ショルティの「指環」(続・スコア・フィデリティ)
ここでいいたいスコア・フィデリティは、別項にて書いている、
録音におけるコンサート・フィデリティとスコア・フィデリティの違い──、
そこでのスコア・フィデリティとは少し異る。
ここでいうスコア・フィデリティとは、
CDの直径が11.5cmから12cmに変更されたことによって増すこととなったスコア・フィデリティである。
簡単にいえば、収録時間に関することだ。
CDの直径が12cmに決ったことで収録時間は約74分になり、
ベートーヴェンの第九交響曲がCD1枚、
つまり片面で収まるようになった。
1楽章から4楽章まで、ディスクのかけかえをやることなく聴き続けられる。
なんだ、そんなことかと思われるかもしれない。
でも、家庭においてパッケージメディアで音楽を聴くうえで、
これは大事なことである。
LPではベートーヴェンの第九は、ほとんどが2枚組だった。
4面を必要としていたから、最後まで聴くには3回、レコードをかけかえなくてはならない。
この手間が面倒だと感じているわけではない。
私の世代はLP(アナログディスク)で育ってきているから、
2枚のLPのかけかえを面倒だとは思ったことはない。
でも、ベートーヴェンが第九を作曲した時代は、レコードなんてものは存在しなかった。
音楽を聴くということは、目の前に演奏者がいて、彼等が目の前で演奏している音楽を聴く、ということだった。
ベートーヴェンは(ベートーヴェンに限らずほかの作曲家も)、
レコードの収録時間を気にして作曲していたわけではない。
レコードで、家庭で、演奏者のいない空間で音楽が聴かれるようになるとは、まったく想像していなかった。
クラシック音楽を、いまの時代、オーディオを介して聴くということはそういうところとも関わってくる。