賞からの離脱(その11)
“State of the Art”ということばがオーディオ機器について使われるということは、
工業製品に対して”State of the Art”が使われる、ということである。
基本的にオーディオ機器は工業製品といえる。
どんなに高価なオーディオ機器であっても、少量生産品・限定生産品であっても、工業製品である。
工業製品であるオーディオ機器だけに”State of the Art”ということばを使うことを、
どう解釈するかは、選考する人によって大きく違っている面も存在する。
ステレオサウンド 49号ではじまったState of the Art賞の選考委員は9人。
みなステレオサウンドという場で共に仕事をし、オーディオについて語ってこられているから、
そこに共通認識は、49号ではじめて登場する”State of the Art”ということばについてもあった、といえよう。
けれど、”State of the Art”は、
ステレオサウンドのもうひとつの、やや似ている面ももつ企画、Best Buyほどはっきりしたものではない。
Best Buyでも、その解釈は多少は人によって違う面はあっても、大筋では一致している。
“State of the Art”はBest Buyとはあきらかに違うもの、ということははっきりしている。
けれど、そこから先になると、もう選考者ひとりひとりの、オーディオに対する考え方のあらわれ、といえる。
“State of the Art”ということばについて考えれば考えるほど、
現実のオーディオ機器と”State of the Art”のもっている意味とのギャップに直面することになる。
これは井上先生が書かれているとおりだとおもう。
菅野先生は厳密な意味で”State of the Art”を選ぶとすれば、
ごくごく数が限られてしまい、
現実には、その厳密な意味合いを中心において拡大解釈をして選出することにならざるを得なかった、
と書かれている。