岩崎千明氏のこと(続×七・Electro-Voice Ariesのこと)
スピーカーとしては、声というものの性格から、中域とか高域が金属製の音がするものは避ける。つまりJBLとかアルテックとかタンノイのように、金属の振動板を使ったスピーカーは、音色的に合わないと思うのです。ほかの例でいうと、ピアノにいいスピーカーあるいは弦にいいスピーカーということでも、やはり振動板の材質の音色が必ずかかわってくるんですね。そうすると、ここでは、高分子化合物のもの、マイラーとかフェノールとかそういうタイプの振動板を使ったスピーカーがいいだろう、ということになります。
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ステレオサウンド 41号とともに「コンポーネントステレオの世界 ’77」は、
はじめて買ったオーディオ雑誌でもあるから、それこそ一字一句噛みしめるように読んでいた。
しかも、まだ13歳。
ここに書かれていることに素直にのみこんでいた。
となると、しっとりとした、情感あふれる女性ヴォーカルを、
聴くもののこころにひっそりと語りかけてくるように鳴らしたいのであれば、
中高域のダイアフラムは金属よりもフェノール系がいい。
しかも井上先生は、ヴォーカルの定位感をシャープに出すためには、
場合によってはホーン型のほうがいい、ともいわれている。
キャバスのBrigantinはスコーカー、トゥイーターはドーム型ではあるものの、
スコーカーの前面にはメガホン状のホーンがとりつけられている。
しかも、いわゆるリニアフェイズ配置のスピーカーシステムである。
このことはずっと頭の中にあった。
だから41号、「コンポーネントステレオの世界 ’77」の1年後のステレオサウンド 45号で、
エレクトロボイスのPatrician800について知ったとき、
このスピーカーこそが、理想にもっとも近いスピーカーシステムである、とみえてしまった。
ダイアフラムはフェノール系で、しかも本格的なホーン型。
さらにいえば4ウェイでもある。
Patrician800のアピアランスは、中学生の若造にはさほどいいものには感じられなかったけど、
でも、その内容については、これ以上のものはない、
このPatrician800をベースにリニアフェイズにすることはできないものだろうか……、
そんなことを夢想していたことがある。