TIDALという書店(その11)
AppleからQuickTimeが発表されたのは1991年。
私がQuickTimeによる動画を、Macで最初に見たのは、
ボイジャーが出していたエキスパンドブック(電子書籍)での、
ビートルズの動画だった。
モノクロの小さなサイズでの再生だった。
おーっ、と思った。
でも、それ以上に、何倍もおーっと思ったのは、
1998年か1999年のストリーミング機能によるジョブスの基調講演だった。
当時はまだアナログモデムでインターネットに接続していた。
56kbpsという、いまでは信じられないほどの遅さなのだが、
これでもリアルタイムで基調講演を見ることができた。
ウインドウのサイズは小さい。
画質も悪い。動きも滑らかとはいえない。
しかも回線が不安定になると切断される。
深夜2時3時に、なんどか接続しなおしながら、最後までみていたことを思い出す。
このときは、技術の進歩というものを実感できたし、ほんとうに昂奮した。
すごい時代が来た、というよりも、すごい時代が来る、という昂奮だった。
回線がデジタルになり、高速化され安定すれば──、
当時、あの基調講演をリアルタイムで見ていた人は、そう感じたに違いない。
ストリーミングではカクカクした動画であっても、
たとえば映画の予告編がQuickTimeムービーでダウンロードができるようになっていた。
20数MBの予告編動画をダウンロードするのに、
アナログモデムで二時間前後かかっていた。
途中で失敗することもあった。
それでもけっこうな予告編をダウンロードしては見ていた。
楽しめるだけの画質だったからだ。
この時、音楽を売ることが変っていく予感が生まれた、といってもいい。