、偏心による音の影響については、
昔からアナログディスク再生にまじめに取り組んできた人にとっては、
あたりまえすぎる常識である。
測定器に頼ることなく、すぐに対処できることでもある。
私はES001を評価しないわけではない。
測定器として捉えている。
測定器としてES001は、存在価値がある、と思っている。
ただいいたいのは、ES001を持ちあげている人で、
私と同世代、上の世代の人がいたら、
その人は、それまでただ漫然とアナログディスクを扱ってきた──、
と白状しているようなものだ。
そのことに気づかずにES01を高く評価しているのであれば、
それはもう老いでしかない。
ディスクの偏心に関しては、ステレオサウンド時代に、
井上先生から指摘されたことが一度ある。
アナログディスク関連機器の試聴の時だった。
当然だが、アナログディスクを何度もかけかえる。
そのうちの一回、「けっこうズレているな」と井上先生がいわれた。
ズレているとは偏心が大きいということである。
それでどうしたかというと、かけかえである。
これでまた偏心の大きいかけかたをしようものなら、
それは漫然とディスクを扱っている証左であり、
もしそんなことをしようものなら井上先生から怒られただろう。
一度目は偏心が大きくても二度目で偏心の少ないようにすればいい。
そこに測定器はいらないし、結局はどういうかけかたをするかである。
もちろん反対に、ほとんど偏心のないと思えるときも何度かあった。
そういうときはきまって井上先生は「いいところに決ったな」ときちんといってくれる。
これだけのことなのかもしれない、他人から見れば。
それでもそんな井上先生のことばがあったからこそ、レコードのかけかたである。
DSオーディオのES001は、それまで感覚量でしかなかったことを数値で示してくれる。
そういう経験があるからこそ、なぜディスクのかけかえをせずに、
ディスクの縁を指でチョンチョンと押すのだろうか。
なんとなくいじましい行為におもえるし、
偏心が大きかったら、スパッと一度やりなおす(かけかえる)ほうが、
見ている側としても潔く見えると思うのだが、どうだろうか。
これは私だけの感覚なのかもしれないが、
ターンテーブルプラッター上でディスクをずらすことは、
ディスク表面を傷つけるような感じがして、やりたくはない。
良質のシートがあれば傷つくことはないのだろうか、
なんとなく雑に扱っているようにも感じてしまう。
DSオーディオのES001は、スタビライザーというよりも測定器といったほうがしっくりくる。
ES001は、ディスクの偏心量を測定してくれる。
検出したディスクの偏心を少なくしていくのは、人の手(指)である。
DSオーディオのデモでは、ES001でディスクの偏心を検出後、
ディスクの縁を指で少しずつ押して、またES001で測定。
それで偏心量が減っているのか、増加したのかを判断。
ナカミチのDragon-CTがやっていたことを、人の指で行うわけだ。
この作業になれていなければ、指で押して、逆に偏心を増やすことにもなりかねない。
この作業をやっている人がどのくらい馴れていたのかはわからなかったけど、
偏心の仕方によっては、けっこうな時間をかけて指を押す作業をくり返していた。
それを見て私が思っていたのは、なぜディスクをかけかえないのか、だ。
指でこのくらいかな、とチョンチョンと押すくらいなら、
ES001を取って、ディスクも取って、もう一度ターンテーブルプラッターにのせる。
こちらの方がずっと早い。
そしてもう一度ES001をのせて測定してみればいい。
ディスクの偏心による音の影響は、なれれば、最初の音が出た時点でわかるものだ。
偏心量が大きい、とわかる。
ただ漫然と聴いていてはわからないかもしれないが、
偏心に注意して、同じディスクを何度もかけかえては、
その音の違いを意識して聴くようにしていれば、
今回は偏心が大きいな、とか、今回はうまく芯出しができた、とかわかるようになる。
もちろん偏心の量まではわからない。
ES001は、これまで偏心が大きいな、と感じていたのが、
どのくらいの偏心量なのかを数値で示してくれる。
その意味での測定器である。