私にとってアナログディスク再生とは(その41)
レコードのカッティングの経験は、当然のことだけど一度もない。
だから、カッティングに関する音のこととなると、断片的なことからもうほとんどすべて想像するしかない。
だからどうも堂々巡りのようになってきているな、と自分でも感じつつ、
それでもハーフ・スピード・カッティングについては優れた方式であるんだろうけども……、という思いが拭えない。
ハーフ・スピード・カッティングではなく、通常のスピードでのカッティングのほうがいいのではないか。
どうしてもそう思ってしまうのは、なぜなのか。
速度はエネルギーである。速度が増せばエネルギーは増すことになる。
アナログディスクの場合、再生の速度は毎分33 1/3回転だから、
カッティング時にハーフ・スピード・カッティングであろうと、33 1/3回転でのカッティングであろうと、
再生条件が同じならば、そのディスクから得られるエネルギー量は同じであるはず。
ならば、より正確にカッティングできるであろうハーフ・スピード・カッティングが理屈としてはいい。
ダイレクトカッティング盤でもプリエコーが生じるのは、後からカッティングされる音溝によって、
前にカッティングされている音溝をわずかとはいえ変形させるからであり、
これはゆっくりカッティングしていけば、変形の度合いは少ないはずだ。
カッター針にヒーターが取りつけられているため針が温められ、
その熱はラッカー盤にもうつる。そしてしばらく冷えるのに時間がかかるはず。
まだ熱が残っているとき、つまりラッカー盤が多少なりとも柔らかくなっているときに
隣接する溝に大振幅の信号が刻まれたら変形するであろうことは、容易に想像できる。
ハーフ・スピード・カッティングでは通常の半分の速度で回転しているわけだから、
ラッカー盤の温度が下るまでの時間的余裕が、通常よりも倍ある。
これだけでも変形の度合いは減ると思われる。
とするとハーフ・スピード・カッティングがよいはずなのに、
マーク・レヴィンソンは、ステレオサウンド 45号のインタヴューで、
ハーフ・スピード・カッティングの方が優れた面があるとしながらも、
その時点ではハーフ・スピード・カッティングを行っていてない、と語っている。
この記事からは、その理由は読みとれない。
なぜレヴィンソンはハーフ・スピード・カッティングを行わなかったのか。