Date: 10月 31st, 2020
Cate: 老い
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老いとオーディオ(とステレオサウンド・その10)

菅野先生からこんな話をきいたことがある。
まだステレオサウンドにつとめている時だったから、30年以上前になる。

あるオーディオメーカーが、従来の音から脱却するため、
ブランド・イメージを一新するために、
このメーカーとは異る音を実現しているメーカーから優秀な技術者を引き抜いてきた。

ただ引き抜いてきただけでは、不十分だということで、
設計・開発だけでなく、部品の調達から製造ラインに関しても、
この人にかなりのところまでまかせた、とのこと。

にも関らず実際に出来上ってきたオーディオ機器は、
そのメーカーがそれまでつくってきた製品と同じ音のイメージで、
わざわざ引き抜いてきた技術者が以前在籍していたメーカーの音は、そこにはなかったそうだ。

頭で考えるならば、これだけやれば、そのメーカーの音というよりも、
その技術者が在籍していた以前のメーカーの音になるはず、である。

なのに、結果はそうではなかった。
繰り返すが、これはたとえ話ではなく、実際に、日本のメーカーで起ったことである。

なぜ、そうなったのかは、誰にもわからないのだろう。
結局は、組織の音を、その優秀な技術者(個人)は崩せなかった、ということ。

組織と個人では、つねにそういう結果になってしまうのだろうか。

二年ほど前に、別項でこんなことを書いている。
 ①替えの利かない〝有能〟
 ②替えの利く〝有能〟
 ③替えの利かない〝無能〟
 ④替えの利く〝無能〟

「左ききのエレン」というマンガに出ていた、会社員の分類だった。

菅野先生の話に出てきた他社の優秀な技術者は、替えの利く〝有能〟な人だったのではないのか。
替えの利かない〝有能〟な人だったならば、その会社の音は変ったのか。

菅野先生の話をきいた時には考えなかったことなのだが、
優秀な技術者が引き抜かれた会社の音は、その後、どうなったのだろうか。
おそらく変化しなかったはずだ。

オーディオ雑誌の編集者も同じだろう。

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