オーディオ機器の付加価値(その9)
高校二年の時に、サンスイのAU-D907 Limitedを買った。
修学旅行に行かずに、その積立金と新聞配達のアルバイトで貯めたのとをあわせて、
なんとか、この限定販売のプリメインアンプが買えた。
高校生にとって、175,000円のアンプはそうとうに大きな買物だった。
しかも、くり返すが限定のアンプである。
この限定という言葉に、弱い。
私だけでなく、マニアならば多くの人がそうであろう。
もしAU-D907 Limitedが、
AU-D907IIといった型番で登場し、限定でなかったとしたら……。
もちろん中身はまったく同じだとして、あの時、手に入れた喜びに変りはないのか──、と思う。
ここでのLimited(限定)ということは、付加価値だったのか。
それだけでなくAU-D907 Limitedは、ステレオサウンド 53号で、
「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」に登場している。
菅野先生が書かれている。
実をいうと、この53号の菅野先生の文章を読んだことで、
ますますAU-D907 Limitedが欲しくなっていた。
第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に選ばれているプリメインアンプ。
49号の一回目で、プリメインアンプは何も選ばれていない。
AU-D907 Limitedが、プリメインアンプとして初めて選ばれたわけである。
当時の私は、このことがすごく嬉しかったというよりも、なんだか誇らしかった。
そういうプリメインアンプを自分は使っている、ということ。
しかも限定であるから、そんなに多くの人が使っているわけでもない。
まして高校生で、ということになると、ほんとうに少なかったはずだ。
そのことがなんとか誇らしく感じていたわけだ。
いまふり返ってこうやって書いていると、バカだなぁ、と思うけれど、
高校二年の私は、本格的なオーディオ機器を手にした、自分のモノにした、ということが、
嬉しくて嬉しくて、ノートにAU-D907 Limitedのスケッチ(落書き)をよくしていた。
賞に選ばれたプリメインアンプ。
そのことは、当時の私にとって大事な付加価値だったのかもしれない。