CR方法(その16)
「五味オーディオ教室」にこう書いてあった。
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くり返して言うが、ステレオ感やスケールそのものは、〈デコラ〉もわが家のマッキントッシュで鳴らすオーグラフにかなわない。クォードで鳴らしたときの音質に及ばない。しかし、三十畳のわがリスニング・ルームで味わう臨場感なんぞ、フェスティバル・ホールの広さに較べれば箱庭みたいなものだろう。どれほど超大型のコンクリート・ホーンを羅列したって、家庭でコンサート・ホールのスケールのあの広がりはひき出せるものではない。
──なら、私たちは何に満足すればいいのか。
音のまとまりだと、私は思う。ハーモニィである。低音が伸びているとか、ハイが抜けているなどと言ったところで、実演のスケールにはかないっこない。音量は、比較になるまい。ましてレンジは。
したがって、メーカーが腐心するのはしょせん音質と調和だろう。その音づくりだ。私がFMを楽しんだテレフンケンS8型も、コンソールだが、キャビネットの底に、下向けに右へウーファー一つをはめ、左に小さな孔九つと大穴ひとつだけが開けてあった。それでコンクリート・ホーン(ジムランのウーファー二個使用)などクソ喰えという低音が鳴った。キャビネットの共振を利用した低音にきまっているが、そういう共振を響かせるようテレフンケン技術陣はアンプをつくり、スピーカーの配置を考えたわけだ。しかも、スピーカーへのソケットに、またコードに、配線図にはない豆粒ほどのチョークやコンデンサーが幾つかつけてあった。音づくりとはそんなものだろうと思う。
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「五味オーディオ教室」を読んだのは中学二年の時。
いまから四十年以上前である。
これを読んでいなければ、電波科学の記事のことも忘れてしまっていただろう。
テレフンケンのS8のスピーカーへのソケットやコードにつけてある、
《配線図にはない豆粒ほどのチョークやコンデンサー》の正体ははっきりとはわからないが、
小山式CZ回路と同じだった可能性もある。
世界には同じことを考えついている人間が三人はいる、とのこと。
そうだとおもうことは、私にもいくつかあった。
よく知られる発明のいくつかの歴史を繙いてもそうである。
ならばテレフンケンのS8についている豆粒ほどのチョークやコンデンサーと、
小山式CZ回路が同じである可能性は、意外にも高いように感じてもいる。
そうだとすれば、そうとうに古くからある技術(テクニック)の一つということになる。
CR方法の試してみたいところは、まだまだある。
たとえばCDプレーヤーのピックアップ周りがある。
モーターがあり、ピックアップがあり、それを移動させるためのコイルがある。
これはちょっと面倒だから、やるかどうかはなんともいえないが、
他にも試したいところで、割とすぐにできるところはある。
まだまだ楽しめそうである。