ボンジョルノのこと、ジャーマン・フィジックスのこと(その75)
アクースティックの楽器のなかで、
ピストニックモーションで音を発しているのがあるだろうか。
なにひとつない。
昔のアクースティックの蓄音器の、いわゆる変換機としての性能は低い。
けれど、当時の人は、その音を聴いて驚いたり、満足していた。
アクースティックの蓄音器の音は、何度か聴く機会があった。
ヴィクトローラかクレデンザは、
置ける場所とそれだけの経済的余裕があれば、欲しい。
アクースティックの蓄音器を聴いている時に、
ふとこれがもしピストニックモーションで音を発する構造だとしたら、
ここまでいい音がする、と感じただろうか。
そんなことを考えたことがある。
ライス&ケロッグによる世界初のコーン型フルレンジユニットは、
もちろん基本的にはピストニックモーションなのだが、
当時の振動板の剛性を考えれば、中高域における分割振動は決して少なくなかったはず。
この6インチ口径のフルレンジユニットの再生周波数帯域は、
100Hzから5kHzほどであったらしいが、
完全なピストニックモーション領域は、どれだけだっただろうか。
人の声もアクースティックの楽器も、
ピストニックモーションで音を発しているわけではないが、
だからといってスピーカーがピストニックモーションであってはいけない──、
とは考えていない。
生の楽器と同じ発音構造でなければならない、とは思っていない。
それでもピストニックモーションこそ唯一とするのは改めるべきだろう、
とは考えている。