Noise Control/Noise Designという手法(その26)
Discoveryのバスレフポートは2本、径も長さも異っている。
材質はアルミで、指ではじくとチーンと、きれいな音で鳴る。
特にダンプはしていない。
もっともDiscoveryの発表は2000年ですでに10年以上が経過しているので、細部に変更が加えられていて、
もしかするとバスレフポートの処理も変っている可能性がないわけではないが、
この部分に関しては、おそらくいまもダンプはしていないと思う。
そして、この部分が、Discoveryをこの項で採り上げる理由である。
Discoveryのバスレフポートは聴き手の方を向いていない。
とはいえ、バスレフポートからさまざまなノイズが放射されていることは、他のバスレフ型と同じである。
このバスレフポートからのノイズをどう処理するのか。
アルミ製のバスレフポートはきれいな音で鳴いている。
これも、実のところ一種のイズである。
ノイズをすべて悪だと捉えるのであれば、このアルミ製のバスレフポートをすぐさまダンプすることだろう。
それにあえてエンクロージュア底部に露出させないだろう。
なぜ露出させ、鳴きをそのまま残しているのか。
そして2本のバスレフポートの鳴きは径と長さが違うため、微妙にズレている。
この2つのバスレフポートの鳴き(ノイズ)によって、
バスレフポートから放射されるノイズをマスキングしている。
つまりコントロールできないノイズ(バスレフポートからの放射音)を、
コントロールしている(できる)ノイズ(バスレフポートのきれいな鳴き)でマスキングすることで、
聴感上のS/N比を、文字通り聴感上改善している。
これは私の推測にしかすぎないし、
ウィルソン・ベネッシュの開発陣が、どういう意図でバスレフポートをアルミでつくり露出させたのか、
その理由については何も知らない。
それでも「ノイズ」という観点からDiscoveryというスピーカーシステムをみていけば、
以上書いてきたことが私のなかでは浮び上ってくる。
不要輻射をひとつずつなくしていくことも手法ではある。
それを真面目に行ってきたのが、ある時期の日本のメーカーのつくるスピーカーシステムだった。
そうやって聴感上のS/N比は確実に向上していった。
だが、不要輻射を抑える、なくしていくという考え方だけでは対処できないノイズもある。
そういうノイズに対しては、
コントロールしている(できる)ノイズによってマスキングするのは有効な手法ではないだろうか。