真空管アンプの存在(と取り巻いていること・その2)
パワーアンプから保護回路を取り外した音を、
ステレオサウンド時代に一度聴いたことがある。
もちろんメーカー製の、かなり高額なパワーアンプだった。
保護回路が音を悪くしている──、とは昔から言われつづけている。
だからジェームズ・ボンジョルノは頑なに保護回路をつけなかった。
そのためのリスクもとうぜんあるわけで、
最悪の場合、日本市場から徹底ということだって起りうる。
でも保護回路を外した音を聴いてしまうと、
ボンジョルノが譲らなかったのも理解できる。
売ってオシマイ、という商売のやりかたしかしないオーディオ店であれば、
音さえよければ、というアンプを、ためらいもなく売るであろう。
客も、そのアンプの音に満足していれば、それでも商売といえば商売なのだろう。
けれど、マッキントッシュのゴードン・ガウがいっていた、
「quality product, quality sales and quality customer」。
どれかひとつ欠けても、オーディオの世界はダメになってしまう──。
quality sales(クォリティ・セールス)は志をもつ販売店といいかえてもいい。
志もつオーディオ店は、満足だけでなく安心も、顧客に提供したい、と考えているはずだ。
満足と安心。
保護回路を外したアンプの音は、たしかに満足を与えてくれる。
けれど、安心はその分、というかかなり大きく損われる、ともいえる。
ボンジョルノのアンプが好きな私は、使ってきた。
The Goldも使っていた。
毎日、聴いていれば動作はそうとうに安定していた。
それでも何を思ったのか、何も考えてなかったのかとしかいいようがないが、
というよりも何も考えていなくても、そんなことはやらないのに、
その日は、なぜだかThe Goldの電源が入ったままで、
コントロールアンプの電源を落してしまった。
スピーカーを壊してしまった。
でも、これは完全な私のミスである。
The Goldの肩を持つわけではないし、
ボンジョルノの考えに100%賛同するわけではないが、
きちんと自分でアンプの調子を注意深く見ていけて、
場合によっては故障する前に劣化している部品を交換するくらいのことができれば、
ある程度の安心は、自分でなんとかできる。
とはいえそんなこと面倒だし、自分には無理、という人も少なくない。
そういう安心ではなく、手間いらずの安心。
故障しにくく、故障した際にもスピーカーを巻き添えにせず、
修理に出してもすぐに戻ってくる。
これも大事な安心であり、
このことを大事にするオーディオ店もあるわけだ。