私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その21)
“Reference”という名称をもつアナログプレーヤーは、
トーレンスのリファレンス以外にもいくつかある。
けれど、私にとって”Reference”と呼べるプレーヤーはトーレンスのリファレンスだけであり、
あとのリファレンスは、「これもリファレンスなのか……」という感じである。
トーレンスのリファレンスは木製のベースも含めると、その重量は100kgを超えている。
外形寸法はW62×H36×D51cm。かなりの大型プレーヤーであるばかりでなく、
全体的に量感のある外観をもつ、実に堂々としたプレーヤーである。
こまかくみていくと、振動をコントロールするためにアイアングレイン(鉄の粒)、合板なども使われているが、
圧倒的にアルミのかたまり、といえる。
惜しみなく物量を投入した設計だし、
ただ物量を投入しただけのプレーヤーではないからこそ、
リファレンスの音は、これと肩を並べるプレーヤーはごくわずかに存在していても、
これを優るプレーヤーはない、と私は断言しておく。
トーレンスのリファレンスよりも高価なプレーヤー、能書きの多いプレーヤーは存在する。
けれど、そのどれも私の琴線にはまったくひっかからない。
私がアナログディスク再生に求めているものとは、じつに正反対の音を出す。
その手の音を、いい音、新しい音と持て囃す人がいる──。
けれど、私にはまったく関係のないことでしかない。
私にとって、それは新しい音でもなければ、いい音でもないからだ。
ステレオサウンド試聴室での、井上先生によるDS2000の試聴のときまで、
アナログプレーヤーにはある程度の物量は必要だし、
物量をうまく投入したプレーヤーでなければ聴けない音がある以上、
トーレンスのリファレンスの大きさは、大きいと思っても、
それは音のために仕方のないことだと思ってもいた。
けれどリファレンスが同一空間にあるだけで、
すくなくともスピーカーと聴取位置とのあいだに、視覚に入る範囲にあれば、
その存在が、これほど音に影響を与えているとは、まったく思っていなかった。
だから毛布を一枚リファレンスにかけただけの音の変化の大きさに驚き、
ある程度の大きさの金属のかたまりが音響的にどう影響しているのか、をはじめて実感した。