オーディオの「本」(読者のこと・その2)
そのころのステレオサウンドに初心者用の記事があったわけではない。
そういう基礎的な知識に関しては、他の雑誌なり技術書を読めばいいわけで、
そういうことをステレオサウンドに求めようとは思っていなかった。
ステレオサウンド 41号の特集は「世界の一流品」である。
誌面に登場しているオーディオ機器は、いくつかは比較的安価なものもあったけれど、
多くは高価なものが占めていた。
マークレビンソンのLNP2もあった、JBLの4343も取り上げられていた(表紙でもあった)。
EMTの930st、ヴァイタヴォックスのCN191など、13歳の私にはまったく手の出ない価格のモノばかりであっても、
いつかはLNP2、4343……、そんなことを夢想しながら読んでいた。
これらのモノをいつ買えるようになるかなんて、
13歳の私には見当もつかなかった。
漠然と10年後くらいには買えるのかな……、とおもいながらステレオサウンドに夢中になっていた。
オーディオに関心をもち始めるときも人によって違う。
私と同じように10代前半で、という人もいれば、
もっと早い時期からという人も20代になってから、という人もいる。
私がそうだったからだけど、
ステレオサウンドに関係している人ならば、
編集者も筆者も、やはり10代のころからオーディオにのめり込んでいたのではないだろうか。
そうだとしよう。
そして、問いたいのは、いま10代の自分がいたとして、
果して、いまのステレオサウンドをわくわくしながら読んでいる、といえるのかということだ。
私は「五味オーディオ教室」からオーディオにはいってきた10代だったから、
いまのステレオサウンドには、あのころのステレオサウンドと同じような面白さは感じない、とおもう。
いま私はステレオサウンドとは関係のない人間だから、
それはそれでいい。
でもいまステレオサウンドに書いている筆者、編集者の人たちは、
オーディオに興味をもち始めた自分を振り返って読者として想定してみてほしい。
そのころの自分をわくわくさせる「本」をつくっているのか、と。