ハイ・フィデリティ再考(続×二十二・原音→げんおん→減音)
池田圭氏の単段アンプは、伊藤先生による真空管アンプをタブローとすれば、
エチュード的アンプともいえる。
だからといって、単段アンプに関心がないわけではなかった。
単段アンプの記事は、けっこう楽しく読んでいた。
単段アンプは池田圭氏のオリジナルのアイディアではない。
池田氏自身、記事に書かれていたはずだが、ウェスターン・エレクトリックの25B型アンプからの発想である。
25Bは205D出力管を2本使っている。
ただし1本は整流管として使っているため信号増幅部は205Dが1本のみで、
入力にトランスがあり205Dのスウィングに必要な電圧まで昇圧している。
これをプッシュプルにしたアンプが42Aである。
このアンプも入力トランスのすぐ後に205Dという構成である。
これらのアンプがいつの時代のアンプなのか、はっきりした年代を私は知らないけれど、
相当に古いものであることは確かである。
ウェスターン・エレクトリックがプッシュプル増幅を考案し特許を取得したのが1915年のことらしい。
1935年には300Aプッシュプルの86Cが登場しているし、300Aの登場は1933年。
だから1910年後半から20年のあいだに登場したのだろう。
いわばアンプの原型といえる単段アンプ。
それを池田圭氏は1980年代に実際に追試され、25Bの登場からほぼ100年後の今日、
最新の増幅素子を使った単段アンプ(SIT1)が登場している。
しかも型番にもなっているSITは、Static Induction Transistorの略で、
三極管に近い特性をもつトランジスターであることが、
SIT1は、25Bアンプの100年後の姿と、思わずいいたくなるところでもある。
205Dは、いうまでもなく直熱三極管だ。