Date: 12月 21st, 2011
Cate: 「オーディオ」考
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「オーディオ」考(その5)

アクースティック蓄音器を、音を奏でる家具としてとらえてみた場合、
モノーラル時代に数多く登場してきたコーナー型のスピーカーシステムも、
家具としての見方が可能なようにも思えてくる。

アクースティック蓄音器に電気が加わり、いわゆる電蓄になり、
さらにそれまでひとつにまとめられていた構成パーツが単品パーツとして独立していく。
SPがLPになり、その傾向はますます強くなっていく。
もちろんこの時代にも電蓄と呼ばれるモノはあったし、その頂点にあるのがデッカのデコラであり、
デコラが、オーディオが家具だった時代の最後ともいえるだろう。

電蓄から、プレーヤー、アンプ、スピーカーシステムが独立して存在していくことで、
オーディオ(蓄音器といったほうがいいだろう)が家具だという印象も、同時に解体されていったのであろうが、
それでもスピーカーシステムに関しては、その大きさ、存在感からなのか、
まだまだ音を奏でる家具という印象が色濃く残っていた、と私は思う。

モノーラルLP時代の、いま名器と呼ばれているスピーカーシステムの多くはコーナー型である。
コーナー型である理由は、
部屋のコーナーをホーンの延長として利用して低音域の再生の拡充をはかることである、となっている。
たしかにオーディオ的・音響的にはそうであろうが、
家具としてスピーカーシステムをとらえた場合には、
それはコーナー型というのが必然的な形態ではなかったのか、と思えてくる。

タンノイのオートグラフ、JBLのハーツフィールド、エレクトロボイスのパトリシアン、
その他にも同時代のコーナー型スピーカーシステムはみな大型。
1954年にARのスピーカーシステムがワーフェデールの大型スピーカーシステムを公開試聴で負かすまでは、
充分な低音域を確保するためには大型化するのはさけられなかった。

大型であれば、それだけ部屋にあれば目につくことになる。
スピーカーシステムは音を鳴らさないときは、ほとんど何の役に立たない。
箱なのに、なにかを収納出来るわけでもない。
そんなモノが部屋の中にごろんとあったら、オーディオに関心のない家人はどう思うだろうか。
邪魔物でしかないはずだ。

だから大型スピーカーシステムほど、できるだけ部屋の中にあっても邪魔にならない場所、
つまり部屋のコーナーに、いわば押し遣られる。
そして家具として美しくなければならない。
これらの要求から生れてきたのが、
ハーツフィールドであったり、オートグラフ、パトリシアンなどのコーナー型スピーカーシステム──、
こんな想像も成りたつのではないかと思うのだ。

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