五条件(その7)
五味先生の「オーディオ愛好家の五条件」。
①メーカー・ブランドを信用しないこと。
②ヒゲのこわさを知ること。
③ヒアリング・テストは、それ以上に測定器が羅列する数字は、いっさい信じるに足らぬことを肝に銘じて知っていること。
④真空管を愛すること。
⑤金のない口惜しさを痛感していること。
ここでは④の「真空管を愛すること」について書きたい。
もう三十年ちょっと前の話になるが、あるオーディオマニアと話していた。
その人は私よりも五つぐらい上の人で、有名私大を出ている。
なのに、この人は、唐突に「五味先生もマッキントッシュを愛すること」と、
「オーディオ愛好家の五条件」で書かれているでしょ、と言ってきた。
この人のいうマッキントッシュとは管球式アンプのマッキントッシュではなく、
トランジスター化されたマッキントッシュなのである。
開いた口がふさがらない、とはこういう時のためのものなのか。
ほんとうにそう思ってしまった。
言った本人は大真面目である。
「オーディオ愛好家の五条件」のなかに、マッキントッシュのMC275のことが出てくる。
けれど、だからといって、「真空管を愛すること」がどうすれば、その人のなかでは、
「マッキントッシュを愛すること」に変換されていくのか。
あまりにもアホすぎて、何も言わなかったが、
仮にそうしたら、その人はどう返してきただろうか。
行間を、私は読んでいる──、おそらくそう言ってきただろう。
どんなに何度も読み返しても、
行間から「マッキントッシュを愛すること」を読みとるのは無理である。