私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その20)
SMEの最初のトーンアーム3012が、オルトフォンのSPUのためにつくられたのだから、
Series VがSPUの良さをこれほどよく引き出したのは、いわば当然の帰結なのだ、
と、そう信じられるほどによくSPUが鳴ってくれた。
Series VがSPUのために開発されたトーンアームなのかどうかは、はっきりとしない。
けれど、そんなことは音を聴けばわかる。
そう断言できるほどに、SPUの本領が、ほぼすべて発揮された音をやっと聴くことができた。
Series Vをトーレンスのリファレンスに取り付けて、SPUを鳴らしてみたら……、
ということは、不思議なことにまったく思わなかった。
私の性格からして、そう思いそうなのに、
SPUにとってSeries Vが最良のパートナーであるのと同じように、
Series VにとってSX8000IIが、すくなくともこのときは最良のパートナーであった。
おそらく、これはいまもそうではないか、と思う。
これを書きながら、Series Vをリファレンスと組み合わせたら……、と想像している。
もちろん素晴らしい音が聴けるのは、間違いのないこと。
けれど……、と思い出すことがある。
いまから27年前のこと。
ステレオサウンドの試聴室で、井上先生による新製品の試聴を行っていた。
ダイヤトーンのスピーカーシステムDS2000の取材だった。
このときのことは、ステレオサウンド 77号に載っている。
すこし引用しておこう。
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最初の印象は、素直な帯域バランスをもった穏やかな音で、むしろソフトドーム型的雰囲気さえあり、音色も少し暗い。LS1(注:ビクターのスピーカースタンドのこと)の上下逆など試みても大差はない。いつもと試聴室で変わっているのは、試聴位置右斜前に巨大なプレーヤーがあることだ。この反射が音を濁しているはずと考え仕方なしに薄い毛布で覆ってみる。モヤが晴れたようにスッキリとし音は激変したが、低域の鈍さが却って気になる。置台が重量に耐えかねているようだ。
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試聴位置右斜前にあった巨大なプレーヤーとは、トーレンスのリファレンスのことだ。