ハイ・フィデリティ再考(続×二十一・原音→げんおん→減音)
ファーストワットのSIT1、SIT2に関する資料を眺めていると、
つい1980年代のラジオ技術で一時期流行っていた(といっていいだろう)単段アンプを思い出す。
単段アンプとは池田圭氏が始められた、と記憶している。
文字通り増幅段が1段しかない真空管アンプのことである。
池田氏は6GA4を使われていたように記憶している。
6GA4は三極管であっても、300BやEdとは違い、スウィングに必要な電圧はそれほど高くなくてもよい。
五極管なみの入力電圧で定格出力が取り出せる。
少し話が脱線するが、よく出力段の前段の増幅管のことをドライバーと呼ぶ人がいる。
私は伊藤先生のシーメンスのEdのプッシュプルアンプの記事で真空管アンプの自作に強い関心をもった男だから、
その記事に書かれてあったことは、当時は完全には理解できなかったことでも、
とにかく書いてあることは、ほぼそのまま憶えようとしていた。
その記事には、こう書いてあった。
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余談になりますが、クラスA、或はABのパワー管の前段の増幅管はドライバーとは称しません。終段がクラスBの場合、つまり入力側のトランスの2次側に多量のグリッド電流が流れる構成の時、前段にクラスAの電力増幅管を使用した時にのみ、これをドライバーと呼ぶのです。終段がクラスAの場合の前段は電圧増幅です。電圧増幅の動作ではドライバーとはいいません。
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だから伊藤先生は出力管をドライブする、といった表現はもちろん使われない。
スウィングする、という表現を使われる。
話を戻そう。
6GA4はそういう真空管でも、たとえばCDプレーヤーの出力をそのまま入力しただけでは電圧不足になる。
だから池田氏は入力にトランスをいれて必要な電圧にまで昇圧したうえで出力管だけのアンプをつくられた。
池田氏だけでなく、ラジオ技術の他の筆者の方も追試されていた、と記憶している。
単段アンプは、これ以上簡略化できない構成である。
ファーストワットのSIT1の概略図をみると、このアンプの構成もまた、これ以上簡略化できないものとなっている。