Archive for category アナログディスク再生

Noise Control/Noise Designという手法(45回転LPのこと・その4)

最初に聴いたCDの音に、驚いたことは前にも書いている。
発表前夜、ステレオサウンド試聴室で聴いた小沢征爾指揮「ツァラトゥストラはかく語りき」、
この音は、いまもすぐに思い出せるほど強烈な印象を残してくれた。

パイオニアExclusive P3とマランツ(フィリップス)CD63。
ディスクのサイズがコンパクトになったのと同じように、
プレーヤーのサイズもコンパクトになっていて、まさにコンパクトディスクなわけで、
それでも肝心の音が冴えなければ、それで終りである。

でも違っていた。

Exclusive P3が色褪てしまった。
私だけが感じていたのではなく、そのとき試聴室にいた編集者全員がそう感じていた。

Exclusive P3はよく出来たアナログプレーヤーである。
いまでも中古市場で人気があるのも、そうだろうな、と思う。

それでもテーブルの上にポンと置いただけのCD63から出て来た音は、
技術の進歩を感じざるをえなかった。

この時のディスクは一枚だけだった。
短い試聴時間だった。
それだからよけいに印象に残っていた。

その後CDは正式に発表され、各社からCDプレーヤーが一斉に登場した。
レコード会社からのタイトルも増えていった。

CDプレーヤーの総テストもあった。
各社のCDプレーヤーをほぼすべて並べて聴いていると、
あの日の衝撃はそこにはなく、けっこう冷静に聴いていた。

そうなってくると、CDとLPの音の違いについて、
初めてCDを聴いた後に、編輯部の先輩と話したことと、
その内容は変化していく。

いまから30年ほど前のことになるわけだが、
LPの音は気持ちいい、ということになった。
なぜ気持ちいい音のことが多いのか。

「それはこすっているからだ」と言った。
続けて「オーディオに限らず、こするのは気持ちいい行為でしょう」とも言った。

半分冗談でも半分は本気でいっていた。

CDは非接触で、LPは接触。
デジタルなのかアナログなのかという変調方式の違いも音に大きく関係していても、
非接触か接触か、という違いもまた音に大きく関係している、と思ったからだ。

そして接触することによって生じるノイズがある。
サーフェスノイズである。

Date: 5月 17th, 2016
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(呼称)

CDが登場する以前、アナログディスクのことはLPと呼んでいた。
45回転の17cm盤のことは、シングル盤、もしくはEPと呼んでいた。

CDはコンパクトディスク(Compact Disc)の略である。
直径12cmで、LPよりもEPよりも小さく、片手で扱えるサイズだ。
確かにコンパクトであり、ぴったりの呼び方だと思う反面、
CDはサイズのことしか表していないことにも気づく。

CDという呼称が登場する前は、DAD(Digital Audio Disc)だった。
これだと、どういう方式で記録されているのかがわかる。

こんなことをいまごろ書いているのは、
LP、EPのことをアナログディスクと書くのであれば、
CDのことはDADと書くべきかも、と思っているからだ。

最近ではアナログディスクのことをVinylと呼ぶようにもなっている。
Vinyl(ヴィニール、ヴァイナル)は、盤の材質のことである。
アナログディスクをこう呼ぶのなら、CDはポリカーボネイト盤と呼ぶべきかもしれない、とも思う。

そう思いながらも、結局のところ、アナログディスクと書いているし、CDと書いている。

Date: 5月 14th, 2016
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(あるラジオを聞いていて)

数日前、ラジオでアナログディスクについて語られていたのが、偶然耳に入ってきた。
途中からだったし、短い時間だった。周囲の雑音も多いところだったから、
どこまで正確に聴きとれていただろうか、と思うところはあるけれど、
概ね、こんなことが話されていた。

在日ファンクのヴォーカル、浜野謙太という人が言っていたことだ。

CDはドメスティックな感じがして、家庭でひとりで聴く感じ。
アナログディスクはみんなに聴かせたい、みんなと聴く感じのするもの。

アナログディスク再生とCD再生。
そこには違いがある。
その違いをどう感じて、どう表現するか。

1982年にCDが登場して以来、
そういう文章、発言をどれだけ目にして耳にしてきただろうか。

それらをすべて読んできたとはいわないけれど、
かなりの数、見聞きしてきた。

それでも、今回の浜野謙太氏の発言は初めてだった。

CDは冷たい、アナログディスクはあたたかい──、
そんな表現だったら、取り上げたりはしない。

CDは、という括りには、リッピングしたデータも含まれているとは思う。
ヘッドフォン、イヤフォンで音楽を頻繁に聴く人は、この時代、多い。
この人たちをイメージしての、CDはひとりで聴く、という発言につながったのかも……、
そう考えもしたが、続くアナログディスクは……、の発言をきくとそうでもないという気がする。

私にとっては、アナログディスクもCDも、リッピングしたデータであっても、
その他のメディアであっても、家庭でひとりで聴くものであり、
その上でのCDとアナログディスクの違いがある。

多くのオーディオマニアは私と同じだと思う。
けれど在日ファンクの浜野謙太氏は、そうではない。

浜野謙太氏の捉え方は少数といえるのだろうか。
意外と多いのかもしれない。
どちらなのかは,いまのところわからない。

ただテクニクスのSL1200の人気、
SL1200のニューモデルの登場、
限定モデルがすぐに予約完売してしまったことなどが、
ここにつながっていくような気がしている。

そして、いまのアナログディスクブーム、そうなのかもしれない……、
そんな気もしてくる。

このことについては、もう少し考えていきたい。
とにかく浜野謙太氏の発言は、私にはとても意外だった。

Date: 3月 26th, 2016
Cate: アナログディスク再生

DAM45

DAM45の文字を見て、なんのことかすぐに思い出せる人は、私と同世代か上の世代の方たち。
DAMとは、第一家庭電器オーディオメンバーズクラブの頭文字であり、
DAM45とは、DAM頒布会用LPのことであり、45という数字があらわしているように45回転のLPである。

第一家庭電器はおもにFM誌に積極的に広告を出していた。
ステレオサウンドでは見なかったはずだ。
1970年代後半はFM誌全盛の時代だった。

週刊FM、FMfan、FMレコパルが出ていた。
私は主にFMfanを買っていた。
そこにも第一家庭電器の広告は、ほぼ毎号載っていた(と記憶している)。
そのくらいよく見ていた。

広告には必ず「マニアを追い越せ!大作戦」のキャッチフレーズがあった。
広告に掲載されていたのは、カートリッジ、トーンアーム、アクセサリーなど、
アナログプレーヤーに関係するモノがメインだった。

カートリッジに関していえば、ディスカウント店の先駆けのような感じだった。
カートリッジをひとつ買ってもそうだが、二個三個とまとめ買いをすればさらに安くなる。
だからといって単なるディスカウント店ではなかった。
だからこそのDAM45の制作がある。

第一家庭電器の広告を見るたびに、東京および周辺に住んでいる方をうらやましくも思った。
しかも年二回のキャンペーン期間中にカートリッジを購入すれば、非売品のDAM45がもらえる。

そのDAM45の中に、グラシェラ・スサーナのLPもあったのを憶えている。
ほんとうにうらやましかった。

グラシェラ・スサーナだけでなく、カラヤンのDAM45もあった。
そのことからわかるのは東芝EMIがDAM45の制作に協力していることだ。

いま第一家庭電器も東芝EMIもない。
私のところには グラシェラ・スサーナのDAM45があるだけだ。

私と同世代、上の世代のオーディオマニアのレコード棚にはDAM45が何枚かあるのではないだろうか。
DAM45を手にして何をおもわれるだろうか。

懐しいなぁ……、最初に来るであろう。
それから、どちらの会社ともなくなったぁ……、がくるだろう。

これまではそこまでだった人が多かったように思う。
でも、いまはインターネットで、DAM45の制作に携われてきた人たちが、
公式といえるウェブサイトを公開されている。
当時の広告も公開されている。

もちろんそれぞれのレコードについての詳細なデータもある。
当時よりも、いまのほうがDAM45について詳しく知ることができるようになった。

Super Analogue DAM45

Date: 3月 12th, 2016
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーの設置・調整(その29)

アナログプレーヤーとコントロールアンプの位置関係は、
ケーブルの引き回しに関係してくる。

何度も書くが、アナログプレーヤーは微弱な信号を取り扱っている。
オーディオ機器でいちばん微弱な信号ともいえる。
だからこそ細心の注意を払う。

1970年代、アナログプレーヤーの出力ケーブルとして、
低容量型と低抵抗型が、同じメーカーから発売されていた。

低容量型ケーブルはMM型、Mi型用であり、
低抵抗型ケーブルはMC型用である。

同軸ケーブルという構造上、
低容量と低抵抗を両立させることは難しい。
だからMM型には低容量、MC型には低抵抗という使い分けが常識だった。

低抵抗のケーブルは、いうまでもなく低容量のケーブルよりも静電容量が大きい。
インピーダンスが高いMM型だと、この静電容量が負荷となりハイカットフィルターが構成され、
容量が大きければ可聴帯域内で減衰が始まってしまう。

MC型でも同様にハイカットフィルターが構成されるが、
出力インピーダンスが低いため、カットオフ周波数は十分に高い周波数となる。

むしろ問題はケーブルの抵抗である。
ケーブルの抵抗値が高ければ減衰器として作用してしまう。

MM型よりも出力電圧の低いMC型の信号が、アンプもしくは昇圧トランスの入力に着く前に減衰してしまう。
ケーブルの抵抗値が大きいほどげ減衰量も大きくなる。

だからMM型には低容量、MC型には低抵抗のケーブルということになる。
そしてどちらのケーブルにおいても、ケーブルの長さが容量、抵抗と関係している。

短ければ容量、抵抗は低くなり、長ければ大きくなる。

同じ低容量のケーブルであっても長さが半分になれば静電容量は半分になる。
長さが倍になれば静電容量も倍になる。
抵抗に関しても同様だ。

Date: 3月 11th, 2016
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーのアクセサリーのこと(その20)

アナログプレーヤー関連のアクセサリーは、いまもいろんなモノがあるが、
昔はアナログディスク全盛だったから、もっと多くのアクセサリーが出ていた。

使ったこともあるモノもあれば、まったく縁のなかったモノもある。
スタイラスタイマーと呼ばれているアクセサリーがあった。
ピカリング、ナガオカ、スウィングなどから出ていた。

カートリッジの針先はダイアモンドならば、寿命は約300時間といわれていた。
毎日一枚のLPを聴けば、一年で針先は寿命を迎えることになる。

まめな人ならば、その日その日、何枚のLPをかけたかを記録していくだろうが、
私はそんなことはしなかった、
私と同じで、そんなことはめんどうだと思う人がいるから、
スタイラスタイマーというアクセサリーが登場したのだろう。

まわりにスタイラスタイマーを使っている人はいなかった。
実物を見たこともない。
特に欲しいとも思わなかった。

いまも欲しいとは思っていない。

無関心だったわけだが、ひとつ気付いたことがある。
カートリッジを交換しない人にはスタイラスタイマーは使用時間の目安となるが、
頻繁にカートリッジを交換する人には対応していないはずだ。

まめな人ならば、カートリッジの数だけスタイラスタイマーを用意して、
カートリッジの交換とともに、スタイラスタイマーも交換する。
カートリッジAにはスタイラスタイマーA、カートリッジBにはスタイラスタイマーB……、という具合にだ。

いまならばスタイラスタイマーはiPhoneと組み合わせることで、
センサーとiPhone(アプリ)とに分けられる。
アプリ側で使用カートリッジを登録し、
カートリッジ使用時にどのカートリッジなのかをメニューから選ぶ。

そうすれば使用時間のトータルだけでなく、
どのカートリッジをいつどの程度使ったのかもグラフや数字で管理・表示できる。

Date: 12月 9th, 2015
Cate: アナログディスク再生

2065年のアナログプレーヤー

マイノリティ・リポートは、フィリップ・K・ディックの短編小説「少数報告(The Minority Report)を、
スティーブン・スピルバーグが監督した作品で、2002年に公開されている。
トム・クルーズが主演だったから、観た人もけっこういると思う。

映画で描かれていたのは2054年の世界だった。
車は自動運転がすでに実用化されているし、道路も立体的になっていた。
広告も紙に印刷されたものから、
ディスプレイに、それもいまそこを歩いている人を対象としたものを表示するようになっていた。

広告の技術でも駅の改札でも、網膜スキャンが常に行われていた。
映画の公開から10年以上が経ち、自動運転が話題になっているし、
スマートフォンの普及、インターネットの広告など、映画で描かれていた世界に近づいている。

今年から映画「マイノリティ・リポート」のテレビドラマがアメリカで放映されている。
日本でもHuluが配信しているので、いまのところ一話と二話が見れる。

舞台は映画の11年後の2065年、いまから50年後である。
この「マイノリティ・リポート」の制作にはMITの研究所が強力しているということだ。

そこで描かれる社会は、MITによる予測といっていいのかもしれない。
ここにアナログプレーヤーが登場する。
50年後のアナログプレーヤーである。

主人公のダッシュ・パーカーと組む刑事のララ・ヴェガの自宅に、アナログプレーヤーはある。
これもおそらくMITが予測したモノなのだろう。

レコードはターンテーブルプラッターに置くスタイルではない。
プラッターはないようだ。
レーベル部分をクランプして、ディスクは垂直状態で回転している。

クランパーは底部から垂直に立っていて、ピックアップも兼ねているようだ。
このアナログプレーヤーが登場するのはわずかなシーンで、
特に技術的な説明はされていない。

なので推測になるが、現在のような機械式のピックアップではなく、
レーザーによるピックアップを採用しているようだ。
クランパーから紅い光がもれているから、おそらくそうであろう。

それから垂直状態のディスクの左右の縁を挟むかのように、アクリル製と思われる板が立っている。
これがどういう役割なのかははっきりとしない。
ディスクをホールドしているのかもしれない、
回転しているディスクのスタビライザー的なものかもしれない。

それとも単なる飾りかもしれない。

今後、このアナログプレーヤーが登場するのかはわからない。
ただいえるのは、MIT、マイノリティ・リポートの制作陣は、
50年後もアナログディスクは聴かれ続けていると予測していることは、はっきりといえる。

Date: 11月 19th, 2015
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーのアクセサリーのこと(その19)

スタビラザーにはコレットチャック式のモノもあった。
日本製ではマイクロのST20(銅製、重量800g、13000円)、
オルソニックのDS250、DS200G、DS500Gなどがあった。
オルソニックのスタビラザーは型番の数字が重量を表していた。

DS500Gは圧着力1500gと発表されていた。
ST20にはオーディオクラフトのSR6と同様の金属製のリングが三枚附属していた。

SR6は、これそのものがなくても他のもので代用できる。
圧着力を高めて補正リングを何枚か使っても、
外周部の反りを抑え込むには、外周部を抑えるのが確実だ。

トリオのスタビラザーDS20(28000円)が、そのもののスタビラザーだった。
DS20は真鍮削りだしの内周スタビラザーと、同じく真鍮削りだしの外周スタビラザーからなる。

内周スタビラザーは、いわゆる一般的なスタビラザーで、
外周スタビラザーは外径34.8cm、内径29.8cm、重量1.6kgのリング状で、
これでレコードの最外周を抑え反りを補正するもの。

DS20には内周・外周スタビラザーの他に、
直径29.78cmのアクリル製の外周スタビラザー位置決めゲージがついていた。

レコードをターンテーブルにのせたら、レコードの上に位置決めゲージをのせる。
次に外周スタビラザーをのせ、位置決めゲージを取り去り内周スタビラザーをのせる、という手順が、
レコードをかけかえるごとに求められる。

位置決めゲージを使わずに外周スタビラザーをのせればオフセットしてしまう。
そうなればターンテーブルプラッターのダイナミックバランスが崩れてしまう。
これを防ぐには正しく外周スタビラザーをのせる必要がある。

この行為を面倒だと感じない人にとっては、DS20は手放せないアクセサリーとなるだろう。
でも、そういうい人はどのくらいいる(いた)のだろうか。
私はレコードのかけかえごとにそんなことをくり返すのは面倒だと感じる。

試聴室という場ではまったくそう感じないけれど、試聴室から出たところでは感じ方は違ってくる。

Date: 11月 19th, 2015
Cate: アナログディスク再生

アナログプレーヤーのアクセサリーのこと(その18)

私が初めて買ったスタビライザーは、オーディオクラフトのSD33だった。
真鍮製で重量は730g。価格は7500円だった。

SD33にした理由は、このころのオーディオクラフトのつくる製品は、
大きなメーカーのアクセサリーとは、なにか違うものを感じさせるところがあった。

当時のオーディオクラフトの社長であった花村圭晟氏が、自身のためにつくったモノだったからかもしれない。

当時は各社からスタビライザーが出ていた。
材質も違っていたし、形状も違う。
それらの違いによって、スタビライザーを使ったときの音は、違ってくることは容易に想像できた。
では、どれにするのか。
価格的には大きな差はなかった。
スタビライザーが試聴できるオーディオ店もなかった。

そうなると直感しかない。

SD33にはSD33B(7000円)という、重量を追加できるアダプターもあった。
SD33とSD33Bにはしっかりと嵌合するようにネジが切ってあった。

その他にSR6(1500円)も用意されていた。
これは反り補正リングで、金属製の平ワッシャーが数枚入っていた。

レーベルが盛り上っているレコードならばスタビライザーの使用である程度は反りを抑えられる。
けれど、そのレコードを裏返してのせれば周囲が持ち上っているわけだから、
スタビライザーに反りの補正は期待できない。

SR6はターンテーブルシートとレコードのレーベルの間に挿入して使う。
スピンドルに、レコードの反り具合に応じてSR6を挿す。
反りがひどければ枚数を足していき、スタビラザーの重量で反りを抑えるというものだ。
抑えの重量が不足と思えたらSD33Bを足すことで、SD33+SD33Bの重量は1460gになる。

SD33Bを買うことはなかったが、SR6は買った。
使ってみると、よく考えられたアクセサリーだと実感できた。

Date: 7月 20th, 2015
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その34)

ステレオサウンド 51号の五味先生のオーディオ巡礼にも、
フィデリティ・リサーチのFR7は登場している。

51号の訪問先はH氏。
数年後にステレオサウンドの原田勲氏だと知ることになるが、
このときはまだH氏がどういう人なのかは知らなかった。
五味先生の知りあい、それもかなり親しい知りあいだということしかわからなかった。

このH氏が、EMTの927DstにFR7を取りつけられている。
スピーカーシステムはヴァイタヴォックスのCN191、アンプはマランツのModel 7と9のペア。

ここで鳴っていた音がどうでもない音であればFR7のことが気になることはなかった。
五味先生はH氏の音について、こう書かれている。
     *
〝諸君、脱帽だ〟
 ショパンを聴いてシューマンが叫んだという言葉を私は思い出した。このあと、モニク・アースなるピアニストの演奏で同じパバーヌを聴いたためかも知れない。さらにバックハウスでベートーヴェンの作品一〇九、ブタペスト・カルテットで作品一三一、魔笛をクレンペラーで、グリュミオーのヴァイオリンでヴィオッティの協奏曲、更にはヴィヴァルディのヴィオラ・ダ・モーレなど、こちらの好みを知っていて彼は私の気に入りそうなレコードばかり掛けてくれたが、たいがい口のわるい私を承知でこれだけ、こちらの聴き込んだ曲を鳴らせるのは、余程、自信があったからだろうが、それがけっして過信ではないことを私は認めた。この「オーディオ巡礼」では、奈良市南口邸の装置で、サン=サーンスの交響曲第三番の重低音を聴いて以来の興奮をおぼえたことを告白する。
     *
FR7が並のカートリッジではないことがわかる。
だから51号を読んでからというもの、瀬川先生のFR7の評価が気になっていた。
だがFR7に対して、瀬川先生は評価されていない──、というよりも無視にちかい。

なぜなのか。
いまとなっては確かめようはないが、FR7のカタチにあると私は思っている。

47号の新製品紹介のページで初めてFR7の写真を見た時もそう感じていた、
でもこの時は、まだぼんやりとした感じであった。
それからしばらくしてFR7の音を聴くことができた、ステレオサウンドの試聴室である。

音については書かない。
FR7を聴いたということは、FR7がトーンアームに取りつけられたところを見たということである。
ここで47号で感じていたものをはっきりと認識できた。
そして、やっぱりそうだったのかもしれない、ともおもっていた。

Date: 7月 20th, 2015
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その33)

カートリッジにはヘッドシェルと一体になったモノがある。
EMTのTSD(XSD)15がそうだし、テクニクスのEPC100Cもそうである。

オルトフォンのSPUも、Gシェル、Aシェルどちらも本体をカートリッジ本体取り外して、
アダプターを介すれば他のヘッドシェルに取りつけられるといっても、
ヘッドシェル一体型のカートリッジということになる。

カートリッジ本体だけであれば、ヘッドシェルを選択できる。
音のよいヘッドシェルを選ぶ、ということになるのだろうが、
ヘッドシェルの選択においては指かけのつくりはひじょうに重要なポイントになってくるし、
なによりもカートリッジを取りつけて、さらにトーンアームに取りつける。
そしてカートリッジをレコード盤面上におろしてトレースしていく姿もまた重要となる。

一体型カートリッジでは、だから単体のカートリッジ、単体のヘッドシェル以上に、
デザインが優れたモノであってほしい。
なにしろ変更できないのだから。

フィデリティ・リサーチからFR7というカートリッジが登場した。
ステレオサウンド 47号での新製品紹介のページでの取り上げ方も力がはいっていた。
それまでのフィデリティ・リサーチのカートリッジFR1とは、
大きく違う発電構造、それにFR7はヘッドシェル一体型で、
音もデザインも大きく変貌を遂げた、といえた。

FR7の発電構造図を見ていると、確かにユニークなカートリッジではあるし、
ぜひ聴いてみたいという気持になるけれど、
FR7の写真を見ていると、うーん、どうなのだろう……、という気持になっていた。

内部構造が FR1とは大きく異っているためああいう形状になるのは理解できても、
あのデザインが好きにはなれなかった。

47号の特集はベストバイだった。
FR7は、井上卓也、上杉佳郎、菅野沖彦、長島達夫、山中敬三の五人が三星をつけている。
FR7に星をつけていないのは岡俊雄、瀬川冬樹のふたりだけだった。

岡先生は59号のベストバイで、FR7、FR7fの両方に三星をつけられているから、
47号のベストバイにおいては、試聴が間に合わなかったのが理由だったのだろう。

けれど瀬川先生は、やはり星をつけられていない。

Date: 7月 4th, 2015
Cate: アナログディスク再生

電子制御という夢(その32)

テクニクスがもしSL10、SL15といったLPジャケットサイズのアナログプレーヤーを開発していなければ、
ビクター、ソニー、デンオンと同じように、電子制御のトーンアームを出していただろうか。

SL10はリニアトラッキング方式で、電子制御である。
ただし一般的なリニアトラッキング方式では、
ストレートのトーンアームパイプがある。

SL10とほぼ同時代の他社のリニアトラッキングアームのプレーヤー、
ヤマハのPX1、パイオニアのPL-L1のように。

テクニクスのジャケットサイズでは、
同じリニアトラッキング方式ではあっても、このパイプはない。

テクニクスがSP10との組合せを前提としたリニアトラッキングアームを開発したとしたら、
どんな形になっていただろうか。
パイプのないリニアトラッキングになっていたのだろうか。

パイプがなかったとしたら、
パイプに起因する問題もなくなる。
つまり低域共振の問題もほとんど無視できるはずであり、
そうなると他社の電子制御のトーンアームで行っていた低域共振の制御は不要となる。

Date: 6月 5th, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その8)

私は(その4)で、
ゲイルのGT2101は大小の三角形から成り立っている、と書いた。

こう書いたのは、GT2101のカタチを想像しやすいようにであり、
ゲイルのGT2101のカタチは本来的には二重円(◎)である。

円の外周を三分割する。
それぞれの弧の向きを反転させる。
つまり内側にカーヴを描くように反転させれば、GT2101の三角形になる。

ターンテーブルプラッターが二重円の内側、
ベースが二重円の外側。
それぞれを三分割して、弧を反転させたカタチがGT2101である。

そこに黒い円盤がのり、回転する。
つまり二重円(◎)の内側の円が黒に反転するわけだ。

GT2101を最初見た時には、こんなことには気づかなかった。
いまごろ気づいた。

GT2101のデザイナーの意図がどうだったのかは知りようがないが、
私は、いまGT2101のカタチを、こう解釈している。

Date: 6月 2nd, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その7)

フランスのメトロノームからカリスタが登場したのはいつごろだったのか。
忘れてしまったけれど、ステレオサウンドでカリスタの写真を見て、
ゲイルのGT2101だ、と思ったことは憶えている。

非常に高額で、音もいいという評判のカリスタだけど、
GT2101が登場したときの衝撃を味わった者には、どうしても二番煎じとうつってしまう。

ターンテーブルとCDトランスポートという違いがあるけれど、
あとから登場したのだから、より洗練したモノであってほしい、と思ったことも憶えている。

GT2101の衝撃が大きかったのは、デザインだけではなかった。
私にとって、ジョン・カールがエレクトロニクス部分を設計していることも、理由のひとつである。

GT2101は10〜99rpmまで、0.1rpmステップで回転数を設定できる。
本体とカールコードで接続されている円筒状のコントローラー上部中心にあるボタンを押せば、
33 1/3rpmに固定可能なことは知っていたけれど、それ以上の操作方法に関しては、
当時のオーディオ雑誌からの情報ではよくわからなかった。

いまは「Gale GT2101」で検索すれば、画像だけでなく動画もすぐに見つかる。
今回、その動画を見て、こうやって回転数を変えるのか、その操作に関しても驚きがあった。

こんなアナログプレーヤーが1977年か78年ごろに登場している。
ゲイルのデザイナーは誰だったのか、どんな人だったのか。

Date: 6月 2nd, 2015
Cate: アナログディスク再生

建造物としてのアナログプレーヤー(その6)

カートリッジの振動系以外は絶対に振動してはならない、
これをアナログディスク再生の理想とすれば、
レコード盤はターンテーブルプラッターに吸着することが、
より理想的であるわけで、レコード盤を浮すなどもってのほかということにもなる。

けれど世の中に無共振ということはありえないのだから、
それに振動を完全にコントロールすることも不可能なのだから、
ノイズも音のうち、と同じで、振動(共振)も音のうち、という考え方もできる。

究極を追い求めながらも、現実ではどこかで折り合いをつけることも求められる。
どこで折り合いをつけるのかは、人によって違ってきて当然であり、
どちらが正しいとか間違っているとか、他人が干渉すべきことではない。

アナログディスク再生の面白さは、こういうところにもある。
人それぞれ与えられた環境は違う。
その環境の中で、どう折り合いをつけていくのか。
また自分の感性とどう折り合いをつけるのか。

そのことに対して、いろいろなアプローチがやれるのがアナログディスク再生である。
こうでなければならないと決めつけてしまうのも、その人の自由ではあるけれど、
アナログディスク再生はそれでは面白さの半分も味わえないままになってしまうかもしれない。

ゲイルのGT2101、トランスクリプター、シネコのプレーヤーシステムのように、
レコード盤を浮すやり方は試そうと思えば簡単に試せることである。

確かにレコード盤の振動はターンテーブルシートに密着させるよりも増えることは、
実測データが示しているが、そのことがどう音に影響するのかは、
どんな本を読んでも書いてないし、それにケース・バイ・ケースでもある。

こうでなければならないと決めつけてしまったら、経験値を高めることはできない。
アナログディスク再生に必要なのは、高価なアナログプレーヤーやカートリッジではない。
使い手のアナログディスク再生への深い理解であり、
これを得るには、思い込みに捕われることのない耳(感性)とあらゆることを試してみる好奇心ではないだろうか。