WADAX Studio • Player Collection(その3)
音と風土の関係性は、確かにあった。
あった、と過去形で書いてしまうほど、いまはどうなのだろうか、と私でも思うわけだが、
少なくとも私がオーディオを始めたころは、あった。
だから、あれこれおもっていた。
バルバラを聴くならばフランスのスピーカー、
ケイト・ブッシュを聴くならばイギリスのスピーカー、
それもバルバラならばフランス盤でフランスのカートリッジ(その頃、日本には輸入されていなかったが、あったのだろうか)、
ケイト・ブッシュならばイギリス盤でイギリスのカートリッジ。そんなふうにして聴いてみたいと妄想していた。
そこで私の場合、グラシェラ・スサーナは? となる。
グラシェラ・スサーナの日本語の歌は、日本のスピーカーなのか。
グラシェラ・スサーナはアルゼンチン人。
アルゼンチンには、オーディオメーカーはどんなのがあるのか、アルゼンチンのスピーカーは、どういうモノなのか──、
これらをすごく知りたかった時期があった。
1970年代、調べる術を持っていなかったし、知りもしなかった。
アルゼンチンのスピーカーで聴いてみたい、と思いながらも、アルゼンチンはスペイン語。
グラシェラ・スサーナも、タンゴ、フォルクローレはスペイン語で歌っている。
ならばスペインのスピーカーは? となる。
Rotel Domusというメーカーのスピーカーシステムが、輸入されていた。
Model 175、Model 400、Model 600、Model 800というラインナップだった。
いずれも密閉型のブックシェルフ型、Model 175が2ウェイ、ほか三機種は3ウェイ。
ちなみに輸入元は、ローテル。
どんな音だったのか。何の情報も当時は得られなかった。
何の変哲もないスピーカーのように、モノクロの小さな写真を見て、そんなふうに感じていた。
輸入品としては安価な製品だった。それでも、あの頃、グラシェラ・スサーナのタンゴ、フォルクローレを、
このブランドのスピーカーで聴いてみたかった。
そのおもいを、いまも引き摺っているのだろうし、
スペインの音楽家、パブロ・カザルス、パコ・デ・ルシア、
この二人の演奏に惹かれている人ならば、
スペインのオーディオ、音を聴いてみたいと思うのではないだろうか。