Date: 8月 17th, 2012
Cate: 正しいもの
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正しいもの(その9)

そしてバーンスタイン/ニューヨークフィルハーモニーによる、このマーラーの第四番は、
丸尾氏の大切な愛聴盤であり、この一枚のLPを「快く聴きたい一心」で、
パトリシアン800のバイアンプ駆動というシステムのチューニングを行われていた。

しかも丸尾氏は年に2回ほどニューヨークフィルハーモニーを聴きにいかれる。
シンフォニーホールの1階の真ん中のぐらいの積で聴く音に、
バーンスタイン/ニューヨークフィルハーモニーのマーラーを近づけようとされていたわけだ。

その成果である丸尾氏のシステムで鳴り響いたバーンスタイン/ニューヨークフィルハーモニーのマーラーを、
菅野先生はこう表現されている。
     *
ほんとうに熟成されたブランディのような、まろやかな音で鳴ってくれました。
いま聴いていて思い出したんですけれども、ニューヨーク・フィルのチェロ、ヴィオラあたりに、たしかにこういうテクスチュアが感じられたと思います。たしかに、ニューヨーク・フィルは、丸尾さんが再生されたような音を持っています。
     *
ここで鳴ったマーラーの第四番の独奏ヴァイオリンが「死の舞踏」であったのかは、
そのことについての発言はないからなんともいいようはないものの、
すくなくとも五味先生のいわれた「アパッチの踊り」ではなかったことはわかる。

しかしだからといって、上杉先生の鳴らし方と丸尾氏の鳴らし方を、
ここで比較してどちらが上といったことはいえない。

いえるのは、丸尾氏は、
バーンスタイン/ニューヨークフィルハーモニーのマーラーのためだけにシステムをチューニングされていた、
ということである。

このバーンスタインの旧録のマーラーの第四番は、お世辞に優秀録音とはいえない。
菅野先生は、このレコードについてこう語られている。
     *
このレコードに本来入っている録音は、非常にギラギラしたアメリカのオーケストラといった印象のものなんですね。その妥当とは思われない録音のレコードから、本来あるべきサウンドバランスにきわめて近い音を引き出したという丸尾さんの力量には敬意をはらいつつも、そのことのために、ほかのすべてのレコードの音を犠牲にしてよいのだろうかという疑問もどうしようもないわけです。
     *
この菅野先生の発言にもあるように、丸尾氏がかけられた他のレコード──
シモーネ指揮のヴィヴァルディ(エラート)、アルゲリッチによるバッハ(ドイツ・グラモフォン)、
ベルリン弦楽合奏団のロッシーニの三つの弦楽ソナタ(ビクター)などは、
バランスを欠いたハイ下り、ロー上りであった、といわれている。

だからこそ、バーンスタイン/ニューヨークフィルハーモニーのマーラーが、
菅野先生をして「あの録音がこういう音で聴けるとは思わなかったなあ」といわしめたわけだ。

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