オーディオ機器の付加価値(その16)
高校生だった私が、いつかはリファレンスという夢を持てたのは、
リファレンスが限定生産ではなかったからだ。
あのころ、私が憧れていたオーディオ機器は、
JBLの4343、マークレビンソンのアンプ、スレッショルドのSTASIS 1、
トーレンスのリファレンスにEMTの927Dstなど、どれもそうだった。
現行製品で、限定生産品ではなかった。
このことは、とても重要だ。
高価なモノになれはなるほど、限定生産かどうかは、さらに重要なこととなってくる。
作り続けられていれば、いつかは自分のモノとすることができる──、
そういう夢を持てる。
けれど、限定数十台とか、最近の特に高価なオーディオ機器はそんなだったりする。
おいそれとは手を出せない価格というだけでなく、
すぐに決心しないと、買えなくなってしまいますよ、といわんばかりの売り方、
そんなふうに思ってしまうのは、買えない者の僻みとは思っていない。
もちろん、高価なオーディオ機器はずっとつくり続けなければならないとはいわない。
けれど、限定生産ということはやらないでほしいし、
一年や二年で製造中止にすることもやめてほしいだけである。
オーディオ機器は、一部の人にとっては投資の対象となっているようだ。
以前、この項で取り上げたナカミチのTX1000の例は、まさにそうだといえる。
2019年にヤフオク!に8,500,000円で出品した人、
8,500,000円で落札した人、
2020年に10,000,000円で出品している人がいる。
TX1000のアナログプレーヤーとしての実力を知っているならば、
この価格がいかに法外か、ということはわかる。
けれど、そんな実力とは無関係なところで、投資の対象となってしまえば、
こんなことになってしまう。